刑法(強盗罪)

強盗罪(23) ~強盗利得罪(2項強盗)⑤「支払請求の一時延期を『財産上不法の利益』と認定し、2項強盗の成立を認めた事例」を判例で解説~

支払請求の一時延期を「財産上不法の利益」と認定し、2項強盗の成立を認めた事例

 刑法236条2項の2項強盗について、単に債権の支払請求を一時延期したにすぎないような場合に、財産上の利益を得たとして、2項強盗の成立が認められるか否かが争点になる場合があります。

 この問題については、判例の動向を見ながら理解することになります。

支払請求を一時延期したにすぎないような事案で、2項強盗殺人の成立を認めた判例

大阪高裁判決(昭和59年11月28日)

 サラ金地獄から逃れるため、取立の厳しいサラ金業者を殺害した事案について、裁判官は、

  • 債務者が、債務の支払を免れる目的で債権者を殺害した場合において、右殺害の結果、債権の相続人等において、これを行使することが不可能もしくは著しく困難になったときは、債務者が、債権者による債務免除の処分行為を得たのと実質上同視しうる現実の利益を得たという意味において、財産上不法の利益を得たと認めるのは当然である
  • しかし、債権者を殺害することにより、債務者が財産上不法の利益を得たと認めるのを、右の場合のみに限定するのは、やや狭きに失し、妥当でない。
  • なぜなら、たとえば、債務者が、履行期の到来し又は切迫している債務の債権者を殺害したときは、債権者自身による追求を絶対的に免れるだけでなく、債権の相続人等による速やかな債権の行使をも、当分の間、不可能ならしめて、債権者による相当期間の支払猶予の処分行為を得たのと実質上同視しうる現実の利益を得ることになるのであって、かかる利益を、刑法236条2項にいう『財産上不法の利益』から除外すべき理由は見当らないからである
  • かくして、当裁判所は、債務者が債務の支払いを免れる目的で債権者を殺害した場合においては、相続人の不存在又は証拠書類の不備等のため、債権者側による債権の行使を不可能もしくは著しく困難ならしめたときのほか、履行期の到来又は切迫等のため、債権者側による速やかな債権の行使を相当期間不可能ならしめたときにも、財産上不法の利益を得たものと解する

と判示し、履行期の到来又は切迫等のため、債権者側による速やかな債権の行使を相当期間不可能ならしめ、債権者による相当期間の支払猶予の処分行為を得たのと実質上同視し得る現実の利益を得た場合には、その利益は「財産上の利益」に当たるとし、2項強盗殺人の成立を認めました。

 なお、この判決に対し、学説では、

  • 本判決が認定した事情のもとでは、債権の行使は、なお確実に行われる場合であった
  • 債権者の殺害による2項強盗の成立を肯定するためには、債権の存在を示す記録が存在しないなどにより、相続人などにおいて債権の行使が不可能又は事実上極めて困難になり、債務の支払を事実上免脱した状態になったことが必要だと思われる
  • 単に、支払を一時免れたことで足りるとするのでは、相続人による権利行使には時間がかかるから、債権者の殺害はほぼ常に強盗殺人罪を構成することになってしまい、疑問があるように思われる

といった2項強盗の成立に疑問を呈する意見があります。

 また、上記判決内容にある「債権者側による速やかな債権の行使を相当期間不可能ならしめた」でいうところの相当期間は、必ずしも客観的に唯一無二の形で存在するものではなく、債権の性質、行為者と被害者の関係、そのほか諸般の事情の中で、相対的に決せられるべきものとされます。

 たとえば、債権の履行期が到来していて、それをわずか1日延ばすために暴行・脅迫を加えた事案であっても、その1日が被害者にとって絶対譲れない日であった場合には、客観的にみて、財産上の利益として十分なものといえ、2項強盗の成立が認められると考えられます。

 しかし、1日程度の延期が、客観的にみて、債権債務関係の実情から、さして意味を持たない場合には、一般には、財産上の利益ということはできず、2項強盗は成立しないと考えられます。

浦和地裁判決(平成11年9月29日)

 大手都市銀行の渉外担当行員である被告人が、自ら行った不正融資金の回収に窮し、不正の発覚を免れるため、不正融資金の調達先である顧客の老夫婦を絞殺し、債権証書の性質を有する名刺を強取し、2500万円の債務返済を免れるという強盗殺人の事案です。

 裁判官は、履行期の到来又は切迫等のため、債権者側による速やかな債権の行使を相当期間不可能ならしめたとの上記大阪高裁判決と同趣旨の判示をした上、

  • 被告人が、債権証書の性質を有する名刺以外に、債権の存在、内容等を証する書類をことごとく回収するなどした

ことも判示して、2項強盗の成立を認めました。

支払請求を一時延期したにすぎないような事案で、2項強盗の成立を否定した判例

鹿児島地裁判決(平成24年3月19日)

