刑法(詐欺罪)

詐欺罪㊼ ~「財産的処分行為の有無は、詐欺罪と窃盗罪を区別する指標となる」を判例で解説~

 前回記事の続きです。

財産的処分行為の有無は、詐欺罪と窃盗罪を区別する指標となる

 詐欺被害者による財産的処分行為は、瑕疵のある任意性を要素とする詐欺罪と、単純な財物奪取罪である窃盗罪とを区別する指標(メルクマール)とされています。

 詐欺被害者が、錯誤により、詐欺犯人に、自ら現金などの財産を差し出す行為(財産的処分行為)をすれば、詐欺罪が成立することになります。

 これに対し、詐欺犯人が、詐欺被害者が財産を差し出す行為をすることなく、被害者の財産を奪い取ることをすれば、窃盗罪が成立することになります。

 たとえば、人を欺いてその注意を他に転じさせ、その隙に財物を奪取した場合には、相手方を錯誤に陥れる行為はあっても、その錯誤による相手方の財産的処分行為に基づく財物の交付は存しないから、詐欺罪ではなく、窃盗罪が成立することになります。

 このような場合に、詐欺罪の否定される理由は、相手方を錯誤に陥れた行為が、その錯誤に基づいて相手方に財産的処分行為をなさしめる人を欺く行為でないところにあるとも見ることができます。

 この点に関する判例として、以下の判例があります。

広島高裁判決(昭和30年9月6日)

 古着商の店頭で顧客を装って「上衣を見せてくれ」と言い、店主が上衣を見せると、上着を着てみた上、「一寸小便に行ってくる」と言って上着を着たまま表に出て逃走した事案で、被害者の財産的処分行為がないことから、詐欺罪ではなく、窃盗罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、顧客の如く装い、古物商B方店舗に到り、同人に対し上衣を見せてくれと申し、同人か店の右側にかけてあった国防色上衣を下して見せると、被告人はこれに手を通して着たところ、あんたには小さいようだというと、これ位はせわないといったが、一寸小便に行つて来ると申しこれを着たまま表へ出て逃走したものである
  • 本件はBが右のように上衣を被告人に交付したのは、被告人に一時見せるために過ぎないのであって、その際は未だBの上衣に対する事実上の支配は失われていないものというべく、従って被告人が右上衣を着たまま表へ出て逃走したのは、即ち同人の右事実上の支配を侵害しこれを奪取したものに外ならないと認むべきものである
  • 従って、原判決が被告人の右の所為をもって窃盗罪に問擬(もんぎ)したのは正当である

広島高裁判決(昭和32年12月24日)

 洋服類を詐取しようと考えて、被害者であるSの店舗に客を装って赴き、いろいろ物色したすえ、Sに対し、ダスターコートとシャツを買い求めるがごとく申し出て、Sの了承の下に、それら衣類を着用した後、尿意を催したと言って衣類を着用したまま逃走した事案で、裁判官は、被害者の財産的処分行為がないことから、詐欺罪ではなく、窃盗罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 窃盗罪が不法領得の意思の下に他人の意志に反して、その占有する財物を犯人の支配に移すことにより成立し、詐欺罪においては、たとえ犯人の欺罔手段によるとはいえ、あくまで被害者の自由意思により財物の占有が犯人に移転せられるものである
  • 被告人のダストコート及びシャツの着用は、未だ販売成立までの過程における、いわゆる仮りの交付というに過ぎず、被害者から終局的に占有の移転を受けたものとは言い難い
  • すなわち、被害者としては、もし売買が成立しないときは、直ちに被告人より本件衣類を回収し得うべき時間的、場所的位置関係にあり、従って、被告人が本件衣類を着用していたとはいえ、未だ売買の完全に成立しておらず、被告人または被害者の店舗内において店主の監視下にある以上、右衣類は依然被害者の支配下にあったものと解するのを相当とする
  • かかる状況の下において、右衣類を着用のままその場を逃走した被告人の所為は、他人の意思に反してその財物の占有を自己の支配に移したものと解し得べきこと疑いなく、窃盗罪を構成する

と判示しました。

東京高判決(昭和30年4月2日)

