刑法(贈収賄罪)

贈賄罪(6)~「贈賄罪と①恐喝罪、②詐欺罪、③背任罪、④横領罪、⑤窃盗罪、⑥盗品等に関する罪との関係」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、贈賄罪(刑法198条)と

  1. 恐喝罪刑法249条
  2. 詐欺罪刑法246条
  3. 背任罪刑法247条
  4. 横領罪刑法252条)又は業務上横領罪刑法253条
  5. 窃盗罪刑法235条
  6. 盗品等に関する罪刑法256条

との関係を説明します。

① 恐喝罪との関係

 公務員が、職務に関し、恐喝的手段で金品を得た場合、その金品を供与した者に贈賄罪(刑法198条)が成立するか否かは、必要的共犯の対向犯の関係にある一方の収賄罪が成立するか否かと同じ問題となります。

 公務員が恐喝的手段で金品を得た場合に収賄罪が成立するのであれば、贈賄罪も成立することになります。

 判例は、収賄者において職務執行の意思がある限り(最高裁判決 昭和25年4月6日)、贈賄者において「不完全ながらも、いやしくも贈賄すべきか否かを決定する自由が保有されておれば」(最高裁決定 昭和39年12月8日) 、恐喝的手段で金品を得た場合でも収賄罪が成立し得るという見解を示しています。

 つまり、恐喝的手段で金品を得た場合でも収賄罪が成立すると認められるのであれば、必要的共犯の対向犯の関係にある贈賄罪も成立するとなります。

 この点のより詳しい説明は、贈収賄罪の罪数(4)~「収賄罪・贈賄罪と①恐喝罪、②詐欺罪の関係」の記事をご確認ください。

② 詐欺罪との関係

 詐欺罪と贈賄罪の関係は、恐喝罪と贈賄罪との関係と同様です。

 判例も、理論としては、詐欺罪の成立がある場合でも収賄罪が成立し、必要的共犯の対向犯の関係にある贈賄罪も成立することを認めています。

 この点のより詳しい説明は、贈収賄罪の罪数(4)~「収賄罪・贈賄罪と①恐喝罪、②詐欺罪の関係」の記事をご確認ください。

③ 背任罪との関係

1⃣ 贈賄者が任務に違背して背任罪の構成要件に当たる行為を犯して公務員に対して贈賄した場合には、背任罪と贈賄罪とが成立します。

 背任行為自体が贈賄行為に当たる場合が多いと考えられ、この場合、背任罪と贈賄罪は観念的競合になります。

 収賄者が賄賂を受けるため、贈賄者の背任に加功した事案で、収賄者に対し、「収賄罪」と「贈賄者の背任罪の共同正犯」が観念的競合の関係で成立するとした事例があります。

札幌高裁判決(昭和34年12月19日)

 裁判所は、

  • 被告人Mが、その任務に背いて土地連の資金を不正に流用したことが認められるが、被告人Kにおいて該事実を予知しながら金借の申込みをした事実、すなわち背任罪の共犯としての罪責がある事実は、証拠上認め難いのみならず、仮にその罪責があるとしても被告人Kが同Mから職務に関し金融の利益を得たことは収賄罪を構成し両者は1個の行為にして2個の罪名に触れるものと解するのが相当である

として、仮定論ですが、「収賄罪」と「贈賄者の背任の共犯」が観念的競合として成立するとしました。

2⃣ 単純収賄罪受託収賄罪の場合の公務員の任務違背行為は構成要件の中に取り込まれている関係から、収賄者について背任罪の成立は問題とならず、贈賄者についても問題になりません。

 しかし、加重収賄罪の場合は、不正行為につき収賄者に背任罪が成立し、観念的競合と解するのが判例です。

大審院判決(大正8年10月21日)

