法律(刑法)

詐欺罪㉑ ~「寄託・担保に関する詐欺」を判例で解説~

寄託・担保に関する詐欺

 詐欺罪(刑法246条)について、寄託担保に関する関する詐欺の判例を紹介します。

大審院判決(大正元年11月19日)

 無効になった貯金通帳を有効なもののように装い、郵便局に呈示し、払戻請求権があるものと誤信させることは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 無効になった貯金通帳を有効のものの如く装い、郵便局に呈示し、局員をして通帳に基づき、被告に払戻請求権あるものと誤信せしめ、払戻しをなさしむるにおいては、被告人は該払戻金につき、詐欺の罪責を免れることを得ず

と判示しました。

大審院判決(大正2年4月1日)

 誠実に契約を履行する意思がないのに、契約履行の意思があるように装って契約を締結することは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 土地売買の申込人が、土地を騙取するの目的をもって、所有者に対し、その代金の一部は現金にしてこれを支払い、残額はこれを消費貸借となし、直ちに一番抵当となすべしと詐言を用い、もって売買契約を締結せしめたるときは、右契約は要素に錯誤あるものといわざるべからず

と判示し、詐欺罪が成立するとしました。

大審院判決(昭和12年7月28日)

 偽造の貯金払戻金受領証を真正なもののように装い提出し、郵便局員を欺くことは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 公立高校の校長が、生徒の修学旅行費を郵便局から払い戻すため、偽造の貯金払戻金受領証を作成し、郵便局から現金の交付を受けた事案で、裁判官は、

  • 公立高校の校長が、生徒らより修学旅行費に充てるべき金員の寄託を受け、これを郵便貯金として預け入れたる場合に、その払戻しを受けるために作成する払戻金受領証は、刑法第155条1項にいわゆる公務員の作るべき文書に該当するものとす
  • 郵便局員をして、あたかも払戻金受領証が申請に成立したるものの如く誤信せしめたる上、即時、貯金払戻名義の下に現金を交付せしめて、これを騙取するしたるものなり

と判示し、校長の行為について、公文書偽造行使罪と詐欺罪が成立するとしました。

広島高裁判決(昭和27年7月16日)

 形式上真正に成立しているが内容虚偽の出庫指図書を、正当な指図書のように装って倉庫係員に示し、財物の交付を受けることは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 被告人の弁護人は、

  • 被告人の作成した出庫指図書は、元来、真正に成立したものであり、出庫係員は、真正の指図書によるものであれば、当然これに基づき、その指図物件を出庫するのであるから、その間、欺罔意思も欺罔行為もなく、従って詐欺罪は構成しない

と主張しました。

 これに対し、裁判官は、

  • 本件物件(詐取品)は、農協に対する正当の割当配給品であったが、その他は全部県内の各農協に割賦配給されるべき物件であったことが認められ、また指図書の作成に当たっては、上司の決裁を経たことは明らかであるけれども、上司は右の情を知らなかったものであることも認められるところである
  • (よって、)指図書は、形式上真正に成立したものと言い得ても、その内容は不正のものであったというべく、そして倉庫係員は、指図書の内容が不正のものであるとすれば、その指図物件を出庫するはずはないのであるから、これを正当な指図書のように装い、これに基づいて交付を受けた以上、詐欺罪の刑責を免れることはできないものと言わねばならない

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

大審院判決(大正14年7月23日)

 担保品を不正に領得する考えで、金借申入人に対し、借用金の弁済と同時に担保品を返還する旨欺き、貸借の際、担保名義で財物の交付を受けることは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 当初より担保品を不正に領得するの企図に出て、これを返還するの意思なき者が借金申込人に対し、借用金の返済と同時に担保品を返還すべき旨申し欺き、貸借の際、担保名義の下に、財物の交付を受けるときは、その交付と同時に詐欺罪成立するものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和7年5月30日)

 恩給を受ける権利を担保に供することが禁止されていることを知らない者に対し、恩給証書にも担保力があるかのように偽って、財物の交付を受けることは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 恩給を受ける権利を担保に供することは、恩給法の禁止するところなることを知らざる者に対し、恩給証書にも相当担保力があるものの如く偽りて、相手方を錯誤に陥れ、財物を交付せしめたる場合には、詐欺罪を構成す