 時計店の店番に「陳列棚にある時計を見せてくれ」と要求し、店番が顧客と思い、これを見せるため渡したところ、隙を見て逃走した事案で、被害者の財産的処分行為がないことから、詐欺罪ではなく、窃盗罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 店番をしていたKは、被告人がその店の陳列窓の中の時計をのぞき込んだ上、被告人から時計を見せてくれと要求されたので、顧客と思い、これを見せるため被告人に渡したところ、被告人は、隙に乗じてこれを奪い逃げ出した事実を認めることができる
  • すなわち、本件は、Kが右のように時計を被告人に交付したのは、被告人にこれを一時見せるために過ぎないのであり、その際、時計を奪取した被告人の所為を窃盗罪に問擬した原判決は正当である
  • Kが被告人に時計を渡したことを目して、被告人の事実上の支配内に移した処分行為と解することはできない
  • 従って、被告人が施用した欺罔手段があっても、詐欺罪は成立しないというべきである

と判示し、店番が被告人に時計を渡した行為は、時計を被告人の事実上の支配内に移した処分行為と解することはできないとして、詐欺罪ではなく、窃盗罪が成立するとしました。

名古屋高裁判決(昭和32年10月30日)

 被告人が、客を装って、Yの店舗に入り、店番をしていたYから時計など2点を「買い受けるから」と申し向けて受け取った上、Yの隙を見て、これを所持したまま同所から逃走した事案で、詐欺罪ではなく、窃盗罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 店舗内で店員などから買い受けるからと申し向けて商品を受け取っただけでは、右商品の占有はなおその店主にあり、いまだ右前者移転し終わったものではないと認めるのが相当であるから、店員の承諾を得ないで、これを持ち逃げした所為は、まさに窃盗を構成するものといわなければならない

と判示しました。

最高裁決定(昭和31年1月19日)

 旅館の宿泊客が、不法領得の意思で、その旅館の提供した丹前、浴衣等を着用したまま、「手紙を出して来る」と申し向けて逃走した事案で、裁判官は、

  • 本件のように被告人が旅館に宿泊し、普通に旅館が旅客に提供するその所有の丹前、浴衣を着、帯をしめ、下駄をはいたままの状態で外出しても、その丹前等の所持は所有者である旅館に存するものと解するを相当とする

と判示し、未だ被害品の所持は旅館にあり、旅館の財産的処分行為はないことから、詐欺罪でなく、窃盗罪が成立するとしました。

最高裁判決(昭和26年12月14日)

 甲が、甲方の玄関において、被告人と対談し、被告人の虚言を誤信して、自ら現金70万円を油糧公団まで持参するつもりで、70万円の紙幣を入れた風呂敷包を甲方の奥の方から持ち出し、これを玄関の上り口に置いたまま、被告人だけを残して便所に行ったところ、被告人がその隙に現金を持って逃走した事案で、裁判官は

  • 財物の騙取(詐取)とは、犯人の施用した欺罔(人を欺く)手段により、他人を錯誤に陥れ、財物を犯人自身又はその代人若しくは第三者に交付せしむるか、あるいはこれらの者の自由支配内に置かしむることをいう

とし、被告人が現金を詐取したものと認め、詐欺罪が成立するとしました。

 しかし、この判決には、有識者において疑問が呈されており、

  • 便所に行くために現金入りの風呂敷包を玄関の上り口に置いたという行為が、被告人の人を欺く行為によって惹起された錯誤に基づく甲の処分行為といえるかどうか甚だ疑わしい
  • 現金の占有はまだ甲にあり、ただその占有が弛緩しただけであるから、窃盗罪とすべきである
  • 交付ということが存在するためには,一方には,交付者が占有していたことが必要である(三角詐欺の場合は別として)と同時に、他方では占有の『移転』が必要であり、占有の『弛緩』では足りない
  • 甲の錯誤に基づく財産的処分行為としての「交付」がなかったものと見るべきである

などと指摘がされ、詐欺罪ではなく、窃盗罪が成立するという指摘がなされています。

東京高裁判決(昭和45年5月4日)

