法律(刑法)

住居・建造物侵入罪⑨ ~「侵入行為とは?(隠密・公然、平穏を害する態様、侵入禁止の外部表示)」「屋根の上の侵入行為」「適法な立入り後の不法な立入り」「既遂時期」「継続犯」を判例で解説~

侵入行為とは?

 刑法130条の「侵入」とは、

住居者又は看守者の意思に反する立入り

をいいます。

侵入行為は、隠密か公然かを問わない

 侵入行為は、隠密に行われることはもちろん、公然と行われても、侵入罪を成立させます。

 たとえば、民家に公然と侵入し、居住者に対し、ナイフを突きつけて「金を出せ!」と言って、現金を奪った場合、住居侵入罪と強盗罪の両罪が成立します。

 住宅や建物にひっそりと忍び込んだ場合にだけ、侵入罪が成立するというわけではありません。

侵入行為は、平穏を害する態様のものであるか否かを問わない

 侵入行為は、平穏を害する態様のものである必要はありません。

 たとえば、ビラの配布目的で建物に侵入し、平穏を害する行為はしていないとしても、建造物侵入罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和27年4月24日)

 警察署の措置に対する抗議を内容とする宣伝ビラを警察官などに配布する目的で警察署に立ち入った事案で、裁判官は、

  • 立ち入りがよしんば平穏公然になされたものであったとしても、いやしくも看守者の意に反してなされる限り「侵入」たるを妨げるものではない

と判示し、建造物侵入罪が成立するとしました。

名古屋高裁金沢支部判決(昭和28年2月28日)

 この判例で、裁判官は、

  • 門内に立ち入る際においては、蛇の捕獲を目的としたものであっても、その立入り後、たまたま窃盗の犯意を生じて邸内に更に進み入ることは、故なく他人の看守する邸宅に侵入する行為となり、住宅侵入罪を構成するものといわなければならない

と判示し、住居内に侵入後に、違法な目的を生じた場合でも、住居侵入罪が成立するとしました。

建物の屋根の上に上がる行為も侵入行為である

 住居や建物の内部に立ち入ったものではなく、屋根の上に上がった場合でも、侵入に当たります。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和54年5月21日)

 警察官に追われた窃盗犯人が、他人の家の屋根に上がり、3軒の屋根の上を伝って逃げた事案で、裁判官は、

  • 住居侵入罪の「侵入」の対象となる住居又は人の看守する建造物の範囲は、住居等の平穏を保護法益とする法の趣旨に則して考うべきところ、住居及び建造物の屋根は構造上それらの構築物の重要な一部であって、その目的からいって通常屋内にて起居している者の頭上に位置するものであるから、屋内で起居する者に無断でそれらの屋根の上にあがることは、住居等の平穏を害する「侵入」に当るといわなければならない
  • すなわち、住居等の屋根の上は、 住居侵入罪の住居又は建造物の一部であると解する

と判示し、屋根の上は住居又は建造物の一部であり、そこに足を踏み入れれば、住居侵入罪や建造物侵入罪が成立するとしました。

適法な立入り後でも、住居者又は看守者の意思に反して他の部分に立ち入れば侵入罪が成立する

 いったん適法に住居や建物の一部に立ち入った後、 さらに住居者又は看守者の意思に反して他の部分に立ち入れば、侵入に当たります。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和39年9月22日)

 村役場のカウンターで仕切られた事務室に立ち入った事案で、弁護人が、

  • 役場庁舎内のカウンターも、これによって隔てられている事務室も、廊下も、同じ建造物内にあって、その廊下には被告人Aはじめ相当数の村民が請願、面会を求めるため立入っており、村当局もこれを容認し、敢えてその退去を求めた事実がない
  • この廊下よりカウンタ―一つ隔てて事務室内に入ったとしても、それは同一建造物内におけるできごとであり、社会的にみて正当性を欠くとしても、これを独立の建造物に対する侵入として刑法第130条を適用処断することは違法である

と主張したのに対し、裁判官は、

  • 同じ建造物内でも、特にみだりに立入ることを禁止している部分に不法に立入るときは、建造物侵入罪が成立するものと解すべきである
  • 本件は正午近い村役場の執務時間中であるから、カウンター外側の廊下には一般公衆の立入が許されていたことは言うまでもないが、当時村議会の臨時会が開かれていた最中であって、試射場議案の撤回を要求して、多数反対同盟員が役場正面西側入口等に詰めかけていたため、事務室と廊下を隔てるカウンターを境として、それより内部に、反対同盟員らがみだりに立入ることを禁止し、村役場総務課長らが、そのカウンター脇に立ってこれを警戒していたところ、正午過頃、村議会が防衛庁の試射場設置申入れに同意することの議決をした直後、被告人Aは、村長を詰問するため、右カウンターの上から警備員の頭上をこえて事務室内に侵入したものであるから、これによって建造物侵入罪の成立することは疑いを容れない

と判示しました。

侵入を禁止する外部的表示があるか否を問わない

 侵入を禁止する外部的表示があったかどうかは問われません。

 侵入を禁止する外部的表示がない場合は、推定的承諾が認められるかどうか、包括的承諾の範囲内かどうかが検討され、侵入罪の成否を決することになります(推定的承諾、包括的承諾については、前の記事参照)。

既遂時期

 侵入行為があったとして、犯罪が既遂になるには、犯人の身体が、どの程度、建物の内部に入ることを要するかが疑問になります。

 考え方の選択肢として、

  1. 犯人の身体の一部が建物内に入れば既遂になる
  2. 犯人の身体の大部分が建物内に入れば既遂になる
  3. 犯人の身体の全部が建物内に入れば既遂になる

という3択がありますが、答えは③になります。

 刑法130条の侵入罪が既遂に達する時期は、

犯人の身体の全部が建物内に入ったとき

と考えるのが相当であるとされています。

本罪は継続犯である

 刑法130条の侵入罪は、住居や建物に侵入後、退去するか、住居者又は看守者から立入りの承諾があるまで犯行が継続する

継続犯

です。

 ただし、状態犯であると解する説も一部あります(継続犯、状態犯については、前の記事参照)。

 状態犯であるとする説は、

  • 本罪が継続犯だとすると、「入る」ことでなく「居る」ことが犯罪となる
  • とすると、承諾を得て入った者が途中から中に「居る」ことが居住者の意思に反するようになった場合も、住居侵入罪が成立することになってしまう
  • それは、退去要求があった場合に限って不退去罪の成立を認めている法の趣旨からいっておかしい

ということを理由にしています。

住居・建造物侵入罪①~⑱、不退去罪①②の記事まとめ一覧

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