法律(刑法)

詐欺罪(85) ~他罪との関係③「窃盗罪と詐欺罪の罪数関係(窃盗罪と詐欺罪が併合罪となる場合、詐欺罪は不可罰的事後行為として窃盗罪のみが成立する場合)」を判例で解説~

 詐欺罪と窃盗罪との罪数関係について、判例を示して説明します。

窃盗罪と詐欺罪の罪数関係

 窃盗罪によって得た盗品(贓物)の処分が、詐欺罪の構成要件に該当する場合、どの範囲まで不可罰的事後行為といえるかが問題になります。

 判例は、新たな法益侵害がある限り不可罰的事後行為とはいえず、別に詐欺罪が成立するとしています。

 ちなみに、不可罰的事後行為とは、簡単に説明すると、「犯罪を行った後に更に行った更なる犯罪を処罰しない」というルールです。

 この点について、以下の判例があります。

窃盗罪のほか詐欺罪も成立するとした判例

最高裁決定(昭和29年2月27日)

 盗品を自己の所有物と偽って、これを担保に貸借名義で金銭の交付を受けることは、人を欺く行為に当たり、詐欺罪が成立するとし、窃盗罪と詐欺罪は併合罪になるとしました。

 裁判官は、

  • 窃盗犯人が、贓物(盗品)を自己の所有物と偽って、第三者を欺罔して金員を騙取した場合においては、贓物についての事実上の処分行為をなすにとどまる場合と異なり、第三者に対する関係において新たな法益侵害を伴うものであるから、窃盗罪のほかに詐欺罪の成立を認むべきを相当とする

と判示しました。

東京高裁判例(昭和37年2月21日)

 店から洋品類を窃取した後、あたかも、これを正当に購入したもののように装い、嘘言をろうして返金名義の下に、その店から現金をだまし取った事案ついて、裁判官は、

  • 窃取した洋品類を正当に買入れたものと詐って金員等を騙取した場合は、更に新たな法益を侵害したもので、これを目して事後処分ということはできず、窃盗罪のほか詐欺罪を構成するものと解するを正当とする
  • 刑法第54条第1項後段の牽連犯の成立には、罪質上、通例、手段結果の関係があることを要するものと解すべきところ、窃盗と詐欺との間にはその関係があるとは認められないので、本件を牽連犯ということはできない
  • したがって、原判決が、窃盗、詐欺の併合罪として処断したのは正当である

と判示し、窃盗罪と詐欺罪の両罪が成立し、両罪は牽連犯ではなく、併合罪になるとしました。

最高裁決定(平成14年2月8日)

 消費者金融会社の係員を欺いてローンカードを交付させた上、これを利用して同社の現金自動入出機(ATM機)から現金を引き出した場合には、同係員を欺いて同カードを交付させた点につき詐欺罪が成立し、同カードを利用して現金自動入出機から現金を引き出した点につき窃盗罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、無人契約機コーナーに設置された無人契約機を介して、不正に入手した他人名義の自動車運転免許証により氏名等を偽るなどして、M市内の会社にいる係員を欺き、他人名義で同社とカードローンに関する基本契約を締結した上,同係員からローンカードの交付を受け、その約5分後に、同カードを同無人契約機コーナー内に設置された現金自動入出機に挿入し、同機を操作して作動させ、同機から現金20万円を引き出した
  • 上記のようなカードローン契約の法的性質、ローンカードの利用方法、機能及び財物性などにかんがみると、同社係員を欺いて同カードを交付させる行為と、同カードを利用して現金自動入出機から現金を引き出す行為は、社会通念上別個の行為類型に属するものであるというべきである
  • 上記基本契約の締結及びローンカードの交付を担当した同社係員は、これらの行為により、上記無人契約機コーナー内に設置された現金自動入出機内の現金を被告人に対して交付するという処分行為をしたものとは認められない
  • 被告人は、上記のような機能を持つ重要な財物である同カードの交付を受けた上、同カードを現金自動入出機に挿入し、自ら同機を操作し作動させて現金を引き出したものと認められる
  • したがって、被告人に対し、同社係員を欺いて同カードを交付させた点につき詐欺罪の成立を認めるとともに、同カードを利用して現金自動入出機から現金を引き出した点につき窃盗罪の成立を認めた原判決の判断は、正当である

であると判示し、ローンカードの交付を受けた点について詐欺罪、ローンカードでATM機から現金を引き出した点について窃盗罪が成立するとしました。

窃盗罪のほかに、詐欺罪は成立しないとした判例

 上記判例とは逆に、窃盗罪の後に行った詐欺が、不可罰的事後行為として、詐欺罪を構成せず、窃盗罪のみが成立するした以下の判例があります。

最高裁判例(昭和38年5月17日)

 この判例は、窃取した小切手を銀行で換金した事案について、小切手の換金行為は、通常予想される処分行為と認められるので、窃盗罪のほかに詐欺罪は構成しないとしました。

 裁判官は、

  • 窃盗犯人が自らその贓物を処分する場合において、その行為が、外形上、他罪の構成要件を充足する場合においても、それが通常予想される事後処分と認められるものである限り、窃盗罪に包摂され、別罪を構成するものでないと解すべきてある
  • ことに今日の交換経済社会において、窃盗犯人が財物を窃取するのは、自ら直接これを使用するのではなく、賍物を処分して金銭に換えることを目的とするのが通例である
  • したがって、その贓物を自己の所有物の如くに装って、他人に売却する場合であっても、窃盗が単に他人の所持を侵害するにとどまらす、所有権を侵害するものである以上、その売却は窃盗の事実上の効果をまっとうする行為にほかならないものであるから、贓物の処分に関し、必然的に伴う買主に対する欺罔行為は、既に窃盗の行為において予定され包摂されているものと解するを相当とする
  • 本件小切手は、記録によれば、真正に振出された持参人払式小切手であって、被告人自らその小切手により銀行から現金の支払を受けているのであるから、換金行為は、一層強い理由で窃盗罪に当然吸収されるものといわなければならない
  • したがって、その換金行為は、窃盗行為に伴う当然の結果として、窃盗行為に対する可罰的評価に当然包含されるものと見るのが相当である
  • されば、被告人が持参人払式小切手をもって支払を受けた行為は、まさに不可罰的事後行為として詐欺罪の成立を否定せざるを得ない

と判示しました。