刑事訴訟法(公判)

公判の流れ②~「公判廷への被告人・弁護人の出頭」を説明

 前回の記事の続きです。

 前回の記事では、

公判手続の進行順序(冒頭手続→証拠調べ手続 →弁論手続→判決宣告)

を説明しました。

 今回の記事では、

公判廷への被告人・弁護人の出頭

を説明します。

公判廷への被告人の出頭(原則は出頭を要する、場合によっては不出頭が認められ得る)

 公判は、

  1. 裁判所
  2. 検察官
  3. 被告人、被告人の弁護人

の三主体によって進められます。

 なので、公判廷は、原則として、被告人が出頭しなけれは開廷することができません(刑訴法286条)。

 ただし、例外として、以下の①~⑦の場合には、被告人が出頭しなくても開廷することができます。

① 被告人が法人である場合

 被告人が法人である場合(会社などの法人が起訴された場合)は、被告人である法人が公判廷に出頭することは物理的にできませんので、被告人が出頭しなくても開廷することができます。

 この場合、法人の代表者が公判廷に出頭し、法人を代表して訴訟行為を行います(刑訴法27条)。

 あるいは、代表者以外の代理人を出頭させ、代理人が訴訟行為を行います(刑訴法283条)。

② 法定刑が50万円以下の罰金又は科料に当たる事件の場合

 法定刑が50万円(ただし、刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、5万円)以下の罰金又は科料に当たる事件の場合は、被告人の出頭は権利ですが、義務ではないので、被告人が出頭しなくても開廷することができます。

 また、この場合、被告人は、自身の代わりに代理人を出頭させることができます(刑訴法284条)。

③ 法定刑が拘留に当たる事件の場合

 法定刑が拘留に当たる事件の場合は、裁判所は、判決宣告の場合を除き、被告人の出頭がその権利の保護のため重要でないと認めるときは、被告人に対し、公判期日に出頭しないことを許すことができます(刑訴法285条1項)。

【補足説明】

 法定刑が罰金以下の刑(罰金・拘留・科料)として、例えば、

が該当します。

 また、

は罰金以下の刑が多く存在する法です。

 罰金以下の刑は、それほど多く存在しないので、法定刑が50万円以下の罰金又は科料に当たる事件に該当し、被告人の出頭が不要となるケースはあまりないといえます。

④ 法定刑が長期3年以下の懲役、禁錮、又は50万円を超える罰金に当たる事件の場合

 法定刑が長期3年以下の懲役、禁錮、又は50万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及ひ経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、5万円)を超える罰金に当たる事件の場合、裁判所は、冒頭手続の場合と判決宣告の場合を除き、被告人の不出頭を許可することができます(刑訴法285条2項)。

 つまり、この場合、裁判所の判断によっては、被告人は、冒頭手続を行う公判と、判決宣告を行う公判の2回だけ公判廷に出頭すればよいとされることがあり得ます。

⑤ 被告人が心神喪失の状態にあって、無罪・免訴・刑の免除・公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合

 被告人が心神喪失の状態にあって、無罪・免訴・刑の免除・公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合は、被告人の出頭を待たないで、直ちにその裁判をすることができます(刑訴法314条1項ただし書)。

⑥ 勾留中の被告人が、公判期日に召喚を受け、正当な理由がなく出頭を拒否し、刑事施設職員(警察や刑務所の職員)による引致を著しく困難にした場合

 上記①~⑤の場合に該当せず、勾留中の被告人が、公判期日召喚を受け、正当な理由がなく出頭を拒否し、刑事施設職員(警察や刑務所の職員)による引致を著しく困難にした場合は、裁判所は、被告人が出頭しなくても、その期日の公判手続を行うことができます(刑訴法286条の2刑訴法規則187条の2~187条の4)。

 この場合の被告人不出頭で行う公判手続は、全ての公判手続(冒頭手続、証拠調べ手続、弁論手続、判決宣告)を行うことができます(高松高裁判決 平成10年2月10日)。

 なお、被告人の出頭なしに行うことができるのは、「被告人が出頭しなかった日の公判手続」に限ります。

 なので、被告人が出頭しなかった公判の次以降の公判は、被告人の出頭なして開廷することはできません。

⑦ 公判廷に出頭した被告人が陳述をせず、裁判長の許可を受けないで退廷し、又は法廷の秩序維持のため裁判長から退廷を命ぜられた場合

 公判廷に出頭した被告人が陳述をせず、裁判長の許可を受けないで退廷し、又は法廷の秩序維持のため裁判長から退廷を命ぜられた場合、裁判所は、被告人の陳述を聴かないで判決をすることができます(刑訴法341条)。

 この点につき、参考となる判例があります。

最高裁判決(昭和50年9月11日)

 裁判官は、

  • 刑訴法341条が同条所定の事由があるときは被告人の陳述を聴かないで判決をすることができると定めた趣旨は、被告人の正当な防御権の放棄を理由とするものであり、この理は、判決の前提となる審理を行う場合においてもなんら異なるところはないから、いったん公判期日に出頭した被告人が裁判長から法廷の秩序維持のため退廷を命ぜられたときは、裁判所は同条に基き、被告人不在のまま当日の公判審理を行うことができるものと解すべきである

と判示しました。

公判廷への弁護人の出頭(弁護人の出頭が必須の場合がある)

 被告人の弁護人の出頭は、一般的には公判廷を開廷する要件ではなく、弁護人が出頭しなくても、被告人が出頭していれば、公判廷を開廷することができます。

 しかし、以下の①、②の事件については、弁護人がなければ開廷できません。

  1. 死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件(この事件を「必要的弁護事件」という)を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することはできない(刑訴法289条1項
  2. 「公判前整理手続」又は「期日間整理手続」に付された事件を審理する場合には、必要的弁護事件に該当しないときであっても、弁護人がなければ開廷することはできない(刑訴法316条の29)。

