刑法(強要罪)

強要罪(12) ~「強要罪と脅迫罪・強制性交等罪・強制わいせつ罪・恐喝罪・逮捕罪・監禁罪との関係」「間接正犯と強要罪の関係」「数種の害悪の告知をしても1個の強要罪が成立する」を判例で解説~

脅迫罪と他罪との関係

 強要罪は、恐喝罪強盗罪強制性交等罪強制わいせつ罪逮捕監禁罪職務強要罪公務執行妨害罪などの暴行脅迫を手段とする犯罪に対して、一般法的性格を有するので、これらの犯罪が成立する場合には、法条競合により、強要罪の適用は排除されると解されています。

 もし、恐喝罪、強盗罪等これらの犯罪が成立しない場合には、強要罪が成立が検討され得るということになります。

 強要罪は、恐喝罪、強盗罪等これらの犯罪の手段としての暴行脅迫について、別個に評価するという意味で、補充法的性格を有します。

脅迫罪との関係

 脅迫罪刑法222条)は強要罪の補充法であり、強要罪が成立しない場合には、脅迫罪が成立し得るという関係にあります。

強制性交等罪、強制わいせつ罪との関係

 強要罪と強制性交等罪刑法177条)、強制わいせつ罪刑法176条)との関係では、相手方の反抗を抑圧する程度あるいは反抗を著しく困難にする程度に至らない脅迫ないし暴行を用いて強制性交や強制わいせつを行った場合に、強要罪の成立を認めるかどうかについては議論があります。

 この点について参考となる判例として、次のものがあります。

最高裁判決(昭和45年1月29日)

 この判例で、裁判官は、

  • 婦女を脅迫し、裸にして撮影する行為であっても、専らその婦女に報復、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しない

と述べ、強制わいせつ罪の構成要件が一部欠けた場合において、補充的に強要罪が成立することを示唆しました。

恐喝罪と強要罪の関係

 恐喝罪刑法249条)と強要罪の関係について判示した参考となる判例として、次のものがあります。

恐喝罪の成立しない場合には強要罪は成立するが、恐喝罪の成立する場合には別に強要罪は成立しない

名古屋高裁判決(昭和34年8月10日)

 この判例で、裁判官は、

  • 恐喝罪は、強要罪に対しては特別罪たる関係があると認むべきであるから、恐喝罪の成立しない場合には強要罪は成立するが、恐喝罪の成立する場合には別に強要罪は成立しない

と判示しました。

脅迫の結果、相手方に対して財産的処分行為を行わせた場合には、恐喝罪となり、強要罪は成立しない

東京高裁判決(昭和35年11月8日)

 他人の所持するたばこを「売れよ」と申し向け、脅迫し、その所持するたばこピース20個(800円)を交付させ、代金として300円を手渡したという事案で、原審が売り渡すという義務なき行為を行わせたとして強要罪が成立するとしたのに対し、高等裁判所では恐喝罪が成立するとしました。

 高裁裁判官は、

  • 原判決は被告人の所為をもって、被害者Cをして、強いて煙草を売り渡させ、義務なき行為を行わしめたものとして、刑法第223条第1項に問擬(もんぎ)しているのであるが、原判決が確定した被告人の所為は、被害者Cを判示の如く脅迫し、同人より煙草ピース20個を交付させたもので強制罪には該当せず、恐喝罪を構成するものと解すべきである

と判示しました。

 上記判例に対し、一定の財物の交付の外観があっても、その実質が財産的処分行為といえないような場合には、恐喝罪ではなく、強要罪の成立が認められます。

 この点について、以下の判例があります。

高松高裁判決(昭和46年11月30日)

 この判例で、裁判官は、

  • 患者が医師を脅迫して、麻薬の注射施用を強いる行為は、医療行為を強要したものであって恐喝罪は成立せず、強要罪が成立する

としました。

強要の内容をすぐさま恐喝で実現した場合は、恐喝罪のみが成立する

大阪高裁判決(昭和40年12月21日)

