法律(刑法)

詐欺罪(92) ~他罪との関係⑨「詐欺罪が特別刑法違反との関係で、観念的競合・牽連犯・併合罪・包括一罪になるとした判例」を解説~

 詐欺罪と特別刑法違反との罪数関係に、判例を示して説明します。

詐欺罪が特別刑法違反との関係で、観念的競合になるとした判例

 詐欺罪が特別刑法違反との関係で、観念的競合とされた判例を紹介します。

大審院判決(大正11年9月19日)

 この判例において、北海道農産物検査規則2条違反と詐欺未遂罪を観念的競合の関係になるとしました。

 裁判官は、

  • 北海道において、その農作物たる三等玄米数俵の売買契約履行するに当たり、売主において、検査を受けざる四等玄米を偽り作りて、三等玄米と称して引き渡し、買主を錯誤に陥れ、彼此の代金の差額を騙取せんとする行為は、1個の行為にして、刑法第246条並びに北海道農作物検査規則2条第46条の各罪名に触れるものとす

と判示しました。

最高裁判決(昭和28年3月10日)

 被告人が学童服に不正な価格調査証紙を貼付し(※物価統制令違反が成立)、その標示する価格が不正なものであることを知りながら、これを正当な調査価格であるかのように装って相手方を欺罔し、所定の統制額を超過した代金で販売し、その差額を騙取したときは(※詐欺罪が成立)、物価統制令違反と詐欺罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合になるとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、判示の各学童服に判示の不正な価格査定証紙を貼付し、その標示するところの価格が不正なものであることを熟知しながら、これを正当な査定価格であるかのように装って、相手方を欺罔し、所定の統制額を超過した代金で販売し、その差額を騙取したというものである
  • したがって、右販売行為は、刑法上、詐欺の行為に該当しても民法上無効なものではなく、爾後、相手方においてこれを取り消すまでは有効な販売行為として成立するものであるから、その販売代金にして所定の統制額を超過するものである以上、一面詐欺罪を構成すると同時に他面物価統制令に違反すること当然である

と判示ました。

大審院判決(明治45年1月29日)

 この判例において、取引所法違反と詐欺罪は観念的競合になるとしました。

 裁判官は、

  • 仲買人に定期取引の取次をなす者の如く装い、右取引に要する手数料として、金員を交付せしめ、これを仲買人に交付せずして、自ら相手方となり、取引所以外において、取引所の定期取引と類似の取引をなしめたる行為は1個なるも、一面においては、取引所法違反に当たり、他の一面においては、詐欺罪に当たるもんのとす

と判示しました。

詐欺罪が特別刑法違反との関係で、牽連犯になるとした判例

 詐欺罪が特別刑法違反との関係で、牽連犯とされた判例を紹介します。

大審院判決(大正9年7月7日)

 この判例において、度量衡違反と詐欺罪は牽連犯になるとしました。

 裁判官は、

  • 不正に衡器を使用し、人を欺罔し、財産上の利益を得んとしたるときは、衡器不正使用の行為は、詐欺罪の具体的構成事実なりといえども、財産上不法の利益を得んがために施したる手段にして、詐欺罪は衡器不正使用の結果にほかならざるをもって、刑法第54条第1項後段(※牽連犯の規定)を適用すべきものとす

と判示しました。

大審院判決(大正12年12月12日)

 上記判例と同じく、度量衡違反と詐欺罪は牽連犯になるとしました。

 裁判官は、

  • 度量衡器を変造し、これを使用して人を欺罔し、財産上不法の利益を得たるときは、度量衡法違反と詐欺との間に牽連関係を認むべきものとす

と判示しました。

大審院判決(大正12年4月5日)

 この判例において、電信法違反と詐欺罪は牽連犯になるとしました。

 裁判官は、

  • 電信法第33条の虚偽通信の罪は、刑法第246条の詐欺罪の特別罪にあらず
  • 従って、電信により虚偽の通信を発し、よって郵便吏員を欺罔し、電信為替証書を騙取したる行為は、電信法第33条並びに刑法第246条に該当し、刑法第54条第1項後段(※牽連犯の規定)の適用を受けるべきものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和15年10月28日)

 上記判例と同じく、電信法違反と詐欺罪は牽連犯になるとしました。

 裁判官は、

  • 虚偽の電報により詐欺行為を行いたる場合にありては、電信法違反と詐欺との間に手段結果の関係あるものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和16年3月27日)

 この判例において、輸出入品等臨時措置法違反と詐欺罪は牽連犯になるとしました。

 裁判官は、

  • 揮発油(ガソリン)購買券交付申請書に虚偽の記載をなし、これを行使して該当役所を欺罔し、よって揮発油購入権の交付を受けたるときは、輸出入品等に関する臨時措置に関する法律第6条違反の罪と刑法第246条の罪との牽連罪を構成するものとす

と判示しました。

詐欺罪が特別刑法違反との関係で、併合罪になるとした判例

 詐欺罪が特別刑法違反との関係で、併合罪とされた判例を紹介します。

最高裁判決(昭和24年9月1日)

