刑事訴訟法(公判)

公判の流れ⑪~「証人尋問とは?」「証人が召喚に応じない場合の罰則と勾引」「証人の証言拒絶権」などを説明

 前回の記事の続きです。

 公判手続は、冒頭手続→証拠調べ手続 →弁論手続→判決宣告の順序で行われます(詳しくは前の記事参照)。

 前回の記事では、証拠調べ手続のうち、

証拠調べの順序

を説明しました。

 今回の記事では、証拠調べ手続のうち、

証人尋問(証人が召喚に応じない場合の罰則と勾引、証人の証言拒絶権など)

を説明します。

証人尋問

 検察官、被告人又は弁護人が、証拠調べ請求において、証人の尋問を請求し、裁判官が証人尋問を実施することを決定した場合の手続を説明します。

証人とは?

 証人とは、

法廷において、起訴された被告人の犯罪事実に関し、自分の体験した事実の記憶、自分の体験した事実により推測したことを内容とする証言を行う者

をいいます。

証人の証言は証拠になる

 証人が法廷で証言した話は証拠になります。

 証人は、口頭で証拠を裁判所に提出するという捉え方になるので、その証拠調べは、証人を尋問するという方法によって行われます(刑訴法304条)。

共同被告人を証人として尋問する場合は、弁論を分離する必要がある

 共同被告人(被告人と一緒に同じ裁判を受ける共犯者)の1人を他の被告人との関係で証人として尋問する場合は、その者の弁論を一旦分離(刑訴法313条)した上で、証人尋問を行う必要があります。

 弁論の分離とは、共犯関係にある被告人Aと被告人Bが1個の裁判で審理される状況(法廷に被告人Aと被告人Bの両名がいて、一度に審理を受ける状況)を、被告人Aと被告人Bの裁判を別々のものに分離し、被告人Aで1個の裁判を受け、被告人Bで1個の裁判を受ける状況にすること(法廷に被告人AのみしかおらずAだけで裁判を受け、被告人Bも同様にBだけで裁判を受ける状況にすること)をいいます。

(なお、これとは逆に、被告人Aと被告人Bが別々の裁判であった場合に、これを1個の裁判にまとめることを「弁論の併合」といいます) 

 この点を判示した以下の判例があります。

最高裁判決(昭和35年9月9日)

 裁判官は、

  • 共同被告人を分離して証人として尋問しても、同証人は自己に不利益な供述を拒むことができ、これを強要されるものでないこと、および共同被告人でも事件が分離された後、他の共同被告人の証人として証言することは差し支えなく、また他の事件の証人としての証言が自己の犯罪に対しても証拠となる

と判示し、共同被告人の1人を他の被告人との関係で証人として尋問する場合は、その者の弁論を一旦分離することを前提としています。

証人の召喚(裁判所への呼び出し)

 証人を尋問するには、召喚状(証人を公判の日に裁判所に呼び出す通知通知文書)を発し、証人を召喚します(刑訴法143条の2)。

 証人を召喚するとは、証人を裁判所に呼び出すことをいいます。

 ただし、証人が裁判所の構内にいるときは、召喚を要しません(刑訴法規則113条2項)。

 証人が裁判所の構内にいるときは、証人の証人尋問を請求した検察官又は被告人の弁護人が、その証人を公判の日に裁判所に連れて来ている状態が該当します。

証人が召喚に応じない場合の罰則と勾引

 証人として召喚を受け、正当な理由がなく出頭しない者は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(刑訴法151条)。

 証人が、正当な理由がなく、召喚に応じないとき、又は応じないおそれがあるときは、その証人を勾引(こういん)することができます(刑訴法152条153条刑訴法規則112条)。

 勾引とは、証人に手錠をかけるなど強制手続により、証人を裁判所に連れて行く手続をいいます。

証人は証言能力がなければならない

 証人として尋問するには、その者に証言能力がなければなりません。

 証言能力とは、自己の体験を記憶に基づいて供述する能力をいいます。

 証言能力の有無が問題となるのは、証人が

  • 子ども
  • 知的障害者
  • 精神障害者

であった場合が考えられます。

 証言能力の有無は、年齢によって定まるものではなく、証言を求める事項や、心身の発達状況などを考慮し、具体的事情に即して決められます。

証人の宣誓、偽証の警告、証言拒絶権の告知

 証人に対しては、

  1. 人定尋問(刑訴法規則115条)
  2. 真実を述べる旨の宣誓(刑訴法規則116~119条)
  3. 偽証の警告(刑訴法規則120条)
  4. 証言拒絶権の告知(刑訴法規則121条)

が順次行われた後に尋問が行われます。

 証人が正当な理由がなく、宣誓・証言を拒否した場合は、

が科されます。

 また、宣誓した証人が虚偽の証言をした場合は、偽証罪刑法169条)が成立します。

証人の証言拒絶権

 ④の証言拒絶権について説明します。

 証人は、以下の①~③の事項について、証言を拒むことができます。

 これを「証言拒絶権」といいます。

① 証人自身が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある事項(刑訴法146条刑訴法規則121条1項)

 憲法38条に「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」ことが憲法上の権利として保障されていることからも、①の事項の証言拒絶権の告知が必要となります。

② 証人と一定の身分関係のある近親者等が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある事項(刑訴法147条)。

 ただし、共犯者又は共同被告人の1人又は数人に対して近親者等として証言拒絶権がある者であっても、他の共犯者・共同被告人のみに関する事項については、証言拒絶権はありません(刑訴法148条)。

③ 医師・弁護士・公証人など、一定の職業にある者又はこれらの職にあった者が業務上知り得た事実で、他人の秘密に関するもの(刑訴法149条本文

 ただし、これに属する事項であっても、本人が証言を承諾した場合や、証言の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合には、証言の拒絶はできません(刑訴法149条ただし書)。

次回の記事に続く

 次回の記事では、証拠調べ手続のうちの証人尋問に関し、

  • 証人尋問の順序(主尋問→反対尋問→再主尋問)
  • 証人尋問の方法(個別尋問、一問一答主義

を説明します。

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