刑事訴訟法(公判)

伝聞証拠⑬~刑訴法322条の被告人の供述代用書面(供述書・供述録取書)の説明(被告人の「不利益事実の承認」「特信情況の下でなされた供述」に当たる供述書面の証拠能力など)

 前回の記事の続きです。

 前回の記事では、刑訴法321条の2のビデオリンク方式による証人尋問調書の説明をしました。

 今回の記事では、刑訴法322条の被告人の供述代用書面(供述書・供述録取書)の説明をします。

刑訴法322条の被告人の供述代用書面(供述書・供述録取書)の説明

 刑訴法322条は、被告人の供述代用書面(供述書供述録取書)への証拠能力の付与方法について規定しています。

※ 供述書は、供述者本人が自らの体験などを自らの手で書き記した書面です(上申書などが該当します)。

※ 供述録取書(供述調書ともいう)は、供述者の話を第三者(通常、警察官又は検察官)が聞き、その第三者が供述者から聞いた話を書き記した書面です。

 刑訴法322条のうち、

  • 1項は、被告人の供述書(被告人作成の上申書、メモなどの被告人が自分で書き記した書面)と通常の供述録取書(「供述調書」ともいう)に関する規定
  • 2項は、被告人の特殊の供述録取書である公判準備調書・公判調書に関する規定

です。

※ 被告人の公判調書は、被告人が公判において裁判官の面前で供述した内容を記載した書面です。

※ 被告人の公判準備調書は、「被告人を証人として公判期日外で尋問した場合に作成される証人尋問調書」が該当します(公判期日外の尋問の説明は前の記事参照)。

 刑訴法322条は、被告人の供述書・供述録取書について、それを『被告人に対する関係』で証拠とするために証拠能力を付与する規定です。

 被告人の供述書・供述録取書であっても、

  • それを他の共犯者に対する関係で証拠とする場合
  • 共犯者の供述書・供述録取書を被告人に対する関係で証拠とする場合

には、「被告人以外の者」の供述書・供述録取書として、刑訴法321条1項1号書面)又は2項2号書面)の適用を受け、証拠能力が付与されることになります。

【参考】供述書・供述録取書に対する被告人の署名押印の有無と証拠能力の関係

 「供述書」は、被告人の署名押印は必要ではありません。

 つまり、供述書は、被告人の署名押印がなくても証拠能力は否定されません。

 この点を判示した以下の裁判例があります。

東京高裁判決(昭和40年1月28日)

 裁判官は、

  • 刑事訴訟法第322条第1項は、被告人の供述調書等の証拠能力につき、(1)被告人が作成した供述書と(2)被告人の供述を録取した書面とを区別し、(2)の供述録取書面については、その記載内容が供述者である被告人の供述内容と一致することの確認手段として当該被告人の署名若しくは押印のあることを要するものとしているが、(1)の供述書については、右供述録 取書面と異なり、供述者である被告人の自作である点に信用をおき、作成者(供述者)である当該被告人の署名や押印のない場合にも法定の要件を具備するときは、これを証拠とすることができる旨規定していることは同条の文理上明白であり、同条同項の「被告人が作成した供述書」には、その被告人の署名も押印もこれを必要としないと解するのを相当する

と判示しました。

 これに対し、「供述録取書」には、被告人の署名及び録取者(被告人から話を聞き、その内容を書面にまとめた警察官や検察官など)の署名押印が必要です。

 これを欠く場合には、刑訴法326条の相手方(検察官又は被告人・弁護人)の証拠にしてもよいとする同意があれば、証拠能力が生じる場合があります(この点の説明は前の記事参照)。

1⃣ 刑訴法322条1項の被告人が作成した供述書・供述録取書の説明

 刑訴法322条1項は、被告人が作成した供述書、又は被告人の供述を録取した書面(供述録取書)で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が

  • 被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき

 又は

  • 特に信用すべき情況の下にされたものであるとき

に限りこれを証拠とすることができると規定します。

 これは、被告人の供述書・供述録取書は、

  1. その内容が「不利益事実の承認」(犯行の自白など)に当たるとき
  2. その供述が「特信情況」の下でなされたとき

のいずれかの場合には証拠能力があることを定めたものです。

① 被告人の「不利益事実の承認」に当たる供述書面の説明

 被告人の犯行の自白などが記載された不利益事実の承認に当たる書面は、任意性がある限り無条件で証拠能力が与えられます(刑訴法322条1項前段)。

 無条件で証拠能力が与えられる理由は、

  • 被告人の供述については、被告人自身が自分の供述について反対尋問することはあり得ないこと
  • その内容が被告人に不利益なものであれば、検察官が反対尋問をする必要がないこと(自白している被告人を追及する必要がない)

