刑法(詐欺罪)

詐欺罪(86) ~他罪との関係④「パチンコ玉の窃盗と景品交換の詐取は、窃盗罪と詐欺罪の両罪が成立する」「詐欺をして第三者に財物を窃取させた場合、詐欺罪と窃盗罪の両罪が成立する」を判例で解説~

 前回記事に続き、詐欺罪と窃盗罪との罪数関係について、判例を示して説明します。

パチンコ玉の窃盗と景品交換の詐取は、窃盗罪と詐欺罪の両罪が成立する

 パチンコ遊技において、不正な手段を講じて景品玉を取得すれば、窃盗罪が成立します(この点について前の記事で詳しく説明しています)。

 今回の本題ですが、不正に入手したパチンコ玉を景品と交換する場合に、パチンコ玉を不正に排出して窃取した窃盗罪に加え、不正なパチンコ玉を用いて景品を詐取した詐欺罪が成立するかどうかが問題になります。

 判例は、不正に排出して窃取したパチンコ玉を景品と交換した場合、更に詐欺罪を構成するとしています。

大阪高裁判決(昭和30年3月28日)

 裁判官は

  • パチンコの当り玉と景品と交換する行為は、当り玉の金属として有する客観的価値の処分行為ではない
  • もしも、窃取した当り玉を金属としての客観的価値に従って処分するのであるならば、正に贓物(盗品等)の事後処分というべきである
  • しかし、当り玉と景品と交換する場合は、その当り玉が正当な手段によって得られた玉であるということを装うことによって、すなわちその当り玉の物そのものとしては有していない属性を装うことによって、パチンコ店主の所有する景品という別個の法益を侵害するものであるから、別個の詐欺罪の成立を認めて、少しも差し支えないと考える
  • ただ、当り玉の窃取は景品との交換を終局の目的として、すなわちその過程として行われるものであるから、同一の機会に両者が順次に行われる通常の場合においては、その過程たる窃取行為は不問に付して起訴せられないのが通例であろうから、問題にならないにすぎない

と判示し、パチンコ玉の窃盗と景品交換の詐欺の事案では、窃盗罪に加え、詐欺罪も成立するとした上で、実務上は、この種の事案は、窃盗罪は起訴されず、詐欺罪のみが起訴されるのが通常であるとしました。

詐欺をして第三者に財物を窃取させた場合、詐欺罪と窃盗罪の両罪が成立する

 詐欺をして第三者に財物を窃取させた場合、詐欺罪と窃盗罪の両罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大阪高裁判決(昭和28年6月22日)

 甲の所有に属し、その支配内にある立木の経済的価値を、自己に取得する目的で、自己が右立木を他に売却処分する権限があるように偽って、乙にこれを売り渡して、乙からその代金名義で金員を交付させ、他方、乙をして右立木を伐採させて、これを甲の支配内から乙の支配内へ持ち去らせた事案です。

 裁判官は、

  • 被告人の一連の行為は、乙に対し、詐欺罪を行ったものであると同時に、他面、被告人が領得の意思をもって、乙の手をかり、間接に甲の占有するその所有の立木を乙の支配に移し、これを窃取したものと認められるから、この点において森林窃盗罪が成立し、この詐欺罪と森林窃盗罪は観念的競合の関係に立つ

とし、詐欺罪と窃盗罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合の関係になるとしました。

大審院判決(昭和3年4月16日)

 窃盗を教唆した者が、さらに被教唆者を欺き、その窃取した財物を詐取した場合には、窃盗教唆罪と詐欺罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。

 裁判官は、

  • 人を教唆して窃盗罪を犯さしめたる後に、更に被教唆者を欺罔して、その窃取せる財物を騙取したる場合においては、たとえその窃盗教唆が、被教唆者をして、右財物を自己に交付せしむる目的に出たるときといえども、窃盗教唆及び詐欺の二罪成立するものとす

と判示しました。

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