 この判例は、一審判決で窃盗罪が成立するとした判決を否定し、二審で詐欺罪の成立を認めた判例です。

 裁判官は、

  • (一審判決で、)被告人は、Kと共謀の上、東京都所在の宝飾店Aにおいて、Y所有のダイヤ3.02カラット1個(時価約500万円相当)を窃取したものである(刑法第235条第60条)というにあるところ、記録を調査し、当審における事実取調の結果をも加えて検討すると、被告人は、YからY所有のダイヤ3.02カラット1個の売却斡旋方を依頼されるや、売買の斡旋をするように装ってこれを領得しようと企て、知り合いのKと共謀の上、Kを右ダイヤを買いたいという銀座のバーの経営者に仕立て、高級車を運転してYを迎えに行き、喫茶店Bに伴い、Kを買主としてYに紹介し、被告人が右ダイヤの売買を斡旋するもののように装って話を進め、Yが持参した封筒入りダイヤの封を切って右ダイヤをKに示すや、Kにおいてダイヤを鑑定させた上、金500万円でこれを買い受けると称し、被告人が、かねて知っている宝飾店Aにダイヤを持参して鑑定させることとし、被告人が売買の斡旋をするものと信用した被害者Yから、喫茶店Bにおいて、鑑定を依頼するため一時預かると称して右ダイヤ及び封筒の交付を受けたこと、次いで被告人は右ダイヤを携え、K(※共犯者)及びY(※被害者)とともに右宝飾店Aに赴き、被告人にダイヤの時価の鑑定を依頼して、これを店員に渡し、その鑑定を受けた後、右ダイヤの返還を受けたが、その際、秘かに途中で拾った小石を前記Yの持参した封筒に入れ、これと右ダイヤを懐中に所持したまま、K及びYと前後して宝飾店Bを出て、Kは途中代金を持参すると称して立ち去り、被告人はYと同道して再び喫茶店Bに戻った上、被告人は代金を取りに行ったKを待つものの如く装い、Yもこれを信用していたが、やがて被告人はKの来るのが遅いから電話をかけてくると偽り、前記小石入り封筒を、あたかも右ダイヤが入っているもののように装い、Yの面前のテーブルに置き、右ダイヤを携えたまま同店から立ち去り逃走したことを認めることができ、原判決も宝飾店Aにおいて、鑑定依頼後、返還を受けたダイヤを小石と摩り替えて窃取したものと認定しているものである
  • 被告人の意思は、被害者Yの意に反してダイヤを窃取するというよりは、Yを欺罔してダイヤの任意提出を受けるにあったことは、証拠により認められるところである
  • Yは、ダイヤを買いたいというKと、その間、売買を斡旋するものの如く装った被告人とを全く信用して右ダイヤを鑑定させるため、これを被告人に交付したものである
  • Yは、既に喫茶店Bにおけるダイヤの交付によってその所持を被告人に移転し、被告人は、よって右ダイヤの単独占有を取得し、刑法246条1項にいう「財物を騙取したる者」に該当するに至ったものと解すべきであり、その後、被告人が右ダイヤを携えたまま鑑定依頼のため、宝飾店Bに赴き、鑑定後、返還を受けたダイヤに代えて小石を封筒に入れた上、喫茶店Bに戻り、右封筒を被告人の面前に差し置いて逃走するまでの一連の所為は、既に騙取を遂げた右ダイヤの所持を確保するための事後行為として評価するのが相当である
  • それ故、被告人の右所為を窃盗罪に問擬(もんぎ)した原判決は、事実を誤認したものである

と判示し、一審で窃盗罪を言い渡した判決を破棄し、詐欺罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和49年10月23日)

 被告人は、老人甲が生活扶助金を受け取りにA銀行B支店に行くのを見て、これについて行き、老人甲がその普通預金口座に振り込まれた生活扶助金の払戻手続をするそばにいて、銀行の預金係の呼出しに応じていち早く預金係のところへ行き、引換票の提示を求められるや甲を手で招き、甲の差し出す引換票と引換えに預金係が生活扶助金3万4000円余をカウンターの上に差し出すや、素早くこれを受け取り銀行の外に出た事案で、裁判官は、

  • なるほど銀行の預金係は、被告人を老人の代りに金を受け取りに来たものと誤信してこれを差出し、被告人は老人の付き添いのように装い、これを受け取ったことが窺われるが、右のように銀行において係員から本人が払戻請求をした金を本人の目の前で本人の代わりに受け取るように装い、受け取ったとしても直ちに人を欺罔し、任意の交付を受けて財物を騙取したとはいえず、右金の占有は、なお銀行にあり、いまだその占有は被告人に移転していないと認めるのが相当である
  • 而して、被告人が銀行あるいは本人の承諾を得ないでこれを持ったまま銀行の外に出てしまったことにより、はじめてその金を自己の事実上の支配に移し、従ってこれに対する銀行の占有を侵奪したものと解するのを相当とする
  • それ故、原判決が被告人の所為をもって窃盗罪に問擬したのは正当であって、これを詐欺罪というのは当たらない