にあります。

 被告人の「不利益事実の承認」の供述は、被告人自身についても検察官についても反対尋問を考える必要がありません。

 被告人の「不利益事実の承認」の供述は、直接主義に基づき、裁判官による面前の確認を受けていないという点で伝聞証拠とされているにとどまるものです。

 被告人が自己に不利益なことを供述する場合には、虚偽が少ないと考えられることから、法は、被告人の「不利益事実の承認」の供述については、特信情況の存在を要件とせず、無条件で証拠能力を認めることとしました。

被告人の「不利益事実の承認」の供述が任意になされていない場合は証拠能力は付与されない

 被告人の「不利益事実の承認」の供述を内容とする書面は、その供述が任意にされたものでない疑いがあるときは証拠能力が付与されません(刑訴法322条1項ただし書)。

 逆に言えば、被告人の不利益事実の承認を内容とする書面は、供述の任意性さえあれば証拠能力が認められます。

 自白を内容とする不利益事実の承認については、刑訴法319条1項で任意性がなければ証拠とすることができないとの規定があります。

 しかし、自白以外の不利益事実の承認については任意性に関する規定がないので、刑訴法322条1項ただし書で任意性を要求し、任意性がなければ証拠能力が付与されないとする規定を設けたものです。

 被告人が有罪になりたくないなどの理由で、自己の不利益事実の承認を内容とする書面が証拠として裁判官に提出されないように抵抗する場合には、被告人は、「警察官に自白を強要された。だから自分の供述には任意性がない。」などと言って争う以外に方法はありません。

② 被告人の供述が「特信情況」の下でなされたと認められる書面の説明

 被告人の不利益事実の承認に当たらない書面、具体的には、

  • 被告人に有利な内容の書面(例えば、被告人が犯人でないことの主張が記載された書面)
  • 被告人に有利にも不利にもならない内容の書面

は無条件で証拠能力が与えられるのではなく、特信情況が認められる場合に限り、証拠能力が与えられます(刑訴法322条1項後段)。

 この理由として、

  • 被告人が自己に利益となる供述をする場合には、人は自分を守るため、自分に有利な解釈をした供述になりがちであり、一般に信用度が高いとは言えないこと
  • 被告人に不利益な事実の承認を内容としない被告人の供述に対しては、被告人自身の反対尋問を考える余地はないが、検察官による反対尋問の機会(検察官が被告人を追及する機会)を与えることを考慮する必要があること

が挙げられます。

 しかしながら、検察官が反対尋問の機会(被告人を追及する機会)を与えられたとしても、被告人には黙秘権があるため、検察官の追及(質問)に一切答えないことができます。

 そのため、被告人が黙秘をすれば、検察官の反対尋問が簡単に無力化されるため、法は、この点を考慮し、被告人の不利益事実の承認に当たらない書面は、被告人の供述に特信性がある場合に限り、証拠能力を付与することにしました。

2⃣ 刑訴法322条2項の被告人の公判準備調書、公判調書の説明

 刑訴法322条2項は、

被告人の公判準備又は公判期日における供述を録取した書面は、その供述が任意にされたものであると認めるときに限り、これを証拠とすることができる

と規定します。

 「被告人の公判準備における供述を録取した書面」は、

が該当します。

 「被告人の公判期日における供述を録取した書面」とは、

が該当します。

 これらの書面は、判決裁判所から見れば、法廷外で作成された書面の記載を証拠とするものであって、伝聞証拠となるので、刑訴法320条1項前段で証拠能力が排除される供述録取書に当たります。

 しかし、被告人の供述部分について、被告人が反対尋問をするということはあり得ませんし、検察官の反対尋問は、公判準備又は公判期日における供述なので既にその機会が与えられています。

 そこで、法は、任意性さえあれば、無条件に証拠能力を認めることにしたのです。

次回の記事続く

 次回の記事では、

刑訴法323条の特に信用できる書面

の説明をします。

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