と判示しました。

仙台高裁秋田支部判決(昭和24年12月26日)

 他人から一時借り受けてきた自転車を担保に差し入れ、衣類を詐取することは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 被告人の弁護人は、

  • Aから借り受けた自転車を担保にして、Bから時価3600円相当のズボンの交付を受けたもので、借り受けた自転車を担保にした際、既に横領罪を構成し、ズボンをとったのは横領罪の事後処分にほかならないから詐欺罪を構成すべきではない

と主張しました。

※ 横領罪など先に犯した犯罪の違法状態が続く状態で、事後的に行われた犯罪は罰しないというルールがあり、これを不可罰的事後行為といいます。

 これに対し、裁判官は、

  • 被告人が知り合いのAから一時借り受けてきた自転車をBに預けたうえ、「このズボンを買うから夕方まで見せてもらいたい。夕方までには必ず代金を持ってくるから、それまでこの自転車を預けておく」と嘘をついてBをその旨誤信させ、ズボン1着を騙取したものでる
  • 詐欺の実施に際し、被告人が他人の自転車を預けたのが担保の供与であり、もし所有者本人の承諾がなく、かような処分をすれば、横領罪を構成すべきこと所論(弁護人の主張)の通りであるが、自転車の処分(ズボンの交付を受けるための担保にしたこと)を詐欺の実行手段にしたにすぎないのであり、本件の詐欺が自転車の事後処分の関係にならないことが明らかである

と判示し、横領罪が成立した上、詐欺罪も成立するとしました。

名古屋高裁判決(昭和25年3月28日)

 借金をするため担保を提供した場合でも、返済の意思はなく、しかもその担保品たる自転車が他から詐取してきたものであることを秘し、あたかも自己の所有品であるような態度を示して借金の申込みをすることは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 担保を供した場合でも、返済の意思はなく、しかもその担保品が他から入手してきたものであったその事実を秘し、あたかも自分の所有品なるが如き態度をもって、借金の申込をなしたならば、これは詐欺の手段として欠くるところはなく、返済の意思なきにかかわらず、返済すると申し欺き、貸借名下に金員の交付を受けた点において、既に詐欺罪は成立するのである

と判示しました。

最高裁決定(昭和29年2月27日)

 盗品を自己の所有物と偽って、これを担保に貸借名義で金銭の交付を受けることは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 窃盗犯人が、贓物(盗品)を自己の所有物と偽って、第三者を欺罔して金員を騙取した場合においては、贓物についての事実上の処分行為をなすにとどまる場合と異なり、第三者に対する関係において新たな法益侵害を伴うものであるから、窃盗罪のほかに詐欺罪の成立を認むべきを相当とする

と判示しました。

東京地裁判決(昭和61年10月16日)

 仮装増資により発行された無効の株券を担保にして借入れを受けることは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとしました。

最高裁決定(昭和34年8月28日)

 国鉄公傷年金証書を債権の担保に供することは法令上禁止され無効であるとしても、年金の受給者が、その証書を債権担保のため債権者に差し入れた後、その債権者を欺いて、その証書を自己に交付させたときは、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 本件公傷年金証書をもって、刑法にいわゆる財物に該当するものとした原判決は、正当である
  • 刑法246条1項の詐欺罪の規定は、必ずしも財産的損害を生ぜしめたことを問題とせず、むしろ、個々の財物に対する事実上の所持それ自体を保護の対象としているものと解すべきである
  • 法令上、公傷年金の受給権を担保に供することが禁止されている結果、被告人が被害者Aから金員を借受けるに際し、自己の所有にかかる国鉄公傷年金証書を担保としてAに差入れたことが無効であるとしても、Aの右証書の所持そのものは保護されなければならないのであるから、欺罔手段を用いて右証書を交付させた被告人の所為が刑法242条にいわゆる「他人の財物とみなす」された自己の財物を騙取した詐欺罪に該当する

と判示しました。