 この判例において、物価統制令違反と詐欺罪は併合罪になるとしました。

 裁判官は、

  • 被告人らが、公文書を偽造行使して詐取した米麦を他に売却するについても詐欺によって侵害された財産法益が引続いて侵害されるにとどまる場合は、売却の所為は詐欺罪に包摂されると解すべきであるが、本件の場合のように、米麦の統制価格を超えて売却した場合は、詐欺罪によって侵害された法益と別異の法益である物価統制令の保護せんとする国民生活の安定という法益を侵害するものであるから、原審において、被告人らが詐取した米麦を統制価格を超えて売却した所為に対して物価統制令を適用して処断したからといって、原判決には所論のように二重に処罰した違法は毛頭存しない
  • 詐欺と物価統制令違反の罪とは刑法45条前段の併合罪にあたる

と判示しました。

高松高裁判決(昭和33年10月18日)

 専業主婦が従業員でない者を従業員であるように仮装して、被保険者の資格を取得させるため、虚偽の届出をした健康保険法違反罪と虚偽の証明をして、右保険者に傷病手当金名下に金員を受領させた詐欺罪とが併合罪になるとしました。

 裁判官は、

  • 被告人の従業員でない者を従業員の如く仮装して被保険者を取得せしめんがため、虚偽の届出をした健康保険法違反罪の所為と、右所為により被保険者の資格を取得した者の申出に基づき、事業主として、傷病手当金の交付申請手続に必要な一定の期間組合の労務に服し得なかった旨の虚偽の証明をして、傷病手当金名下金員を受領せしめた詐欺罪とは、その犯罪の性質上、通常、手段結果の関係があるとは認められず、両者は併合罪と認べきである

と判示しました。

名古屋高裁判決(昭和49年10月7日)

 医師でない者が医業をし、他の医師名義で保険医の登録をした上、国民健康保険団体連合会から診療報酬を取得した場合は、医師法違反の罪のほかに詐欺罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。

 まず、被告人の弁護人は、

  • 医師法第17条の法意は、医師でない者が反復継続して医療業務をなし、かつ、その報酬を請求し、これを受領する行為を一括包含して禁止したものであり、従って、診療報酬金の支払いを受けても、別個に詐欺罪は成立しない(※医師法違反の罪のみが成立し、別で詐欺罪は成立しない)

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 医師法第17条は、「医師でなければ医業をなしてはならない」と規定しているが、右にいわゆる「医業をなす」とは、反復継続の意思をもって、人の疾病を治療する目的で、医学の専門知識と基礎とする経験と技術とを用いて診断、処方、投薬、外科的手術等を行うことを指称すると解すべきところ、このような医業を法が資格を有する医師に限定している所以は、医学上の知識と技能を有しない者が、みだりに医行為を行うときは、生理上危険があるため、国民健康上の見地から、これを防止しようとするにあって、右医師法第17条自体は、医療行為に伴う報酬請求ないしはその受領まで予想して、これを禁止することをも包含するものではない
  • なるほど、非医師が医師を装い、反復継続の意思をもって、医行為をなす場合、報酬を請求し、これを受領することが多いといえるけれども、必ずしも報酬を得ることを目的とせず、名誉欲あるいは趣味等からする場合もあり、まして、健康保険団体連合会などに対し、その治療費の支払を請求するのが常態であるとはいうことができない
  • また、非医師が患者を診療し、実際に投薬等の実費を支出したからといって、診療報酬たる保険給付を当然の権利として請求することはできない
  • 蓋し、権利の行使というためには、取得した利益が不法なものでないというにとどまらず、その利益を取得すること自体が当然の権利に属する場合でなければならないからである
  • 従って、資格がないのに、他人名義で保険医の指定を受け、診療請求書を作成して保険金を受領したという事実関係の下では、独立して詐欺罪の成立を認むべきは当然である

と判示し、医師法違反と詐欺罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。

詐欺罪が特別刑法違反との関係で、包括一罪になるとした判例

 詐欺罪が特別刑法違反との関係で、包括一罪とされた判例を紹介します。

東京高裁判決(平成20年7月3日)

 振り込め詐欺の事案に関し、詐欺を継続する中で、同種の犯罪収益について同一の犯意の下に第三者名義の口座を利用して行った犯罪収益の仮装は、包括して1個の犯罪収益等隠匿罪(組織犯罪法10条1項)を構成すると解すべきであって、観念的競合の関係に立つ犯罪収益等隠匿と各組織的詐欺とは結局一罪となるとしました。

 裁判官は、

  • 被告人らは、振り込め詐欺グループの活動として、アダルトサイトに接続したことのある者に電話をかけ、正当な権限に基づく料金の請求であるかのように装い、その旨誤信した被害者8名をして、平成18年7月から同年11月にかけて、合計10回にわたり合計5つの第三者名義の普通預金口座に振込入金させ、詐欺の罪に当たる行為を実行するための組織により金をだまし取るとともに、犯罪収益の仮装を行ったものである
  • 被告人らは、複数の第三者名義口座のうちから、口座に大きな金額を残したまま利用停止とされないように一日にATMで引き出せる限度額などを考慮して、犯罪の度に振込口座を選び、被害者に金を振り込ませていたことが認められ、被告人らは、振り込め詐欺を継続する中で、同種の犯罪収益について、同一の犯意の下に上記各口座を利用して犯罪収益の仮装を行ったと認められる
  • 以上の事実関係の下では、各犯罪収益の仮装は、包括して1個の犯罪収益等隠匿罪を構成すると解すべきであって、観念的競合の関係に立つ犯罪収益等隠匿と各組織的詐欺は結局一罪となるから、犯罪収益の仮装ごとに一罪が成立するとし、これと組織的詐欺が観念的競合の関係に立つとし、以上を併合罪とした原判決には、法令適用の誤りがある

と判示しました。