刑法(詐欺罪)

詐欺罪(89) ~他罪との関係⑥「詐欺罪と背任罪の罪数関係」「背任罪は成立せず、詐欺罪のみが成立するとした判例」「背任罪と詐欺罪の両罪が成立し、両罪は併合罪になるとした判例」を解説~

 詐欺罪と背任罪との罪数関係について、判例を示して説明します。

詐欺罪と背任罪の罪数関係(背任罪は成立せず、詐欺罪のみが成立する)

 他人のためその事務を処理する者が、本人を欺いて、財物又は財産上不法の利益を取得した場合の詐敷罪と背任罪の関係については、学説では見解が分かれています。

 詐欺罪のみが成立するとする見解、背任罪が成立するにすぎないとする見解、背任罪と詐欺罪との観念的競合であるとする見解とが対立しています。

 判例においては、第一説に立ち、他人のためにその事務を処理する者が、本人に対し人を欺く手段を用いて財物を交付させ、又は財産上不法の利益を供与させ、本人に財産上の損害を加えた場合には、背任の行為は詐欺罪の観念に当然包含されるから、別に背任罪を構成するものではないとして詐欺罪のみの成立を認めています。

 この点を判示したのが以下の判例です。

大審院判決(大正3年12月22日)

 保険会社の外交員が、被保険者の既往症を秘して健康体として報告し、会社に保険契約を締結させ、会社から周旋の対価を受領した事案で、背任罪は成立せず、詐欺罪のみが成立するとしました。

 裁判官は、

  • 他人のために一定の事務を処理する者が、委任者もしくは雇用者に対して、その任務と相容れざる詐欺的行為を行い、これを欺罔し、財物を交付せしめ、又は財産上の不法の利益を取得したる場合には、たとえ、その行為が主観的方面において、自己もしくは第三者の利益を図り、又は本人に損害を加える目的に出て、客観的方面においては任務に違背して、本人に財産上の損害を生ぜしめたるものとするも詐欺罪のほか、別に背任罪を構成せず

と判示しました。

最高裁判決(昭和28年5月8日)

 山林立木の売買に関して、買主たる会社の係員と売主とが共謀して、立木の数量を会社に対して過大に報告し、高額で会社に購入せしめ損害を与えた事案で、他人の事務を処理する者が自己の利益を図り任務に関して本人を欺き財物を交付せしめたときは、詐欺罪が成立し、別に背任罪を構成しないとしました。

 裁判官は、

  • 他人の委託によりその事務を処理する者が、その事務処理上任務に背き、本人に対し欺岡行為を行い、同人を錯誤に陥れ、よって財物を交付せしめた場合には詐欺罪を構成し、たとい背任罪の成立要件を具備する場合でも別に背任罪を構成するものではない

と判示しました。

背任罪と詐欺罪の両罪が成立し、両罪は併合罪になるとした判例

 背任罪と詐欺罪の両罪が成立し、両罪は併合罪になるとした以下の判例があるので紹介します。

大審院判決(昭和9年6月19日)

 質権設定の任務のある債務者が、質物たるべき物件を処分して債権者に損害を加えながら、その物件がなお手元にあるように装って債権者を欺き、支払の延期を承諾させた場合には、背任罪と詐欺罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。

 裁判官は、

  • 債務者が自己の債務担保するため、第三者が質権設定者として提供すべき質物につき、債権者の代理人として、その引渡しを受け保管すべき任務ある場合において、これが引渡しを受けず、その第三者と通謀して、自己及びその者の利益を図り、物品を売却処分し、もって質権設定の効力の発生を不能ならしめ、債権者に損害を加えたるときは背任罪を構成す
  • 質権の目的たるべき物を売約処分して、債権者に損害を加えたる背任行為と、その処分後、質権目的物を保管するが如く詐言し、債権者を欺罔して債務の弁済延期を承諾せしめたる詐欺行為とは、各独立の犯罪を構成し、後者は前者に吸収されるものにあらず

と判示しました。

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