刑法(殺人罪)

殺人罪(35) ~共同正犯②「殺人罪における承継的共同正犯」を解説~

殺人罪における承継的共同正犯

 承継的共同正犯とは、

ある人(犯人A)が犯罪行為に着手し、その犯罪行為が終わっていない段階で、あとからやって来た人(犯人B)が、犯人Aと共謀し、残りの犯罪行為をAとBの両方で実行する場合

の犯罪形態をいいます(詳しくは前の記事参照)。

 殺人罪においても、承継的共同正犯が成立するという見解が通説になっています。

 参考となる裁判例として、以下のものがあります。

大阪地裁判決(昭和45年1月17日)

【事案】

 Cが、Bが殺意をもって包丁でAの頸部等を数回切りつけるのを見て、Bに加勢してAに攻撃を加えようと決意し、その結果、Aが死亡するもやむを得ないと考え、ここにBとCの間で意思を通じて、Bがさらに包丁でAに切りつけようとしているところに、CがAに体当たりして倒し、Aの頭部をウイスキー瓶や椅子で数回殴るなどの暴行を加えた。

 しかし、Aは、Cの加功前にBが与えた傷によって失血死するにいたり、Cの介入後の両者の暴行は死亡とは因果関係がなかった。

一審判決】

 一審の裁判官は、

  • 本件のように介入後の行為が結果の発生に無関係である場合には、単純一罪であっても、先行行為による殺人既遂の責任を負わず、介入後の行為について殺人未遂の共同正犯の責任を負うべきにすぎない

とし、Aに対して殺人罪が成立し、Cに対しては、殺人罪ではなく、殺人未遂罪が成立するとしました。

 しかし、この一審判決は、以下の控訴審判決で否定されることになります。

控訴審判決】

大阪高裁判決(昭和45年10月27日)

 控訴審の裁判官は、

  • 殺人罪のごとき単純一罪たる犯罪については、実行の着手から結果の実現にまで多くの時間を要し、かつ、先行行為者における実行の着手と後行行為者の実行介入までの間に特に時間的懸隔が存するような場合、又は後行行為者が先行行為者の行った実行の内容に関知せず、したがってこれを利用して自らの実行に移る意思が明確でなかったような場合を除き、共謀成立の前に行われた先行行為者による実行を含めて、結果の実現に向けられた各行為者のすべての実行行為につき、行為者の全員が共同正犯の責任を負うべきものと解するのが相当である

として、一審のCに殺意未遂罪が成立するとした判決を破棄し、Aに対して殺人罪が成立し、Cに対しても殺人罪が成立するとしました。

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