刑法(強盗罪)

強盗罪(21) ~強盗利得罪(2項強盗)③「違法な財産上の利益に対しても2項強盗は成立する」を判例で解説~

違法な財産上の利益に対しても2項強盗は成立する

 強盗罪(刑法236条2項)の2項強盗において、

  • 麻薬の購入資金
  • 盗品の換価代金
  • 違法タクシーの乗車料金
  • 違法な貸金業の利息

など、不法原因給付や違法な利益に対しても、2項強盗の成立が認められます。

 この点については、1項強盗において、強取品が、麻薬・覚せい剤・拳銃などの禁制物だったとしても、強盗罪の成立が認められるのと同じです(詳しくは前の記事参照)。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和35年8月30日)

 麻薬の購入資金を預かり、これを領得するため相手を殺害した事案で、裁判官は、

  • たとえ金員が麻薬購入資金として、被害者C及びD両名から、被告人Aに保管を託され、右金員の授受は不法原因に基づく給付であるがため、右Cらがその返還を請求することができないとしても、被告人らが金員を領得するため右Cらを殺害し、同人らから、事実上その返還請求を受けることのない結果を生ぜしめて返還を免れた以上は、刑法240条後段236条2項の不法利得罪を構成するものと解すべきである

と判示し、麻薬の購入資金に対して、2項強盗の成立を認めました。

大阪高裁判決(昭和36年3月28日)

 盗品の換価代金である情を知って、現金の消費寄託を受けた者が、その返還を免れる目的で寄託者を殺害した事案で、裁判官は、

  • 盗品の対価であることを明らかにして、これを目的として寄託契約を結ぶことは、公序良俗に反し、右契約は民法第90条により当然無効であるとすべきである
  • よって、寄託者は、民法第708条にいわゆる不法原因のため給付した者に該当し、右寄託金に相当する利益の返還を請求することができないことは明らかである
  • 従って、預け金債権は、法律上保護を与えられないものである
  • しかし、不法原因のため給付した者は、給付したものの返還を請求することができないとしたのは、受領者が給付物の返還を拒んだ場合、給付者は法律上の手段によって返還請求をすることができないとしたに止まり、受領者が右利得を保持することを正当とするのでもなく、また当事者間の事実上の返還を禁ずる趣旨ではない
  • 受領者が、給付者に対する事実上の返還を免れる目的で給付者を殺害したときは、刑法第236条第2項第240条段の罪が成立すると解するを相当とする(昭和35年8月30日最高裁判所第三小法廷判決参照)から、原判決が被告人らの本件行為を強盗殺人罪としたのは正当である

と判示し、盗品の換価代金に対する強盗殺人罪の成立を認めました。

名古屋高裁判決(昭和35年12月26日)

 法令違反の行為に該当する白タクの乗車料金(白タク運転者は、道路運送車両法に違反しており、料金の支払の請求権を有しない)の支払を免れるために暴行を加えて逃走した行為について、2項強盗が成立するとしました。

 裁判官は、

  • Aが免許又は許可を受けず自動車運送事業を営み、かつ認可を受けず乗車料金を収集することが道路運送法により処罰を免れないものであるとしても、同法に違反して、Aが被告人とした自動車による有償運送契約が無効であり、従って、被告人において、Aに対し、乗車料金を支払うべき義務がないものと即断することはできない
  • この点は、一般に行政上の取締法規に違反してなされた法律行為の効力問題として論ぜられるところであるが、本件の如き場合、かかる有償運送契約を有効とすることは、道路運送法が免許を受けずして営むこの種行為を禁止防遏した目的に鑑み、不当だとする見解もあろう
  • しかしながら、もしこれを無効と解するときは、自ら選んでかかる契約をした者が、その運送の履行を受け、利益を享受した後、翻って、その契約を無効なりと主張することにより、一方的に自らの負担する義務を免れることを容認する結果となり、当事者間の信義に反することは明らかである
  • のみなうず、本件の如く道路運送法に違反する有償運送契約それ自体を、われわれ社会通念に照らし、著しく人倫に反し、若しくは正義の理念におとるものと考えることはできないから、これを公序良俗に反し、無効なものと解することはできない
  • そしてまた、本件において、他に被告人が自動車運送契約に基いて、Aに対し、乗車料金支払いを免れ得べき特別の事情も認められないのであるから、被告人としては、Aに対し、乗車料金の支払いの義務を負うものというべきであるから、被告人が運送料金債務を免れるためにした本件の所為が強盗傷人の罪を構成することは当然である

と判示し、違法営業のタクシー料金に対し、2項強盗の強盗致傷罪の成立を認めました。

さいたま地裁判決(平成27年8月6日)

 この判例は、被害者の有する債権(違法な貸金業の利息)が公序良俗に反し無効なものである場合でも、その支払いを免れることが2項強盗罪にいう「財産上不法の利益を得た」ものに該当するとした事例です。

 まず、被告人の弁護人は、

  • 被害者が、無登録で貸金業を営み、各債務者に月1割の利息を請求したものであり、その債権は公序良俗に反し無効なものであるから、このような債務の支払を免れたとしても、刑法上保護すべき客体がなく、財産上不法の利益を取得したということはできない

と述べ、2項強盗は成立しないと主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 刑法上の財産犯の趣旨は、財産法秩序が不法手段により乱されることを刑罰により予防し、ひいては、私人の財産上の正当な権利・利益を保護することにある
  • 私法上の手続において実体法が適用され、その結果、被害者に具体的には私法上保護に値する利益がないと判断される場合であっても、財産権侵害の外形を備え、正当な財産権を侵害する一般的危険性のある行為については、財産犯の処罰対象とするのが相当である
  • 被害者の有する債権が、公序良俗に反し無効なものである場合でも、その支払を免れることが2項強盗罪にいう「財産上不法の利益」に当たる

と判示し、違法な貸金業の利息に対し、2項強盗の成立を認めました。

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