 この判例で、裁判官は、

  • 同一人に対し、単一の恐喝犯意の遂行として、まず、金員支払の誓約書を作成させ、ついでそれを履行させ、又は一部履行させようとした行為が接着して行われた場合には、包括して一罪を構成し、行為の段階ごとに強要罪が別個に成立しない

としました。

逮捕罪と強要罪の関係

 逮捕罪刑法220条前段)と強要罪の関係について説明します。

 自由を拘束して場所を移動する行為は、強要罪の暴行ではなく、逮捕行為になり、強要罪ではなく、逮捕罪が成立します。

 参考となる判例として、次のものがあります。

大審院判決(昭和4年7月17日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被害者に対し、その極力抵抗するものにかかわらず、その身体を捕まえ、暴力を用いて、その自由を拘束し、これを引っ張り、あるいは押すなどして、裁判所門外に拉致したる行為は、逮捕行為それ自体にして、被害者をして義務なきことを行わしめたるものにあらず

と判示し、強要罪は成立せず、逮捕罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和34年12月8日)

 この判例は、上記判例の趣旨を明確にし、

  • 刑法第223条第1項にいわゆる『暴行を用い人をして義務なき事を行わしめる』とは、人に対して暴行を加え、よって、その人をして義務なき行為に出でしめることをいい、すなわち被強要者に、その暴行のため強要されたものではあるが、なおその自己の意思に基く行為が存することを要し、人の身体に対して暴力を加え、その暴力のままにその人を器械的に行動せしめるごとき場合はその人の意思に基いた行為は存しないので、同法条にいわゆる義務なきことを行わしめた場合に該当しない

と判示し、強要罪は成立せず、逮捕罪が成立するとしました。

監禁罪との関係

 監禁罪刑法220条後段)と強要罪の関係について説明します。

 監禁罪と強要罪の関係について言及した以下の判例があります。

福岡高裁判決(昭和30年4月25日)

 この判例で、裁判官は、

  • 監禁の手段となった単純な暴行脅迫が監禁罪に吸収されるが、強要罪のようなさらに他の害悪を伴う暴行、脅迫は、監禁罪に吸収されず別罪を構成する

と述べました。

間接正犯と強要罪の関係

 間接正犯は、

他人を道具として利用し、他人に犯罪行為をやらせ、犯罪を実現する者

いいます。

 相手方を畏怖させ意思を抑圧して犯罪を行わせる行為は、「他人を道具として利用する」に該当します。

 相手方を畏怖させ意思を抑圧して行わせた行為が放火、窃盗その他の犯罪を構成する場合には、それらの罪の間接正犯が成立するほかに、物理的強制力によって全く機械的に行動させたような場合は別として、さらに強要罪も成立する余地があります。

 この場合、利用者の被利用者を強要して他の犯罪を誘致する行為という1個の行為であると評価でき、強要罪と他の犯罪は観念的競合の関係になると解されています。

数種の害悪の告知をしても、1個の強要罪が成立する

 脅迫の内容として告知された害悪が、同時に数個の法益に及んだ場合にも、強要罪の罪数には影響しません。

 たとえば、身体に対する害悪の告知と、財産に対する害悪の告知をして、強要により相手方に義務のないことを行わせた場合、2個の強要罪ではなく、1個の強要罪が成立します。

 この点について判示した以下の判例があります。

大審院判決(明治44年6月29日)

 相手の身体に対する害悪と財産に対する害悪を同時に通告した事案で、裁判官は、

  • 刑法第223条の罪は、単にその所定法益の1個に対する脅迫によるも、あるいは同時にその1個以上の法益に対する脅迫によるも、他人を強制して義務なきことを行わしめ、又は、行うべき権利を妨げたる罪の成立につき、何らの影響を及ぼすことなし

と判示しました。

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