刑法(詐欺罪)

詐欺罪㊲ ~「無効の債権の譲渡」「荷物の配送票差し替え」「虚偽の指図書の提出」「他店のパチンコ玉を用いての景品交換」による詐欺を判例で解説~

 詐欺罪(刑法246条)について、無効の債権の譲渡などによる詐欺の判例を紹介します。

無効の債権の譲渡による詐欺

大審院判決(明治44年10月19日)

 債務者債権者を欺いて、第三者に対する無効の債権を譲渡して自己の債務を免れた場合、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 債務者が債権者を欺罔し、第三者に対する無数の債権をこれに譲渡し、もって自己の債務を免れしめたる行為は、不法に財産上の利益を収得したるものなるをもって、刑法第246条第2項の犯罪を構成するものとす

と判示しました。

荷物の配送票差し替えによる詐欺

最高裁判決(昭和29年8月24日)

 肥料積載の貨車の車票を差し換えて、他の駅に転送させ、係員を欺いてこれを詐取した場合、詐欺罪が成立するとしました。

虚偽の指図書の提出による詐欺

広島高裁判決(昭和27年7月16日)

 正規の配給に向けられるもののように装って配給品(靴下)を詐取しようと企て、形式上、真正に成立しているが内容が虚偽の出荷指図書を正当の指図書のように装い提出し、配給品を受領した場合、詐欺罪が成立するとしました。

 被告人の弁護人は、

  • 被告人の作成した出庫指図書は、元来、真正に成立したものであり、倉庫係員は、真正の指図書によるのであれば、当然これに基づきその指図物件を出庫するのであるから、その間、欺罔意思も欺罔行為もなく、従って詐欺罪は構成しない

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 靴下800足は、農協に対する正当の配給品であったが、その他は全部県内の各農協に割当配布されるべき物件であったことが認められ、また右指図書の作成に当たっては上司の決裁を経たことは明らかであるけれども、上司は右の情を知らなかったものであることもまた右の証拠により認められるところであるから、該指図書は、形式上真正に成立したものと言い得ても、その内容は不正のものであった
  • そして、倉庫係員は右指図書の内容が不正のものであるとすれば、その指図書を出庫するはずはないのであるから、これを正当の指図書のように装い、これに基づいて交付を受けた以上、詐欺罪の刑責を免れることはできない

と判示しました。

他店のパチンコ玉を用いての景品交換による詐欺

福岡高裁判決(昭和28年7月2日)

 他店の玉を使ってパチンコを行い、取得した玉を当店から借りた玉によって取得した玉のように装って景品と交換した場合、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、先にK市内で買い受け携行したパチンコ玉を使用してパチンコを為し、パチンコ玉を取得した上、これを当該パチンコ店から正当に借り受けた玉を使用して取得したもののように装って、パチンコ店主あるいは従業員に差出し景品との引換を申し込み、よって、その旨誤信した店主あるいは従業員から、右取得にかかるパチンコ玉の数に相当する現金あるいはキャラメル等の交付を受けた

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

大阪高裁判決(昭和30年3月28日)

 不正に得たパチンコ玉を正当に得た玉のように装って景品と交換した場合、詐欺罪が成立するとしました。

 被告人の弁護人は、

  • 被告人が他店玉を使用してパチンコ玉500個を取得したということを認める以上は、それは窃盗罪の成立を認めているものであって、その取得したパチンコ玉は窃盗によって得た財物に過ぎない
  • 従って、これを景品と引き替えたとしても、それは単なる贓物事後処分であって何ら犯罪を構成するものではない
  • 被告人が取得したパチンコ玉を景品と交換したとき欺罔行為があったと認められているが、およそ、パチンコ店においては、その店のパチンコ台から流出した玉は、当然、景品と交換せられる立前となっており、そのことは、当該の店としても、遊技客としても当初から予期していることであるから、その間に欺罔行為が介在するわけがない
  • だから原判決が、被告人が玉を景品と交換するにあたって欺罔行為を用いたと認めたのは誤っている

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • パチンコの当たり玉と景品とを交換する行為は、当たり玉の金属として有する客観的価値の処分行為ではない
  • もしも、窃取した当たり玉を金属としての客観的価値に従って処分するのであるならば、正に贓物の事後処分というべきである
  • しかし、当たり玉と景品を交換する場合は、その当たり玉が正当な手段によって得られた玉であるということを装うことによって、すなわちその当たり玉そのものとしては有しない属性を装うことによって、パチンコ店主の所有する景品という別個の法益を侵害するものであるから、別個の詐欺罪の成立を認めて、少しも差し支えないと考える(昭29.2.27最高裁第二小法廷判決刑集8巻2号202項参照)
  • ただ、当たり玉の窃取は、景品との交換を終局の目的として、すなわちその過程として行われるものであるから、同一の機会に両者が順次に行われる通常の場合においては、その過程たる窃取行為は不問に付して起訴せられないのが通例であろうから、問題にならないに過ぎない
  • よって、論旨(※弁護人の主張)は理由がないものと認める
  • 次に、およそパチンコ店においては、正当な方法でその店のパチンコ台から流出した玉は、当然景品と交換せられる立前となっていることは、所論(※弁護人の主張)の通りであるが、本件のように不正な方法で取得せられた玉を景品と交換することは、当該パチンコ店としても遊技客としても当然予期しているとは到底認めることができない
  • 被告人が他店玉を使用して不正に取得したそのパチンコ玉を、あたかもそのような方法で取得したものではなく、同店から買い受けた玉で正当に取得したものであるように装って同店の店員を錯誤に陥れ景品と交換したのは、全く欺罔手段によったものといってよい

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

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