伝聞証拠、伝聞法則を理解する意義
刑事裁判は、直接主義(裁判所が公判廷で直接に取り調べた証拠に基づいて裁判をしなければならないという原則)が採用されており、裁判官、検察官、被告人・弁護人が法廷に集まり、その法廷で事件関係者(犯罪被害者など)の話を直接聞くというのが原則的なルールになっています。
なので、伝聞証拠(事件関係者の話を別の人が聞いて、その別の人が事件関係者から聞いた話を書面や口頭で裁判官に伝えるという又聞きの証拠)は、直接主義に反するので、原則、刑事裁判では使えません(これを「伝聞法則」といいます)。
しかし、伝聞証拠は便利です。
伝聞証拠を裁判官に提出できれば、犯罪被害者などの事件関係者が公判に出廷し、裁判官、検察官、被告人・弁護人の面前で、被害状況などを証言しなくて済みます。
現実問題として、裁判で伝聞証拠が全く使えなければ、犯罪被害者などの事件関係者全員が公判に出廷して証言しなければならなくなり、刑事裁判の迅速性が害されます。
なので、法は、伝聞法則(伝聞証拠は使えないとするルール)の例外として、伝聞証拠を使えるようにするルールを設けることにし、以下の法定の条件を満たせば伝聞証拠が使えるようにしています(この点のことは後の記事で説明します)。
- 刑訴法321条(被告人以外の者の供述代用書面)
- 刑訴法321条の2(ビデオリンク方式による証人尋問調書)
- 刑訴法322条(被告人の供述代用書面)
- 刑訴法323条(特信書面)
- 刑訴法324条(伝聞供述)
- 刑訴法326条(同意証拠)
- 刑訴法327条(合意書面)
この伝聞証拠を使えるようにするルールを理解するために、伝聞証拠、伝聞法則とは何か理解する意義が生まれます。
以下で伝聞証拠、伝聞法則について詳しく説明します。
伝聞証拠とは? 伝聞供述とは?
「伝聞証拠」とは、
公判廷外の供述で、裁判官の面前で当事者(検察官、被告人・弁護人)が供述者に対して反対尋問を行っていない供述証拠
をいいます。
具体的には、「伝聞証拠」は、
- 公判期日外における他の者の供述を内容とする供述
- 公判期日における供述に代わる書面
が該当します(刑訴法320条1項)。
「①公判期日外における他の者の供述を内容とする供述」とは、分かりやすくいうと、
法廷外で他人から聞いた事実(又聞きの事実)を法廷で裁判所に供述すること
をいいます。
例えば、犯罪被害者Aが、自分が被害状況をBに話し、Bが法廷においてAから聞いた内容を裁判官に供述(証言)する場合がこれに該当します。
このときのBの裁判所に対する供述を
伝聞供述
といいます。
なお、この場合のAを「原供述者」、Bを「伝聞供述者」、BがAから聞いたまた聞きの事実を「伝聞事実」といいます。
「②公判期日における供述に代わる書面」とは、例えば、
- 犯罪被害者Aが、被害状況を自ら法廷に出て証言する代わりに、その内容をAが自ら書面に記載し、その書面(供述者が自ら作成した書面を「供述書」という)を裁判所に提出する場合
あるいは、
- 犯罪被害者Aが、被害状況を第三者C(警察官や検察官など)に話し、 Cがその供述を録取した書面を作成し、その書面(第三者が供述者から聞いた話を記載して作成した書面を「供述録取書」という)を裁判所に提出する場合
が該当します。
「犯罪被害者Aが自ら作成した供述書」、「第三者CがAの供述を録取した供述録取書」は、いずれもAが法廷で直接供述する代わりに作成された書面となり、これを
供述代用書面
と呼びます。
この供述代用書面を法廷に提出する行為は、実質的には、犯罪被害者Aの代わりに第三者Cが法廷に出て、Aから聞いた事実を口頭で供述するのと変わらないため、供述代用書面は、上記の伝聞供述と同様に扱われます。
このことから、法は、伝聞供述と供述代用書面の双方を合わせて伝聞証拠としました。
伝聞法則とは?
伝聞法則とは、
検察官が証明しようとする事実(要証事実)を、その事実を自ら体験した者の公判廷における供述によるのではなく、その体験者の供述書や供述録取書(供述代用書面)、あるいは、体験者から話を聞いた他者の供述(伝聞供述)のように、他の間接的な方法によって証明することは許さない法則
をいいます(刑訴法320条1項)。
端的に言うと、伝聞法則は、
伝聞証拠(伝聞供述と供述代用書面)の証拠能力を原則として否定する法則
をいいます。
伝聞証拠の証拠能力が否定されるのは、伝聞証拠は、知覚、記憶、叙述の過程を経て作成されるところ、その過程に誤りが入るおそれが高いためです。
これらの誤りは、当事者(検察官、被告人・弁護人)が供述者に対して質問を投げかけることにより、供述の真実性のチェックをし、誤りの存在を確認する必要があります。
具体的には、公判廷において(実際の裁判において)、当事者(検察官、被告人・弁護人)が伝聞証拠の供述者に対して反対尋問を行い、供述内容の真実性を確認する手続が行われます。
この手続を経ることにより、伝聞証拠の証拠能力が肯定されることになります。
なお、憲法37条2項前段が、被告人の反対尋問権を保障していることからも、反対尋問権を行使できない伝聞証拠の証拠能力は否定されるといえます。
次回の記事に続く
次回の記事では、
伝聞法則(伝聞証拠は原則使えないとするルール)が存在する理由
を説明ます。