刑事訴訟法(公判)

伝聞証拠⑪~刑訴法321条4項の鑑定書の説明(「鑑定書とは?」「鑑定人とは?」「鑑定受託者とは?」「証拠能力の付与の方法」など)

 前回の記事の続きです。

 前回の記事では、刑訴法321条3項の「捜査機関の検証調書」の説明をしました。

 今回の記事では、刑訴法321条4項の「鑑定書」の説明をします。

刑訴法321条4項の鑑定書の説明

鑑定書とは?

 鑑定書は、

鑑定人が特別の知識・経験に基づいて行った判断の結果と経過を報告する書面

です。

 例えば、

  • DNA鑑定の専門家が作成するDNA型の調査結果の鑑定書
  • 指紋鑑定の専門家が作成した現場に残された指紋が犯人の指紋と一致するか否かの鑑定書
  • 薬物犯を体内に摂取しているかどうかを調査した鑑定書
  • 医師の診断書
  • 消防員作成の火災原因判定書

などが鑑定書に該当します。

 この点、参考になる裁判例として以下のものがあります。

札幌高裁判決(平成10年5月12日)

 現場指紋対照結果通知書(指紋の鑑定書)は刑訴法321条4項に書面に準ずる書面であり、刑訴法321条4項で証拠能力が付与されると判示した事例です。

 裁判官は、

  • 事件捜査の過程で、事件現場で採用された指紋を専門的知識・経験を有する者が分析・対照し、これにより容疑者を特定する手法が用いられた場合、右指紋の分析・対照の経過・内容・結果等が記載された文書は、その性格・内容等からして、刑訴法323条1号該当の書面ではなく、同法321条4項の鑑定書に準じた書面とみるべきである
  • これを被告人側が不同意とした場合には、公判期日においてその作成者を証人として尋問し、その作成が真正になされたものであることの立証がなされなければならないものと解される

と判示しました。

最高裁判決(昭和32年7月25日)

 医師の作成した診断書には、正規の鑑定人の作成した書面に関する刑事訴訟法321条4項が準用されるものと解するを相当とするとしました。

広島高裁判決(平成8年5月23日)

 火災原因判定に関する高度の知見、知識及び数多くの火災原因判定の経験を有する消防員作成の火災原因判定書は、刑事訴訟法321条4項の書面に当たるとしました。

 裁判官は、

  • 刑訴法321条4項において、鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについて、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、これを証拠とすることができる旨規定しているのは、当該書面の内容が実質的に鑑定人の鑑定書と同視できるものであればその書面の証拠能力を認める趣旨であると解される
  • 火災原因判定書についてみるに、その内容は、関係者の供述内容、実況見分の状況、実験結果等から出火個所を判定し、出火原因の検討をなして出火原因の判定をなしている内容のものであることが認められ、火災原因を決定するまでの経過及び結果を記載したものであって、実質的に特別の知識・経験を有する者の判断を内容とするものと認められる
  • そして、消防機関は、消防法31条ないし35条の4に従って、ことに「放火又は失火の疑いのあるときはその火災の原因の調査の主たる責任及び権限」がある旨規定されており、前記書面も同規定に従って作成されたものであるといえる
  • 消防士長N(※火災原因判定書の作成者)は、原審公判廷において同書面記載の正確性だけでなく、その内容についても実質的な反対尋問を弁護人から受けているところ、同人の原審証言等によれば、同人は、主に火災原因調査を職責としている上、火災原因判定に関する高度の知見、知識及び数多くの火災原因判定の経験を有する者であり、同人自身が本件火災が鎮火したころ現場に臨場して火災状況を見分し、また、被告人らからも供述を聴取していることが認められることなどに徴すると、公正さや客観性を損なわない適格性のある者の作成にかかる鑑定の経過及び結果を記載した書面であるといえ、同書面に刑訴法321条4項を準用して証拠能力を認めた原判決は正当である

旨判示しました。

鑑定書に対する証拠能力の付与の方法

 鑑定書は報告書の一種なので、証拠能力の付与のされ方は、刑訴法326条の証拠として採用しても良いとする相手方(検察官又は被告人・弁護人)の同意がない場合は、刑訴法321条1項3号により3号書面として証拠能力が付与されそうです。

 しかし、鑑定は、特別の専門的な知識経験を有する者だけが認識し得る法則や事実の供述であり、判断に至る過程も複雑であるため、鑑定の経過と結果は、証人尋問で法廷で鑑定人に口頭で報告させるよりも、鑑定書自体を証拠とした方が正確性を確保できます。

 なので、法は、鑑定書については、刑訴法321条1項3号よりも低いハードルで証拠能力が付与できるように、刑訴法321条4項の規定を設け、

鑑定人が公判期日において、証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したとき

に、証拠能力を与えることを定めました。

 ちなみに、この鑑定書に対する証拠能力の付与方法は、「捜査機関の検証調書」と同じ要件となっています。

鑑定人とは? 鑑定受託者とは?

 刑訴法321条4項の鑑定人とは、

裁判所から鑑定を命ぜられた者(刑訴法165条

を指します。

 これに対し、捜査機関(検察官、警察官)が鑑定を嘱託した者(刑訴法223条224条225条)は、「鑑定受託者」と呼ばれる者であり、刑訴法321条4項鑑定人ではありません。

 とはいえ、鑑定人と鑑定受託者の違いは、宣誓の有無(刑訴法166条)に差異があるだけで、そのほかの部分に違いはありません。

 なので、鑑定人と鑑定受託者実質的には変わりがないので、鑑定受託者作成の鑑定書にも、鑑定人作成の鑑定書と同様に、刑訴法321条4項が準用されて証拠能力が付与されます。

 この点について判示した判例があります。

最高裁判決(昭和28年10月15日)

 裁判官は、

  • 捜査機関の嘱託に基く鑑定書(刑訴223条)には、裁判所が命じた鑑定人の作成した書面に関する刑訴321条4項を準用すべきものである

と判示しました。

裁判所、捜査機関のいずれからも依頼されていない者の鑑定書は、刑訴法321条4項の鑑定書には該当しない

 裁判所・捜査機関のいずれからも依頼されていない者の鑑定書は、刑訴法321条4項の鑑定書には該当せず、刑訴法321条1項3号により証拠能力が与えられる供述書(3号書面)として扱われます。

 参考となる裁判例として以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和27年12月23日)

 裁判官は、

  • 犯罪科学研究所技師M作成の鑑定は、裁判所又は裁判官によって命ぜられた鑑定でないことはもちろん、刑訴法第223条による捜査機関の嘱託による鑑定でもなく、従って刑訴法の認めている正式の鑑定ということはできないのであるから、その経過及び結果を記載した本件書面は同法第321条第1項第3号に該当する供述書と認めるのが相当である

と判示しました。

次回の記事に続く

 次回の記事では

刑訴法321条の2のビデオリンク方式による証人尋問調書

を説明をします。