刑法(詐欺罪)

詐欺罪㉚ ~「祈禱料・占い料の受領に関する詐欺」を判例で解説~

祈禱料・占い料の受領に関する詐欺

 詐欺罪(刑法246条)について、祈禱料・占い料の受領に関する詐欺の判例を紹介します。

大審院判決(大正3年10月14日)

 祈禱をすることにより相当の報酬を得ても、必ずしも犯罪とはならないが、真に祈禱する意思がなく、また自分では信じていないのに効果があるように装い、相手方を欺き、不正の利益を得るためにこれを利用するのは、詐欺罪を構成するとしました。

最高裁決定(昭和31年11月20日)

 この判例で、裁判官は、

  • 祈祷師が自己の行う祈祷が、実は全然治病の効能なく、また、良縁、災難の有無、紛失物の行方を知る効もないことを信じているにかかわらず、如何にもその効があるように申し欺いて祈祷の依頼を受け、依頼者から祈祷料等の名義で金員の交付を受けたときは詐欺罪を構成するものというべきである
  • 世の中には、ある特定の祈祷、うらないの類、または守札の類を受けると不幸を免かれ、もしくは普通の方法では分からない人や物の所在、運命等が分かり、あるいは幸福に恵まれることがあり得ると考える人々、すなわち、その効能の可能性を多少でも信ずる人々もあり、反対にかような可能性を信じない人もあり得る
  • そして、人は、自らかような可能性を信じないのに、あるいは可能性の有無を意に介しないで、しかも右祈祷等を請う場合もあり得る(例えば、効能を信じる家人、関係者ないし世人の恐怖をのぞき、安心をさせるため安産守札、地鎮祈願を受けるごときである)
  • かような場合には、その祈祷等は依頼者にそれだけの利益を与えるのであるから、それが達識者から見て意味ないことであっても、公序良俗に反しないかぎり、祈祷者等が依頼者より謝礼を受けることを約することはもとより自由である
  • かように依頼者が効能を期待せず、かつ祈祷者において依頼者のかような意中を察して有料の祈祷等を約する場合には、たとえ祈祷者が、あらかじめ依頼者に対し、それが効能あるもののように申し述べても、彼は依頼者が効能がなくても祈祷料をだすことを知っているかぎり、それだけでは彼は依頼者を欺く意思を有するものということはできない
  • また、祈祷者等が、自ら効能の可能性が多少でもあることを信ずる場合には、依頼者に対し効能があると、余りに誇大でなく申し述べても、彼を欺く意思があるものということはできない(効能を余りに誇大に、しかも相手方を欺くことのできる程度に、吹聴するときは、その点で欺く意思があるといえるであろう)

と判示し、祈祷料の受領に関する詐欺罪の考え方を示すとともに、詐欺罪の成立を認めました。

名古屋高裁判決(平成14年4月8日)

 僧侶が、被害者らの悩みごとの根源を鑑定・識別し、これを解決できるように装って、供養を勧め、供養料を支払わせた行為は詐欺罪に該当するとしました。

 事案の内容は、宗教法人K寺の管長である被告人が、K寺代表役員Aら多数のK寺(その系列下のF寺を含む)所属の僧侶らとともに、K寺が作成した、霊能による病気治癒などの悩みごとの解決を標ぼうとした勧誘文書を頒布し、これを見て、抱えている悩みごとの解消を願って、F寺を訪れた相談者から、供養料の名目で金銭をだまし取ろうと企て、A及びK寺所属の僧侶らと共謀の上、平成6年12月から平成7年4月までの間、前後11回にわたり、悩みごとの解消を願って相談に訪れた被害者らに対し、被害者らに取り付いている霊が不幸や災難の根源であるか否かや取り付いている霊の種別を識別したり、供養することでその霊を成仏させて不幸や災難の根源を解消して、被害者らの悩みごとを解決する霊能力がないのに、これがあるかのように装って、「どういう霊が災いをしているか見てみます。」などと前置きした上で、被害者らに変死者や水子の霊が取り付いており、供養料を支払って供養してこれらの霊を成仏させれば、不幸や災難の根源が解消し、被害者らの悩みごとが解決できる旨のうそを言って被害者らを欺き、その旨誤信した被害者12名から、供養料の名目で合計2150万円をだまし取った事案です。

