法律(刑法)

詐欺罪(93) ~他罪との関係⑩「特別刑法(租税法)との関係で詐欺罪は成立しないとした判例」「特別刑法(鉄道営業法、食糧緊急措置令)との関係で詐欺罪のみが成立するとした判例」を判例で解説~

 前回記事に引き続き、詐欺罪と特別刑法違反との罪数関係に、判例を示して説明します。

特別刑法違反(租税法の脱税)との関係で、詐欺罪のみの成立を認めた判例

 租税法違反(脱税)について、租税法違反が成立する以上、詐欺罪は成立しません。

 この点について、判例を示して説明します。

大審院判決(明治44年5月25日)

 登記官吏に不当な標準価格を申告して、登録税を免れた事案で、裁判官は、

  • 登記官吏は、その職権をもって登記申請者の申告したる課税標準の債格を調査し、 これに課税する権限を有するものなるをもって、不相当の標準債格を申告し、これによりて登録税の免脱を得たる行為ありとするも、刑法第246条第2項の罪を構成すべきものにあらず

と判示しました。

 分かりやすく言うと、登記官吏は、その職権をもって登記申請者の申告した課税標準の価格を調査し、これに課税する権限を有するのだから、登記申請者が不相当の標準価格を申告して登録税を脱税しても、詐欺罪を構成しないと判断したものです。

 理屈を説明すると、「登記官吏が自ら課税額を調査して決定した」という前提・建前なので、登記官吏が課税額の決定を誤ったという評価になり、登記申請者に欺罔されて税金を奪われたわけではない、よって、詐欺罪は成立せず、税法違反が成立するのみであるという考え方になります。

大審院判決(大正4年10月28日)

 関税免脱について、裁判官は、

  • 関税法第75条2は、単に『関税の適脱を図り、又は、関税を逋脱したる者は』とあれども詐欺の手段をもって関税を逋脱したるときは、犯人がその結果として自己の財産上に不法の利益を得るは当然のことなれば、法律がかかる場合をも予想し、これを包括してー罪となし、同法条をもって処罰するの趣旨なること毫も疑をいれるべからず

と判示し、関税の免脱に対する詐欺罪の成立を否定し、関税法違反のみ成立するとしました。

東京地裁判決(昭和61年3月19日)

 相続税につき、修正申告書を提出した者が、その修正申告に係る相続税の支払を免れようと企て、真実はそのような事実がないにもかかわらず、相続により多額の債務を負担することになったとして、相続税額が減少することになる旨の内容虚偽の更正の請求書を提出するなどして相続税の減額更正を求めた事案について、詐欺未遂罪の成立を否定し、相続税のほ脱犯が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 申告納税制度においても、納税者の申告による納付税額の確定は、あくまで原則であり、納税者の申告がない場合、又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合その他当該税額が税務署長の調査したところと異なる場合には、税務署長の処分により確定するものとしているのである
  • 申告による税額の確定は、その後の行政処分による確定がない場合の一応のものということができるのであって、いったん申告により納付すべき税額が確定し、一応具体的租税債権に転仁した後においても、不正行為によりその義務の履行を免れることにより租税収入の減少を来す場合には、法は、これをほ脱犯として処罰することを予定しているものと解すべきである
  • 納期限を徒過した後においても、虚偽の期限後申告、虚偽修正申告、収税官吏に対する虚偽申立てその他の不正行為を行い、その当時なお履行が期待されている租税債務について、正しい履行をしなかった時には、租税債権が侵害されたと認められ、ほ脱犯が成立するものと解されるが、申告等により納税額が確定した後、税の納付を免れる目的で内容虚偽の更正請求を行うなどの不正行為を行い、正しい履行をしなかった時にも、租税債権が侵害されたと認められるのであって、租税法の体系上、ほ脱犯として処罰することが予定されていると解される

