刑法(強盗罪)

強盗罪(3) ~「他人の身体・自由の「他人」には、暴行による強盗の場合は法人・国は含まれないが、脅迫による強盗の場合は、法人・国が含まれる」「暴行・脅迫を加える相手が、被害品の所持者でなく、第三者であっても強盗罪は成立する」を判例で解説~

 前回の記事の続きです。

 前回の記事では、強盗罪(刑法236条)の行為の客体(対象)は、

他人の「財物」と他人の「身体・自由」

であり、他人の「財物」について詳しく説明をしました。

 今回の記事では、他人の「身体・自由」について詳しく説明します。

暴行による強盗の場合は法人・国は暴行を加える対象にならないが、脅迫による強盗の場合は、法人・国は脅迫を加える対象になる

 強盗罪は、暴行又は脅迫を用いて、他人の身体・自由を奪い、他人の財物を強取する犯罪です。

 他人の身体・自由の「他人」は、暴行による強盗の場合には、事の性質上、 自然人たる人をいうのであって、法人は含まれません(法人に暴行を加えることはできない)。

 これに対して、脅迫による強盗の場合には、 他人の身体・自由の「他人」は、自然人に限らず、法人も含まれると解されています。

 この場合、脅迫は、法人の中の自然人を直接相手にすることになるから、その自然人の属する法人に対する脅迫であっても、その自然人自体の精神の自由を結局制約することになります。

 例えば、会社の財産をよこさねば、本社に放火するという脅迫を会社役員にした場合、脅迫の直接の相手方は自然人たる役員ですが、脅迫の被害の対象と財物の被害の対象は会社であり、 この場合、自然人たる役員自体は、脅迫されていても、直接自分の精神の自由を束縛されるわけではありません。

 ただし、組織の一員として、自然人たる役員は、間接的にせよ、精神の自由を制約される立場にあることは否定できないので、この場合にも、強盗罪が成立すると考えるべきとされます。

 この場合、脅迫される法人は、自然人を介して、脅迫されていることを知る場合と知らない場合があると考えられますが、前者の場合には、法人として、その精神の自由を侵されることになるから、脅迫が法人に対してなされたものとして強盗が成立し、後者の場合には、法人の一員たる自然人に対してなされたものとして強盗が成立することになり、いずれの場合でも、強盗罪が成立するという結論となります。

 問題は、その法人が、国や地方公共団体の場合です。

 国がそもそも、脅迫の対象となり得るかについて、国の刑罰主体としての地位や、国が意思の自由を制約されるべき立場にないという国の性格から問題のあるところですが、脅迫されるのは、自然人としての公務員であり、その者の精神の自由が侵害される以上、国が被害者といえども、強盗罪の被害の対象となると解されています。

 正確にいえば、国は、脅迫されても、精神の自由を失わないが、脅迫された公務員が精神の自由を失い、国の財産を強奪されたということになります。

 脅迫の対象と財物の所有者が異なっても、強盗罪の成立を妨げないという判例(最高裁判決 昭和22年11月26日※以下記載)があることからも、このように解しても矛盾はないといえます。

暴行・脅迫を加える相手が、被害品の所持者でなく、第三者であっても強盗罪は成立する

 暴行と脅迫の相手が、強盗の被害品の所持者でなく、第三者であっても、強盗罪は成立します。

 たとえば、A所有の腕時計を強取するために、AのとなりにいたBに暴行を加えて、AとBを畏怖させて腕時計を強取した場合でも、強盗罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(平成15年3月20日)

 被告人らの暴行で気絶した被害者に対し、財物奪取に向けた新たな暴行・脅迫はないものの、取り上げた財布につき、被害者と行動を共にしていた女性からの返還要求を拒絶し、脅迫等して財布を確保した事案について、裁判官は、

  • 被告人らが被害者の着衣から財布を取り出した時点において、既に被害者は被告人らの暴行により気絶しており、同人に対して新たに財物奪取の手段となる暴行・脅迫は認められない
  • しかしながら、被告人らが被害者の財布の占有を奪い、確保するには、 同行女性の抵抗を排除する必要があったところ、同女に対し激烈な脅迫言辞を述べ、同女の返還要求を拒絶したものである
  • かつ、同女は、それまでに被告人らに対して、著しい畏怖の念を抱いているのであるから、被告人らの言辞、態度は、同女の反抗を著しく抑圧するには十分な脅迫であると認められる
  • 被告人らが、被害者の昏睡状態に乗じて、かつ、行動を共にしていた同女に対して脅迫言辞を申し向けるなどして、その反抗を抑圧した上で、被害者所有の財布の占有を奪い、 これを確保したものであるから、被告人らの一連の行為が、強盗罪を構成することは明らかである

と判示ました。

最高裁判決(昭和22年11月26日)

 この判例で、裁判官は、

  • およそ強盗罪の成立には、目的を遂行するに障害となる者に対して、その反抗を抑圧するに足る暴行を加へるといふことで十分であって、暴行を受けるものが、十分の意思能力を持っていることは必要ではない
  • 本件被害者Aの三男Bも、既に当時10歳といへば完全な意思能力はないまでも、ある程度、物に対する管理の実力は持っているというべきであって、Bが本件犯行の現場に居合せたことは、被告人がA家の物を盗むといふ目的を遂行するのに障害となったことは疑のないところである
  • よって右Bに対して、暴行を加へて、A家の物を盗んだ被告人の所為をもって、強盗の罪にあたると判断した原判決は、まことに正当である

と判示しました。

最高裁判決(昭和25年5月2日)

 付属建物の居住者Cを脅迫して反抗を抑圧した後、母屋からB所有の金品を窃取した事案について、Cに対する強盗未遂とBに対する窃盗罪の両罪が成立するのではなく、一個の強盗罪が成立するとしました。