 被告人が賄賂を収受し、税金の免除を得させ、同時に税収に損害を与えた行為は、背任罪と事前加重収賄罪に該当し、両罪は観念的競合の関係になるとしました。

 この場合の贈賄者については、不正行為に加担した場合、単に贈賄罪のみ成立するのか、同時に背任罪の共犯も成立するのかが問題になります。

 背任者と共謀して、背任の結果の利益を得た者について、共同正犯ないし幇助犯の成立を認める判例の立場(最高裁判決 昭和57年4月22日)と総合して考えれば、贈賄者についても、背任罪の共犯が成立する場合があると考えられています。

不正行為自体が加重収賄罪の構成要件の予定するところとはいえ、個々の不正行為が、別に背任罪を成立させることがあり得る以上、贈賄罪についても同様に解すべきとされます。

 公務員を教唆し、背任罪を犯させた上それにより利益を得て、その利益で贈賄した場合に、背任教唆と贈賄罪の併合罪が成立するとした以下の判例があります。

大審院判決(大正12年3月23日)

 Xが、印紙切手の取扱業務を担当する公務員Yに対し、自己の利益を図るため、正規の手続に違背して不正に多額の収人印紙をXに払い下げるよう教唆し、Yにそのような行為をさせ、その後その謝礼としてYに賄賂を贈ったという事案で、背任教唆罪と贈賄罪の併合罪が成立するしました。

④ 横領罪、業務上横領罪との関係

 背任罪の場合と同様に、加重収賄罪において、収賄者の不正行為が横領罪(又は業務上横領罪)となるような場合、これに加功した贈賄者の行為は、贈賄罪と横領罪(又は業務上横領罪)とを構成します。

 そして、両罪の関係は、横領行為が同時に贈賄行為にもなる場合は、贈賄罪と横領罪(又は業務上横領罪)は観念的競合となります。

 そうでなければ、贈賄罪と横領罪(又は業務上横領罪)は併合罪になると考えられます。

 例えば、横領行為の結果の利益を収賄者に賄賂として供与する場合は、贈賄罪と横領罪(又は業務上横領罪)は併合罪になると考えられます。

⑤ 窃盗罪との関係

1⃣ 背任罪や横領罪の場合と同様、加重収賄罪においては、不正行為が窃盗罪を構成する場合、これに贈賄者が加功すれば贈賄罪と窃盗罪の共同正犯(共犯)が成立することがあります。

 ただし、この場合の窃盗が、贈賄ではなく、窃盗による相手方への盗品の分配にしかすぎなければ、贈賄罪は成立せず、盗品等に関する罪盗品等無償譲受け)が成立するにとどまります。

2⃣ 単純収賄罪、受託収賄罪の場合には、これに対応する贈賄のために贈賄者が窃盗を犯せば、「単純収賄罪又は受託収賄罪」と「窃盗罪」が成立し、両罪は併合罪となります。

 また、収賄者と共犯で窃盗を犯し、窃取したものを賄賂として収受者に供与すれば、窃盗の共同正犯と贈賄罪が成立し、両罪は併合罪となります。

⑥ 盗品等に関する罪との関係

収賄者の場合と異なり、贈賄者の場合には、窃盗の結果得た盗品を賄賂として公務員に情を打ち明けて贈賄しても窃盗の不可罰的事後行為であるから贈賄罪は成立しないという考えがあります。

 しかし、このような贈賄行為は新たな法益を侵害するので、窃盗の不可罰的事後行為とはいえず、贈賄罪が成立するし、収賄罪の必要的共犯である収賄罪も成立します。

 この点に関する以下の判例があります。

最高裁判決(昭和23年3月16日)

 贈賄罪の客体が贓物である場合に贈賄罪が成立するとした事例です。

 裁判所は、

  • 刑法第197条の罪が成立するためには、公務員が収受した金品が贓物であっても差し支えない(贓物と知りながら収受した場合は収賄罪と贓物収受罪との二罪が成立するわけである)
  • されば本件において被告人が原審相被告人にその職務上の不正行為に対する謝礼として交付した金員がたとえ贓物であったとしてもこれがために贈賄罪の成立に少しも影響を及ぼすことはない

と判示し、贈賄罪が成立するとしました。

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