と判示し、詐欺未遂罪は成立せず、相続税法違反のみが成立するとしました。

 また、この判例は、以下のとおり、詐欺罪の成立を否定する理由を詳細に述べた点が注目されています。

 裁判官は、

  • 我が国における国の租税に関する規定は、国税通則法を中心に各種税法、国税徴収法、国税犯則取締法などにおいて定められているが、これらを総合したいわゆる租税法の体系を考えるとき、これらの規定は租税に関する固有の領域において、民事、刑事の一般法に対して優先的に適用されるべきものとしてほぼ完結的な法体系をなしているとみることができるのである
  • そして、租税債権の成立から徴収に至るまでの各段階において予想されるもろもろの違反行為についても、これら税法において違反行為の態様ごとに犯罪類型を定型化して立法されているものと考えられる
  • したがって、具体的な違反行為が税法の予定する犯罪類型に該当するかぎり、税法の適用を優先すべきものであって、軽々に一般法たる刑法の適用を論ずべきものでないととは多言を要しない
  • 相続税法等におけるほ脱犯は、国家的法益としての国の課税権を保護法益とする犯罪であり、右の課税権を保護するため、法は、納税者が納税義務を履行しないことにより国の租税債権を侵害し、租税収入の減少を来たす行為のうち、偽りその他不正行為を伴うものをほ脱犯として処罰することとしたものであって、所論のように申告時における内容の真実性ないし抽象的租税債権のみを保護法益とするものと解すべきではなく、したがって、ほ脱犯の成立範囲を所論のよらに申告時における未確定の租税債権の過少確定行為に限定すべき理由はない
  • たしかに、申告納税制度は、納付すべき税額が納税者のする自主申告により確定することを原則とし(国税通則法16条1項1 号)、したがって、申告納税制度のもとでは、納税者が申告にあたり納付すべき税額を虚偽過少に確定させることによって正規税額と申告税額との差額を免れる行為が右のほ脱犯の原則的犯罪類型となるものではあるが、それは法が納税者の自主申告によってまず正しい納税義務の履行を期待しているところから納税者が法の期待に反して税を免れる意図で虚偽過少の申告をし、納期までに正しい納税をしないことにより、国の租税収入が減少することとなるからにほかならないのであって、この場合、課税要件の充足によってもたらされる抽象的租税債権が納税者の申告により具体的確定を妨げられたととが直ちに租税収入の減少につながるわけではないのである
  • もちろん、虚偽過少申告等によって正当税額より少ない税額において租税債務が確定された場合、申告納税制度においては、更正という別個の行政行為を必要とするのに反し、正当税額において租税債務が確定すれば、この給付は国において強制することもできるので、租税債権の満足を得ることがたやすくなるということは否定できないが、税の確定手続は納税義務の履行ないし強制への一過程にすぎず、『納税義務の適正な履行』そのものではない
  • ほ脱犯の構成要件上も右のような意味における確定妨害を要件とするものとは解されない
  • また、右国税通則法の規定によれば、申告納税制度においても、納税者の申告による納付税額の確定は、あくまで原則であり、納税者の申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合その他当該税額が税務署長の調査したところと異なる場合には、税務署長の処分により確定するものとしているのであり、申告による税額の確定は、その後の行政処分による確定がない場合の一応のものといらことができるのであって、いったん申告により納付すべき税額が確定し、一応具体的租税債権に転化した後においても、不正行為によりその義務の履行を免れることにより租税収入の減少を来たす場合には、法は、これをほ脱犯として処罰することを予定しているものと解すべきである
  • 以上によれば、納期限を徒過した後においても虚偽の期限後申告、虚偽修正申告、収税官吏に対する虚偽申立てその他の不正行為を行い、その当時なお履行が期待されている租税債務について、正しい履行をしなかった時には租税債権が侵害されたと認められ、ほ脱犯が成立すると解されるが、右と同様、申告等により納税額が確定した後、税の納付を免れる目的で内容虚偽の更正請求を行うなどの不正行為を行い、正しい履行をしなかった時にも、租税債権が侵害されたと認められるのであって、租税法の体系上はほ脱犯として処罰することが予定されていると解される