 なので、上記①、②の事件で、弁護人が出頭しないとき若しくは在廷しないとき、又は弁護人がないときは、裁判長は、職権で弁護人を付さなければなりません(刑訴法289条2項)。

 また、上記①、②の事件で、弁護人が出頭しないおそれがあるときは、裁判所は職権(裁判所の判断)で弁護人を付することができます(刑訴法289条3項)。

必要的弁護事件でも、判決宣告のみを行う場合は、被告人の出頭を必要としない

 必要的弁護事件であっても、判決宣告のみを行う場合は、被告人の出頭を必要としません。

 必要的弁護事件において、弁護人が出頭しなければ開廷できないのは、「事件を審理する場合」です。

 なので、必要的弁護事件であっても、判決宣告期日は、弁護人にその期日を通知して出頭の機会を与える限り、必ずしも弁護人の立会いを必要としません。

 これは、判決宣告期日は、既に攻撃・防御が尽くされ、弁論が終結した後の期日であるから、弁護人の立会いがなくても被告人の権利保護に欠けるところはないためです(最高裁判決 昭和30年1月11日)。

必要的弁護事件でも、弁護人が正当な理由なく出頭しない場合は、弁護人なしで開廷できる

 必要的弁護事件において、弁護人が、

  • 正当な理由がなく出頭しない
  • 裁判長の許可を受けずに退廷する
  • 法廷の秩序維持のために裁判長から退廷を命ぜられた

などした場合に、弁護人に対しては、被告人の場合でいうところの「被告人が出頭しないでも公判手続を行うことができる」とする規定(刑訴法286条の2341条)はありません。

 そのため、必要的弁護事件にもかかわらず、弁護人が正当な理由なく出頭しないなどで、審理を行うことができない事態に陥ることがあり得ます。

 この点について、最高裁は、条件によっては、必要的弁護人権でも、弁護人なしで審理を行うことができることを判例で示しています。

最高裁決定(平成7年3月27日)

 最高裁は、被告人の言動や被告人の意向に沿った弁護人らの対応によって、多数回にわたり審理が阻止され、弁護人の立会いの下に公判期日を開くことが不可能となった事案について、

  • 裁判所が弁護人出頭確保のための方策を尽したにもかかわらず、被告人が、弁護人の公判期日への出頭を妨げるなど、弁護人が在廷しての公判審理ができない事態を生じさせ、かつ、その事態を解消することが極めて困難な場合には、当該公判期日については、刑訴法289条1項の適用がないものと解するのが相当である
  • このような場合、被告人は、もはや必要的弁護制度による保護を受け得ないものというべきであるばかりでなく、実効ある弁護活動も期待できず、このような事態は、被告人の防御の利益の擁護のみならず、適正かつ迅速に公判審理を実現することをも目的とする刑訴法の本来想定しないところだからである
  • そうすると、第一審が弁護人の立会いのないまま実質審理を行ったのは、刑訴法289条1項に違反するものではないとした原判断は、正当として是認することができる

と判示し、弁護人の立会いがないまま公判期日の審理を行った第一審の手続を適法としました。

検察官・弁護人が正当な理由なく、裁判所の出頭命令に従わなかった場合の罰則

 検察官・弁護人が正当な理由なく、裁判所の出頭命令に従わなかった場合は、罰則を科される場合があります。

 この点は、刑訴法278条の2に規定があり、『出頭・在廷命令を受けた検察官又は弁護人が正当な理由がなくこれに従わないときは、決定で、10万円以下の過料に処し、かつ、その命令に従わないために生じた費用の賠償を命ずることができる』とされます。

 検察官又は弁護人の不出頭による公判手続の空転を回避するため、このような規定が設けられているものです。

 刑訴法278条の2の検察官・弁護人に対する過料の罰則の規定が合憲であるとした以下の判例があります。

最高裁決定(平成27年5月18日)

 最高裁は、

  • 刑訴法278条の2第3項は、正当な理由がなく同条の2第1項による出頭在廷命令に従わなかった検察官又は弁護人を10万円以下の過料に処することができる旨規定している
  • これは、従来の刑事裁判において、一部の事件で当事者による公判廷への不当な不出頭や退廷が審理遅延の一つの原因になっており、刑事裁判の充実、迅速化のためには裁判所の期日の指定等の訴訟指揮の実効性を担保する必要があり、また、連日的、計画的な審理を要請する裁判員制度の導入を機にその必要性が一層高まったとして、刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成16年法律第62号)によって、新たに裁判所が弁護人らに対して出頭在廷を命ずることができる旨の規定が設けられるとともに、その命令を実効あらしめるため過料等の制裁の規定も設けられたものである
  • 過料の制裁は、訴訟手続上の秩序違反行為に対する秩序罰として設けられるものであり、弁護士会等における内部秩序を維持するための弁護士法上の懲戒制度とは、目的や性質を異にする
  • そうすると、刑訴法278条の2第1項による公判期日等への出頭在廷命令に正当な理由なく従わなかった弁護人に対する過料の制裁を定めた同条の2第3項は、訴訟指揮の実効性担保のための手段として合理性、必要性があるといえ、弁護士法上の懲戒制度が既に存在していることを踏まえても、憲法31条37条3項に違反するものではない

と判示しました。

次回の記事に続く

 次回の記事では、

冒頭手続

を説明します