刑法(強要罪)

強要罪(9) ~「『権利の行使を妨害した』とは?」「妨害する権利は法的な権利に限られない」「被害者が実際に権利を行使する意思を有していたことが必要」を判例で解説~

 「権利の行使を妨害した」とは?

 強要罪は、刑法223条に規定があり、

  1. 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する
  2. 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする

と条文で定められています。

 強要罪は、脅迫・暴行を手段として、人に義務のないことを行わせ、又は、権利の行使を妨害する犯罪です。

 今回は、「権利の行使を妨害した」について詳しく説明します。

「権利の行使を妨害した」の意味

 「権利の行使を妨害した」とは、

被害者が法律上許されている作為、不作為に出ることを妨げること

をいいます。

 具体例として、

  • 選挙権の行使を妨害すること
  • 告訴権者の告訴を中止させること
  • 契約の解除権の行使を妨げること
  • 住民登録を妨げること
  • 若者の就学を妨害すること
  • 営業を廃止すること

などが挙げられます。

具体的事例

 権利の行使を妨害した強要罪の具体的事例として、以下の判例があります。

  • 告訴することを思いとどまらせた事例(大審院判決 昭和7年7月20日)
  • 総会屋が株主総会の議事の進行を妨害した事案において、威力業務妨害罪と強要罪の成立を認めた事例(東京地裁判決 昭和50年12月26日)

妨害する権利は法的な権利に限られない

 法的に定められていない権利を妨害する行為も強要罪に当たります。

 参考となる判例として、以下の判例があります。

岡山地裁判決(昭和43年4月30日)

 この判例で、裁判官は、

  • およそ刑法223条1項は、人の意思ないし行動の自由をその侵害から保護するにあるから、同条項にいう『行うべき権利』とは、必ずしも法律上の『何々権』と呼称されるような権利に限定されるものではなく、個人の自由として法的保護を受けるべき領域にあれば足りる

と判示し、動物の品質技能を競う競技大会に動物の操縦者(ハンドラー)として参加出場する権利の行使を妨害した行為を強要と認めました。

行使すべき権利がないとして強要罪の成立が否定された事例

行使すべき権利がないとして強要罪の成立が否定された事例として、以下の判例があります。

岡山地裁判決(昭和46年5月17日)

 暴行脅迫をもって相手の就労を妨げた事案で、裁判官は、

  • 造船所下請業者間の取決めにより、従前の雇い主が異議を挟む限り、新たな雇い主の下では造船所内での就労は許されなかった

として、就労の権利を妨害されたといえないとし、強要罪の成立を否定しました。

被害者が実際に権利を行使する意思を有していたことが必要

 強要罪の保護法益が意思の自由、意思活動の自由であること、また、権利の行使の妨害であることから、権利妨害が成立するためには、被害者が実際に権利を行使する意思を有していたことを要すると解されています。

 被害者の権利行使をする意思は、必ずしも確定的な意思でなくても、また、近い将来に行使する意思でなくてもよいとされます。

 しかし、被害者に権利を行使する意思が全くない場合には、権利の行使の妨害とはいえず、強要罪は成立しないとされます。

次の記事

強要罪(1)~(13)の記事まとめ一覧

 強要罪(1)~(13)の記事まとめ一覧