と判示し、詐欺罪の成立を否定する理由を述べました。

東京地裁判決(昭和61年4月15日)

 税務署長に内容虚偽の相続税申告書を提出し、相続税を免脱した事案で、裁判官は、

  • 我が国における国の租税に関する規定は、国税通則法を中心に各種税法、国税徴収法、国税犯則取締法などにおいて定められているが、これらを総合したいわゆる租税法の体系を考えるとき、これらの規定は租税に関する固有の領域において、民事、刑事法の一般法に対して優先的に適用されるべきものであるとしてほぼ完結的な法体系をなしているとみることができるのである
  • そして、租税債権の成立から徴収に至るまでの各段階において予想されるもろもろの違反行為についても、これら税法において違反行為の態様ごとに犯罪類型を定型化して立法されているものと考えられる
  • したがって、具体的な違反行為が租税の予定する犯罪類型に該当する限り、税法の適用を優先すべきものであって、軽々に一般法たる刑法の適用を論ずべきものでないことは多言を要しない

と判示し、詐欺罪は成立せず、相続税法違反のみが成立するとしました。

東京高裁判決(昭和62年3日23)

 この判例で、裁判官は、

  • 相続税法等の租税法の体系は、刑事についていえば、一般法である刑法の特別法をなすのであり、具体的な違法行為が税法の予定する犯罪類型に該当する限り、税法の適用を優先すべきであって、一般法たる刑法を適用すべきものではない

と判示しました。

特別刑法違反(鉄道営業法、食糧緊急措置令)との関係で、詐欺罪のみの成立を認めた判例

大審院判決(大正5年10月10日)

 鉄道係員を詐欺の手段を使って欺き、乗車券なしで電車に乗った事案で、裁判官は、

  • 鉄道係員の許諾を受けず、有効の乗車券なくして乗車する行為が詐欺罪の手段によりて行われたるときは、刑法第246条第2項の犯罪を構成すといえども、これと同時に鉄道営業法第29条に問擬(もんぎ)し、1個の行為にして2罪に該当するとして処罰すべきものにあらず

と判示し、鉄道営業法29条違反(無賃乗車)には、詐欺の手段による場合は含まれないから、人を欺く手段による無賃乗車が詐欺罪の構成要件に該当するときは、詐欺罪のみが成立し、ほかに鉄道営業法違反は成立しないとしました。

大審院判決(大正6年12月17日)

 上記判例と同様、鉄道係員を詐欺の手段を使って欺き、乗車券なしで電車に乗った事案で、裁判官は、

  • 鉄道営業法第29条第1項の罪は、鉄道係員の許諾を受けず、有効の乗車券なくして乗車するによりて成立し、人を欺罔することは、その要素に属せざるものとす

と判示し、鉄道営業法29条違反(無賃乗車)には、詐欺の手段による場合は含まれないから、人を欺く手段による無賃乗車が詐欺罪の構成要件に該当するときは、詐欺罪のみが成立し、ほかに鉄道営業法違反は成立しないとしました。

最高裁判決(昭和23年7月15日)

 人を欺く手段による主要食糧の不正受配の事案で、裁判官は、

  • 被告人の所為刑法第246条第1項の詐欺罪を構成するものであることは多言を要せずして明らかである
  • 被告人の本件所為が刑法第246条第1項の詐欺罪を構成するものであることは前説示の通りであって、たとえ一面、食糧緊急措置令第10条本文所定の場合にも該当するとしても、同条の末尾には「その刑法に正条あるものは刑法による」と明視されているのであるから、原審が刑法詐欺罪の規定を適用し、処断したのは正当である

と判示し、詐欺罪の成立を認めるので、食糧緊急措置令10条の適用はないとしました。