刑法(強盗罪)

強盗罪(41) ~「強盗罪における幇助犯」「強盗罪の共同正犯と幇助犯のどちらが成立するか」を判例で解説~

強盗罪における幇助犯

 強盗罪における幇助犯について説明します(幇助犯の詳細説明については前の記事参照)。

 幇助犯においては、幇助犯となるか、それとも共同正犯(共犯)となるかが、争点となりやすいです。

強盗罪の共謀共同正犯の成立を否定し、強盗幇助を認めた判例

 強盗罪の共謀共同正犯の起訴に対し、共謀の成立を否定し、強盗幇助を認めた事例として、以下の判例があります。

千葉地裁松戸支部判決(昭和55年11月20日)

 裁判官は、

  • 検察官の主張は、被告人は本件の実行行為自体には関与していないから、被告人について共謀共同正犯としての刑事責任を追求するものであるが、共謀共同正犯が成立するためには「特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議」の成立したことが必要であり、他人の行為を利用して特定の犯罪行為を遂行しようとする意思までを有せず、単に非実行行為に加担するだけの意思しか有しない者には、未だ共謀による正犯の責任を負わせることはできないと解すべきである
  • 被告人は、本件犯行直前に、Cからの打ち明け話などにより、Cらが本件犯行を敢行することを認識していたものと認めることができ、この認識の下に、Cらを乗車させて本件山林内からC宅まで運転走行して逃走させたものということができるが、被告人が、Cらの行為を利用して自らも強盗をする意思であったかどうかについては、更に他の事実をも総合して認定されるべきである
  • なるほど検察官主張のとおり、本件において、被告人が果たした役割は軽微なものではなく、むしろ必要不可欠なものであったこと、また、被告人が受領した金額は200万円であり、強取金額からすればさほどのものではないが、その役割分担に照らせば、それ相応の金額であるということもできないわけではないことが認められる
  • しかし、他方、被告人は、1月12日の謀議、本件山林内の下見には全く参加させられておらず、常にCら3名において決定されていること、また、被告人が受領した200万円についても、本件強取金員をCら3名で三等分し、Cの取り分から出されたものにすぎないこと、Cらにおいても、被告人を単に走行用車両の運転手としてしか考えていなかったことなどの事実が認められる
  • これらの事実を総合検討すると、被告人にCらの行為を利用して自らも強盗をする意思があったとは認め難く、この点については証明不十分であるといわざるを得ず、結局、判示のとおり強盗幇助罪を認定した次第である

と判示し、被告人に自ら強盗する意思があったとは認め難いとして、強盗の共謀共同正犯ではなく、強盗幇助が成立するとしました。

強盗致傷、強盗未遂の共同正犯でなく、強盗致傷、強盗未遂の幇助罪と認めるのを相当とした判例

 強盗致傷、強盗未遂の共同正犯でなく、各その幇助罪と認めるのを相当とした判例として、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和29年7月20日)

 裁判官は、

  • 被告人C自身は、A、Bの両名と真実本件強盗の犯行を共にする意思があったものとは到底認め難く、ただ執拗なるAの懇請に対し、気弱の被告人Cとしては遂にこれを断りかね、犯行現場まで随行し、A、Bに気勢を添えて、もってA、Bの企図する強盗の犯行を容易ならしめる意図に出でたに過ぎないものと見るのが、事案の真相に適した観察であると思料される
  • すなわち、被告人Cの本件所為は、単にA、Bの強盗行為を容易ならしめたに過ぎないものというべきである
  • 従って、本件被告人Cの行為に対しては、原審の如く、強盗傷人、強盗未遂の共同正犯をもって律すべきものではなく、むしろ、その各幇助罪をもって論ずるを相当とする

と判示し、

  • 強盗の犯行を共に犯す意思があったと認められないこと
  • 被告人自身の気弱さから、共犯者からの執拗な依頼を断り切れずに犯行現場まで随行したこと
  • 共犯者に気勢を添えて、共犯者の強盗の犯行を容易にさせる意図であったこと

と理由に、共同正犯ではなく、幇助犯が成立するとしました。

強盗の見張りについて、幇助犯ではなく、共同正犯を認めた判例

 判例は、強盗の見張りについて、幇助犯ではなく、共同正犯とする事例がほとんどです。

最高裁判決(昭和23年3月16日)

 この判例で、裁判官は、

  • 数人が、強盗又は窃盗の実行を共謀した場合において、共謀者のある者が屋外の見張りをした場合でも、共同正犯は成立する
  • 従って、被告人が相被告人Aほか5名と共謀して、E工業株式会社作業場内の綿絲梱包を窃取した行為につき、見張をした被告人を、窃盗罪の共同正犯と認めた原判決は正当である

と判示しました。

最高裁判決(昭和23年5月25日)

 この判例で、裁判官は、

  • 数人が強盗の実行を共謀し、そのうち一人が屋外の見張りを担当した場合には、その者についても強盗の共同正犯が成立する

と判示しました。

最高裁判決(昭和23年7月20日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人は、他の共犯者との意思連絡の下に、他の共犯者が屋内に侵入して財物を奪取しつつある現場において、被告人は見張行為を担当している際、屋外に出てきた家人に暴行を加えて傷害したという事実を認定し得られるのであるから、被告人の行為は強盗罪の共同正犯であること明かである