と判示し、詐欺罪ではなく、窃盗罪の成立を認めました。

 この判例は、金銭の占有の移転は、銀行のカウンター上にあるうちは、なお銀行の占有下にあり、受取人がそれを手に把持して初めて占有が移転すると見ているのであって、本件の場合、前記のように金銭に対する銀行の占有が弛緩しただけにすぎないと評価したものと評価できます。

最高裁判決(昭和61年11月18日)

 この判例では、詐欺罪が成立するか、窃盗罪が成立するがが問題になりました。

 事案の内容は、甲と乙が、当初は丙を殺害してその所持する覚せい剤を強取することを計画したが、その後計画を変更し、共謀の上、まず甲において、覚せい剤取引の斡旋にかこつけて丙をホテルの一室に呼び出し、別室に買主が待機しているように装って、「覚せい剤の売買の話をまとめるためには現物を買主に見せる必要がある」旨申し向けて、丙から覚せい剤を受け取り、これを持って同ホテルから逃走した後、間もなく、乙が丙のいる部屋に赴き、丙を拳銃で狙撃したが殺害の目的を遂げなかったというものです。

 覚せい剤の取得行為が窃盗罪と詐欺罪のいずれに当たるかが問題となりました。

 裁判官は、

  • 甲らが丙の財産的処分行為によって本件覚せい剤の占有を取得したものとみて、被告人(乙)らによる本件覚せい剤の取得行為は、それ自体としては詐欺罪に当たると解することもできないわけではないが、他方、本件覚せい剤に対する丙の占有は、甲らにこれを渡したことによっては未だ失われず、その後、甲らが丙の意思に反して持ち逃げしたことによって失われたものとみて、本件覚せい剤の取得行為は、それだけをみれば窃盗罪に当たると解する余地もある

と判示し、覚醒剤の取得行為について、詐欺罪が成立するか、窃盗罪が成立するか断定はしませんでしたが、「窃盗罪又は詐欺罪」と「二項強盗による強盗殺人未遂罪(刑法236条2項)」の包括一罪が成立するとしました。

東京地裁八王子支部判決(平成3年8月28日)

 試乗車を乗り回すことに興味を覚えた被告人が、自動車販売店を訪れ、自動車を購入する旨うそをいって商談をした後、試乗したいと話を持ちかけて、同店に置いてあった試乗車を乗り逃げした事案です。

 まず、検察官は、

  • 「いわゆる試乗」は、自動車販売店である被害者が、サービスの一貫として、顧客になると予想される者に対し、当分車両の性能等を試してもらうことを目的に行っているものであって、試乗時間は10分ないし20分程度を、その運転距離も試乗を開始した地点の周辺が予定されており、そのため試乗車にはわずかなガソリンしかいれていないこと、試乗車にもナンバープレートが取り付けられており、仮に勝手に乗り回されても、直ちに発見される可能性が極めて高いことなどからすると、試乗に供された車両については被害者の事実上の支配が強く及んでおり、被告人の試乗車の乗り逃げ行為によって初めて、被害者側の事実上の支配を排除して被告人が自己の支配を確立したと見るべきであり、窃盗罪が成立することは明らかである

と主張しました。

 これに対し、裁判官は、

  • 自動車販売店の営業員等が試乗車に添乗している場合には,試乗車に対する自動車販売店の事実上の支配も継続しており、試乗車が自動車販売店の占有下にあるといえるが、本件のように、添乗員を付けないで試乗希望者に単独試乗させた場合には、たとえ僅かなガソリンしか入れておかなくとも、被告人が本件でやったように、試乗車においてガソリンを補給することができ、ガソリンを補給すれば試乗予定区間を外れて長時間にわたり長距離を走行することが可能であり、また、ナンバープレートが取り付けられていても、自動車は移動性が高く、殊に大都市においては多数の車両に紛れて、その発見が容易でないことからすれば、もはや自動車販売店の試乗車に対する事実上の支配は失われたものとみるのが相当である

と判示し、窃盗罪ではなく、詐欺罪が成立するとしました。

東京高裁判決(平成12年8月29日)

