刑法(強盗罪)

強盗罪(39) ~強盗罪における共同正犯(共犯)③「強盗予備と強盗の共犯者が異なっていても、強盗予備罪は強盗罪に吸収される」を判例で解説~

強盗予備と強盗の共犯者が異なっていても、強盗予備罪は強盗罪に吸収される

 強盗予備刑法237条)を行った後、同一の強盗の犯意のまま、次いで強盗を行えば、その強盗予備罪は強盗罪に吸収され、強盗罪の一罪のみが成立します。

 強盗の予備をした者が、その実行に着手した以上、予備行為が、強盗罪に吸収されるのは、予備罪が犯罪構成要件の修正形式である以上当然のことであるとされます。

 このことは、強盗予備の共謀共同正犯の共犯者と、本犯である強盗罪の共犯者が、別の者であったとしても、継続した一個の故意に基づく一個の強盗であるのであれば、強盗予備罪は、強盗罪に吸収され、強盗罪の一罪が成立することになります。

 この点について、以下の判例があります。

福岡高裁判決(昭和48年10月17日)

 この判例は、強盗予備とそれの発展した強盗致傷との共犯者が別々であっても、強盗致傷の一罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 原判決は、被告人の2回の強盗予備および強盗致傷を、それぞれ別個の犯意に基づく独立の犯罪とし、併合罪として処断しているが、後述するように、被告人は継続した1個の強盗遂行の意思のもとに、強盗予備を2回行い、次いで強盗致傷に及んで、所期の目的を遂げたのであるから、右2回の予備は、当然に実行行為に吸収され、強盗致傷の一罪が成立するにとどまると解するのが相当である
  • 2回の強盗予備(これが1個の強盗予備となるかどうかについては、ここで触れない)と1回の強盗致傷との関係をみるのに、これらの犯行は、被告人が当初計画したのであり、犯行の際に利用した自動車もその都度被告人が調達し、スパナも被告人の所有であって、被告人が終始犯行の主動的役割を果したこと、犯行の目的は主として同一被害者が同一場所から集金した現金を奪うことであり、犯行日時、場所は極めて近接しているし、計画ないし実行された犯行の手段、態様であることが明らかである
  • 以上の事実を考え合わせると、2回の強盗予備はEが加担したのに、強盗致傷はFが加担したので、共犯者を異にすることを考慮するとしても、被告人の各強盗予備と強盗致傷とは単一、特定の犯意の発現たる一連の動作であると認めるのが相当である
  • 右のような事実関係においては、これを強盗致傷の一罪と認定するのが相当であって、独立した3個の犯罪として認定するのは誤謬といわねばならない
  • 従って、2回の強盗予備と1回の強盗致傷を独立した3個の犯罪行為として、それぞれ認定したのは事実を誤認し、ひいて法令の適用を誤った違法がある

と判示し、強盗予備罪と強盗致傷罪の併合罪ではなく、強盗致傷罪の一罪のみが成立するとしました。

 なお、この判例の判決文の中で、「犯意が格別に生じたことを理由として、強盗予備罪と強盗罪の併合罪を認定した最高裁判決(昭和26年4月3日)とは、事案を異にするので、先例に当らない」と述べています。

 この点、犯意が格別に生じたことを理由として、強盗予備罪と強盗罪の併合罪を認定した最高裁判決(昭和26年4月3日)の判決内容は以下のとおりです。

 被告人が、相被告人(共犯者)A、Bと強盗を共謀し、被害者方に侵入しようとして、その予備をした後、 さらに別個に、A、Cと同一被害者方に強盗に押し入ることを共謀し、強盗のの目的を遂げた事案です。

 裁判官は、

  • 強盗予備罪の行為主体は、被告人及び相被告人A、Bの3人であり、強盗既遂罪のそれは、被告人及び相被告人C、Aの3人であって、両者は、その行為主体を異にするのみならず、右両者は、各別の意思決定に基くものであると認定したこと、その引用の証拠に徴し明らかであるから、両者がたとえ、その被害者を同一にしても前者が後者に吸収せらるべき筋合でない
  • 従って、原判決が両者を各別に処断したことは相当である

と判示し、強盗予備罪と強盗罪とで、犯意が格別に生じているとして、強盗予備罪と強盗罪とが、それぞれ独立して成立し、両罪は併合罪となるとしました。

 もっとも、当初からの強盗の意思が一貫して継続していて、強盗予備罪が強盗罪に吸収され、強盗罪の一罪のみ成立するケースが一般的な事例となることから、この判例は例外的な事例であるといえます。

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