 裁判官は、

  • Bら実行行為者は「霊能」がなく、K寺が頒布した「ちらし」を見て、F寺に相談に訪れた被害者らの悩みごとの根源が水子霊や変死霊等の「霊障」であることを鑑定・識別する能力はなく、「霊障」を供養して成仏させて被害者らの悩みごとを解決する能力のなかったこと、それにもかかわらず、「霊能」によって被害者らの悩みごとの根源を水子霊や変死霊などの「霊障」等であると鑑定・識別したと装って被害者らにその旨断言したこと、K寺の定める供養料を支払って供養すれば、それらの「霊障」等を成仏させ、被害者らの悩みごとを解決できる旨断定したこと、被害者らは、いずれも「ちらし」の記載内容やBら実行行為者の言動等から、同人らには「霊能」があり、悩みごとの根源は、同人らが「霊能」によって鑑定・識別したとして指摘した「霊障」であり、供養料を支払ってF寺で供養すればこれらの「霊障」を成仏させて悩みごとを解決できると信じ、数十万円から数百万円の供養料を支払ったこと、被害者らが、Bら実行行為者に「霊障」がなく、供養料を支払ってF寺で供養をしても悩みごとを解決できないことを知っていたならば、このような高額の供養料を支払わなかったことが認められる
  • これらの事実によれば、Bら実行行為者に詐欺の故意があったことは明らかである
  • 「御祈願書」は、いずれも被害者らが、Bら実行行為者に前記のとおりだまされた結果、錯誤に陥り誤信していた時点で作成したことが認められるのあって、信仰心から作成したものでないことは明らかである
  • F寺では、悩みごとの相談に訪れた者らから、「『供養料』発生システムの概要」に沿った方法により、供養料の名目で現金を交付させたり銀行口座へ振り込ませていたこと、Bら実行行為者には「霊能」がないのに、悩みごとを抱え、その解決を願ってF寺を訪れた被害者らに対し、「霊能」があると偽って、悩みごとの源泉が水子霊や変死霊等の「霊障」であると断定した上、供養料を支払ってF寺で供養すれば、これらの「霊障」を成仏させて悩みごとを解決できると断言していたこと、その過程では、「鬼業鑑定」や「流水潅頂」という小道具を用いたこと、話術訓練までした実行行為者らが、供養しなければ事態が一層悪化するなどと言って被害者を執ように不安に陥らせ、時には恐怖感も与えた上で、供養料を支払ってF寺で供養すれば「霊障」を成仏させて悩みごとを解決できると信じ込ませたこと、Bら実行行為者らは、こうして錯誤に陥った被害者らから供養料名目で合計2150万円もの金銭をだまし取ったこと、教団では、各寺院別・各僧侶別に「ノルマ」と呼ばれる目標額が設定されており、戦艦寺院であるF寺には月額で億単位の巨額なノルマが課されていたこと、教団では、僧侶らが集めた供養料の額などを毎日報告させ、被告人自身もこれを決裁していたこと、僧侶らの位階や給与額も、集めた供養料の多寡をもとに決められていたことなどが認められる
  • 右各事実によれば、BらK寺所属の僧侶が、被害者とされる者らに供養を勧め、供養料を支払わせた行為は、その目的、方法、結果のいずれの点からみても、社会通念上相当と認められる範囲を大きく逸脱しており、違法であることは明らかである

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

最高裁決定(平成15年12月9日)

 病気などの悩みを抱えている被害者らに対し、その原因が霊障であり、「釜焚きの儀式」に病気などを治癒させる効果があるように装い、金員をだまし取った行為について、詐欺罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人は、病気などの悩みを抱えている被害者らに対し、真実は、被害者らの病気などの原因がいわゆる霊障などではなく、「釜焚き」と称する儀式には直接かつ確実に病気などを治癒させる効果がないにもかかわらず、病気などの原因が霊障であり、釜焚きの儀式には上記の効果があるかのように装い、虚偽の事実を申し向けてその旨誤信させ、釜焚き料名下に金員を要求した
  • そして、被告人らは、釜焚き料を直ちに支払うことができない被害者らに対し、被害者らが被告人らの経営する薬局から商品を購入したように仮装し、その購入代金につき信販業者とクレジット契約(立替払契約)を締結し、これに基づいて信販業者に立替払をさせる方法により、釜焚き料を支払うように勧めた
  • これに応じた被害者らが、上記薬局からの商品売買を仮装の上、クレジット契約を締結し、これに基づいて信販業者が被告人らの管理する普通預金口座へ代金相当額を振込送金した
  • 以上の事実関係の下では、被告人らは、被害者らを欺き、釜焚き料名下に金員をだまし取るため、被害者らに上記クレジット契約に基づき信販業者をして立替払をさせて金員を交付させたものと認めるのが相当である

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

最高裁決定(平成20年8月27日)

 病気などの悩みを抱える者に対し、「足裏鑑定」と称する個人面談などを実施し、修行に参加し、又は奉納料などを納めれば、確実に病気が治癒するなどと申し向け金員の交付を受けた行為について、詐欺罪を適用した原審の判断を維持しました。

 被告人の弁護人は、

と主張しました。

 これに対し、裁判官は、

  • 原判決は、宗教上の教義に関して判断しているものではなく、詐欺罪の成否を判断し、その成立を認定する限度で、被告人両名の言動の虚偽性を判断しているに過ぎないものである

と判示し、弁護人の主張をしりぞけ、詐欺罪の成立を認めました。

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