 店員から差し出された商品(テレホンカード)を店外に持ち出した行為について、窃盗罪ではなく、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • (1)被告人は、A薬局から商品をだまし取ろうと考え、客を装って右薬局を訪ね、店番の者と雑談をして顔見知りになった上、平成11年7月10日頃、同薬局に赴き、店主の妻で店番をしていたB子に対し、中元進物として使うと嘘を言って、石けんセット10組を取り寄せるよう依頼するとともに、同薬局でテレホンカードも取り扱うことを知って、テレホンカード80枚(1000円相当のカード50枚、500円相当のカード30枚)を注文したが、右B子は、被告人の注文が真意に出たものと信じて、これに承諾した
  • (2)被告人は、同月14日、再度、同薬局に赴き、右B子に対し、近所の大きな家具店の名前の入った名刺を差し出し、そこの二代目であると嘘を言った。これを真に受けたB子は、被告人に対し、石けんセットの取寄せはまだできていないが、テレホンカードは準備できている旨を伝え、注文どおりの枚数のテレホンカードを販売ケースの上に置いて、「枚数を確認して下さい」といった
  • (3)すると、被告人は、右テレホンカードを手に取って枚数を数える振りをし、さらに、B子に対し、「今若い衆が外で待ってるから、これを渡してくる。お金を今払うから、先に渡してくる」と申し出て、金目のものは何も入っていない自分のセカンドバッグを店内の椅子の上にわざと残したまま、テレホンカードを持って店外に出た。この申し出を聞いたB子は、被告人が、その言葉どおり、店外にいる連れの者にテレホンカードを渡してすぐに戻り、代金を払ってくれるものと思い込み、被告人がテレホンカードを持ったまま店外に出ることを目の前で認識しながら、何らとがめることもしなかった
  • (4)被告人は、右のように言い置いて店外に出た後、テレホンカードを携帯したまま、用意してあった自転車に乗って逃走した
  • 被告人は、前記薬局から商品を詐取する意図のもとに、客を装って同薬局を訪れては機会を狙ううち、テレホンカードをだまし取る意思で、店番をしていた前記B子に対し、80枚購入する旨の嘘の注文をした上、さらに数日後これを受け取りに赴き、枚数を確認するように同人から販売ケースから差し出されたテレホンカードを手に取った際、(3)掲記の嘘をついて、その旨誤信した同人に、テレホンカードの店外持ち出しを了解・容認させたもので、もし、B子が被告人の申し出の嘘を見破っていれば、テレホンカードの店外持ち出しを容認せず、ただちに右申し出を拒むとともに、即時、その場で代金の支払いを要求したことは明らかである
  • これを要するに、B子は、被告人一連の虚言により、被告人が近所の家具店の者であって、テレホンカードを購入してくれるものと誤信し、すぐに戻って来て代金を支払う旨の被告人の嘘に騙されて、注文されたテレホンカード80枚を被告人に交付したものと認められる
  • したがって、被告人の行為は、詐欺罪に該当することが明らかである
  • この点につき、原判決は、①B子は、枚数を確認させようとして、テレホンカードを被告人の前の販売ケースの上に置いたのであって、その処分を被告人に委ねたとは認められないから、B子の右所為は、詐欺罪における被欺罔者の処分行為に当たらない、②「今、若い衆が外で待っているから、これを渡してくる」などと言って店番の女子の気をそらし、その隙に乗じてテレホンカードを持ち去った旨の被告人の捜査段階における供述は、被告人に対応したB子の原審証言とも合致していて信用でき、これに反する被告人に対応したB子の原審証言とも合致していて信用でき、これに反する被告人の原審公判供述は信用できないとして、本件は窃盗罪に当たるという結論を導いている
  • しかしながら、被告人が、テレホンカードの詐取を意図していたことは、被告人の言動から明らかである
  • そして、被告人に対応したB子の原審証言には、テレホンカードを盗まれた旨述べた部分があるけれども、これは代金を支払わずに持ち去された事態をそのように表現したものと認められるのであって、その供述の要点は、被告人の言葉に注意をそらした際に、テレホンカードを盗まれたというものではなく、同人は、被告人が販売ケースの上のテレホンカードを手に取って店外に持ち出すのをその場で認識していたが、被告人がセカンドバッグを店内に残したままであることを見て取り、その際の被告人の(3)掲記の言葉を信じて、被告人の右の行動を了解・容認したというにある
  • すなわち、同人は、欺かれ、テレホンカードを被告人に交付したというべきである
  • 原判決の判断は肯首できない

と判示し、一審判決が窃盗罪を認定したのを否定し、詐欺罪が成立するとしました。

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