と判示しました。

最高裁判決(昭和23年10月30日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人の所為が、見張りを命ぜられて、終始家の外部にうろうろしておったに過ぎないとしても、被告人が、他の共犯者と本件犯行について共謀をした事実が認定せられる以上、強盗の実行行為をした他の共犯者と共に、共同正犯の罪責を免れない

と判示しました。

最高裁判決(昭和23年11月18日)

 この判例で、裁判官は、

  • 原審は、「被告人は、相被告人(共犯者)4名と共謀の上、A方から金品を強奪しようと企て、相携えて同家に赴き、被告人ほか1名は戸外で見張をし、他の3名は屋内に侵入して、家人を脅迫畏怖せしめた上、A所有の腕巻時計1個を強取した」旨の事実を認定し、よって、被告人を強盗の共同正犯に問擬したのである
  • 数名共同で強盗することを謀議して、その実行行為の分担を定め、各自の行為を集結して、所期の目的を達成した以上、たとい犯行現場において見張りをしたに過ぎないものであっても、なお強盗の共同正犯たるの責を免れ得ない
  • 仮りに、被告人が屋外にあって見張りをしていたため、屋内に侵入したものが、如何なる財物を強取したかを知らず、又爾後においてもこれを告げられなかったという事情があったとしても、必ずしも原判決の結論(強盗の共犯が成立するとした結論)を左右するに足りないのである

と判示しました。

ポイント

 上記各判例の事例のように、共同意思の主体の一人として見張りをした場合は、強盗の共同正犯が成立するのは当然といえます。

 しかし、単に見張りだけをしたにとどまり、強盗の共謀共同正犯としての立場にない場合には、幇助犯にとどまると解されます。

幇助は消極的な加担であっても成立する

 幇助は、本犯の犯罪に対する積極的な加担にとどまらず、消極的な加担であっても成立します。

 この点について判示した以下の判例があります。

大審院判決(昭和12年8月31日)

 この判例は、預かっていた拳銃を本人から返還を求められたときでも、その拳銃が強盗に使われることを知って交付した場合には、強盗幇助罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 何人といえども、犯罪の醸成を防止すべき義務あるものなれば、たとえ所有者より預かりたる拳銃にせよ、強盗の用に供するものなることの情を知りながら、これを交付したるときは、強盗の幇助罪を構成するものとす

と判示しました。

原審が強盗致傷幇助を言い渡した判決を破棄し、強盗致傷の幇助犯を認めた判例

 強盗致傷の共同正犯として起訴された被告人について、原審が、強盗の事前共謀も強盗の実行行為も認め難いとして強盗致傷の幇助犯と認定したのに対し、控訴審において、事前共謀は認められないとしつつ、被告人が車から飛び出して被害者の前に現れたこと自体も、強盗の手段たる行為の一つとして評価できるなどとして、強盗致傷罪の共同正犯を認めた以下の判例があります。

大阪高裁判決(平成2年6月28日)

 裁判官は、

  • 被告人において、犯行現場で、Dに対し、足蹴りする暴行を加えた事実は明らかであるうえ、強盗という犯罪の性格上、彼我の人数か重要な意味合いを持ち、共同正犯たるべき実行行為の有無は二人以上の行為を全体として観察評価すべきであって、個々の行為のみを切断して観察すべきではないと考えられる
  • 被告人が車から飛び出し被害者らの前に現われたこと自体も強盗の手段たる行為の一つと評価できる
  • 結局、被告人は、現場での共謀のうえBらと共同実行の意思をもって、強盗の共同実行をなしたものというべきである

と判示し、強盗致傷幇助を言い渡した原審判決を破棄し、強盗致傷罪の共同正犯の成立を認めました。

幇助者が強盗を幇助する意思で幇助行為をしたところ、被幇助者が強盗殺人を犯した場合には、強盗致死の範囲内で幇助犯の刑責を負う

  幇助者が強盗を幇助する意思で幇助行為をしたところ、被幇助者が強盗殺人を犯した場合には、強盗致死の範囲内で幇助犯の刑責を負うことになります。

 この点について判示した以下の判例があります。

神戸地裁判決(昭和36年4月8日)

 この判例は、強盗を計画している者に対し、押し入るのに適当な家を紹介した上、その家の内情を詳細に説明した者に対し、強盗致死幇助の刑責を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人の行為は、正犯が強盗殺人をなすことを知らず、強盗をなすものと認識してなしたものであるから、刑法第38条第2項により強盗致死幇助の罪責を負うことになる

と判示しました。

 暴行・脅迫による財物の強取について認識がある以上、暴行・脅迫の結果、傷害致死を惹き起こすことも当然その刑責の範囲と解すべきなので、強盗罪を幇助した被幇助者が、相手を死傷させた場合は、強盗致死罪の幇助の責任を負うことになるという考え方になります。

 この時、強盗の幇助者に、殺人の故意はないことから、強盗殺人の罪責を問われることはありません。

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