 被告人が妻と二人で居住していたアパートの家賃等4か月分(合計12万4000円)を滞納し、大家であるAから、家賃等を支払わなけれぼ退去するよう強く迫られている最中に、Aを殺害し、さらに口封じのためにAの妻Bを殺害するとともに、同所において、A所有の現金等を強取したとして起訴された事案です。

 裁判官は、

  • 本件殺害行為が、結果的に居住延長可能な状態を生じさせたとしても、それは今まさにAから支払を督促され、退去を迫られている状況から逃れたい等という動機で行われた犯行によってもたらされた結果に過ぎないというべきである
  • そもそも、『明日退去せずに済むことになる』という程度の考えでは、得られる利益の内容が抽象的にすぎ、刑法236条2項にいう『財産上不法の利益』、すなわち、同条1項における『他人の財物』と同視できる程度に具体的な利益を意識していたともいえない

と判示して、2項強盗の強盗殺人罪は成立せず、A及びBに対する殺人罪及び窃盗罪の2罪が成立するとしました。

 この判決に対し、学説では、

  • 被告人が、A及びBを殺害したことにより、4か月分の滞納家賃等の支払という現実的かつ具体的な「財産上の利益」を一時猶予されたと客観的に評価でき、かつ、そのことを被告人が認識していたと認められる事実関係にある
  • 判決が、被告人の動機を前提に「得られる利益の内容が抽象的にすぎる」と判示したことには疑問がある

という反対意見があります。

支払請求の一時延期による2項強盗の成否を決するに当たり、金額の多寡は問題にならない

 支払請求の一時延期による2項強盗の成否を決するに当たり、金額の多寡は必ずしも問題にはなりません。

 たとえば、2項強盗により、支払を一時免れた金額が100円と安かったことで、2項強盗の成立が否定されることはありません。

 2項強盗の成否は、

が、支払の猶予の期限性に影響を与え、2項強盗における「財産上不法の利益」として考慮されることになります。

名古屋高裁判決(昭和35年12月26日)

 法令違反の行為に該当する白タクの乗車料金(白タク運転者は、道路運送車両法に違反しており、料金の支払の請求権を有しない)の支払を免れるために暴行を加えて逃走した行為について、2項強盗が成立するとしました。

 裁判官は、

  • Aが免許又は許可を受けず自動車運送事業を営み、かつ認可を受けず乗車料金を収集することが道路運送法により処罰を免れないものであるとしても、同法に違反して、Aが被告人とした自動車による有償運送契約が無効であり、従って、被告人において、Aに対し、乗車料金を支払うべき義務がないものと即断することはできない
  • この点は、一般に行政上の取締法規に違反してなされた法律行為の効力問題として論ぜられるところであるが、本件の如き場合、かかる有償運送契約を有効とすることは、道路運送法が免許を受けずして営むこの種行為を禁止防遏した目的に鑑み、不当だとする見解もあろう
  • しかしながら、もしこれを無効と解するときは、自ら選んでかかる契約をした者が、その運送の履行を受け、利益を享受した後、翻って、その契約を無効なりと主張することにより、一方的に自らの負担する義務を免れることを容認する結果となり、当事者間の信義に反することは明らかである
  • のみなうず、本件の如く道路運送法に違反する有償運送契約それ自体を、われわれ社会通念に照らし、著しく人倫に反し、若しくは正義の理念におとるものと考えることはできないから、これを公序良俗に反し、無効なものと解することはできない
  • そしてまた、本件において、他に被告人が自動車運送契約に基いて、Aに対し、乗車料金支払いを免れ得べき特別の事情も認められないのであるから、被告人としては、Aに対し、乗車料金の支払いの義務を負うものというべきであるから、被告人が運送料金債務を免れるためにした本件の所為が強盗傷人の罪を構成することは当然である

と判示し、違法営業のタクシー料金の支払を免れた行為に対し、2項強盗の強盗傷人罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和52年11月9日)

 この判例は、代金支払いの意思も能力もなく、無銭飲食した上、その代金を受け取るために、同行した者(つけ馬)に対し、暴行を加えて支払いを免れた事案で、詐欺罪と2項強盗の強盗致傷罪の両罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人の弁護人は、無銭飲食による詐欺罪が成立する以上、同一の飲食代金の支払を免れたことをもって強盗罪が成立するいわれはない旨主張するのである
  • しかし、本件のように、被告人が、当初から代金支払の意思も能力もないのに、被害者を欺罔して飲食物を提供させ、その段階で財物騙取による詐欺罪が成立する場合には、被告人は、その故に、騙取した財物の代金を支払う義務を免れるものではないから、被告人が、その後において、代金を受け取るために同行した、被害者であるTに対し、暴行を加えて代金の支払を免れた場合には、別個の法益を侵害するものとして、詐欺罪のほか強盗(致傷)罪が成立するものと解するのが相当である

と判示し、無銭飲食行為に対し、詐欺罪及び2項強盗の強盗致傷罪の成立を認めました。

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