刑法(横領罪)

横領罪(61) ~他罪との関係③「横領罪と詐欺罪との関係」「横領後の処分行為は、詐欺罪を構成しない(不可罰的事後行為)」「詐欺罪と横領罪の成否が問題となった事例」を判例で解説~

 前回に引き続き、横領罪(刑法252条)と他罪との関係について説明します。

  今回は、横領罪と

  • 詐欺罪

との関係について説明します。

詐欺罪との関係

 詐欺罪(刑法246条)と横領罪(刑法252条)の関係について判示した判例として、以下のものがあります。

大審院判決(明治43年2月7日)

 この判例は、

  • 自己の占有する他人の物を横領するために、他人を欺く手段を用いた場合、その結果、財産上の利益を得ても、横領罪の当然の結果であり、別に詐欺罪を構成するものではない

としました。

大審院判決(大正12年3月1日)

 この判例は、

  • 詐欺と横領は成立要件を異にするので、横領が成立する事案において詐欺が成立しない

としました。

補足説明

 刑法246条1項の詐欺において、自己の占有する他人の物を領得する横領罪と、他人の占有する物を交付させる詐欺とは基本的には重ならず、両罪は同時には成立しません。

 財物を横領した後、その結果を確保したり犯跡を隠滅したりするために他人を欺いても、それによって相手から財物を交付させたり不法の利益を得たりしていない以上、別途詐欺罪は成立しません。

横領後の処分行為は、横領罪のほか、詐欺罪を構成しない

 横領後の詐欺行為は、不可罰的事後行為として、基本的には詐欺罪を構しません。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(明治44年6月15日)

 この判例は、

  • 委託された物件を担保に差し入れて横領した後、同一物件を重ねて担保に供し、他人をだまして金員を借り入れた行為は、最初の横領罪に包含され、詐欺罪に問うことはできない

としました。

東京高裁判決(昭和31年2月25日)

 この判例で、裁判官は、

  • 手形の割引の依頼を受けた者が、割引によって受領した金員を委任者に渡さず、自己が代表する会社名義で預金することは横領となり、その後に預金を引き出した行為は横領行為の事後処分にすぎず、詐欺には当たらない

としました。

詐欺が横領の事後処分の関係にはならないとし、詐欺罪の成立を認めた事例

 一方で、横領後の詐欺行為が、事後処分の関係にならないのならば、横領罪に加え、詐欺罪も成立します。

 この点について、以下の判例があります。

仙台高裁秋田支部判決(昭和24年12月26日)

 他人から一時借り受けた自転車を担保に供して、ズボンの交付を受けた事案において、自転車を担保に供した行為は横領罪を構成するが、自転車の処分をズボン詐欺の実行行為にしたにすぎないから、詐欺が自転車の横領の事後処分の関係にはならないとし、詐欺罪が成立するとしました。

 被告人の弁護人は、

  • Aから借り受けた自転車を担保にして、Bから時価3600円相当のズボンの交付を受けたもので、借り受けた自転車を担保にした際、既に横領罪を構成し、ズボンをとったのは横領罪の事後処分にほかならないから詐欺罪を構成すべきではない

と主張しました。

 これに対し、裁判官は、

  • 被告人が知り合いのAから一時借り受けてきた自転車をBに預けたうえ、「このズボンを買うから夕方まで見せてもらいたい。夕方までには必ず代金を持ってくるから、それまでこの自転車を預けておく」と嘘をついてBをその旨誤信させ、ズボン1着を騙取したものでる
  • 詐欺の実施に際し、被告人が他人の自転車を預けたのが担保の供与であり、もし所有者本人の承諾がなく、かような処分をすれば、横領罪を構成すべきこと所論(弁護人の主張)の通りであるが、自転車の処分(ズボンの交付を受けるための担保にしたこと)を詐欺の実行手段にしたにすぎないのであり、本件の詐欺が自転車の事後処分の関係にならないことが明らかである

と判示し、横領罪が成立した上、詐欺罪も成立するとしました。

詐欺罪と横領罪の成否が問題となった事例

 詐欺罪と横領罪の成否が問題となった事例として、以下の判例があります。

大審院判決(明治44年5月29日)

 他人から預かっていた預金通帳の払戻金受取人証印欄に、預かっていた印鑑を押捺して、銀行に提出し、名義人の承諾を得た正当な払戻しであるように銀行員を誤信させて金銭を受け取った行為について、裁判官は、

  • 預金通帳を不正に領得することなく遂行できる事項であり、横領罪には当たらないが、人を欺いて財物をだまし取ったものとして詐欺罪に該当する

としました。

大審院判決(大正2年10月23日)

 薪炭商から注文主に送付した木炭が品質不良であるとして商談が成立せず、注文主のところで預かり置かれていた木炭を、売買の周旋人が引き取って売却した事案で、裁判官は、

  • 自己が引き取った他人の木炭を不法に売却することは横領罪に当たるが、木炭を引き取る際に相手をだまして錯誤に陥れた場合には、詐欺罪を構成する

としました。

広島高裁岡山支部判決(昭和31年7月17日)

 他の債権者に差し押さえられている旋盤につき、会社に対する債務支払の猶予を得るための方便とするため、担保提供を迫ったその会社の取締役に対し、差押えの事実を秘して、真実は売渡担保とする意思がないのに、その旋盤を売渡担保に供する旨の書類を作成して差し入れた行為について、裁判官は、

  • 詐欺罪が成立する限りは真実の処分行為が存在せず、横領罪とはならない

としました。

東京高裁判決(昭和28年6月12日)

 集金業務に従事していた会社の外務員が、自己の用途に費消する意図を秘して集金をした事案で、裁判官は、

  • それは正当権限に基づく集金行為であり、当該外務員に対する支払行為は、会社に対して有効な支払となるのであって、外務員による集金の際に、受領金の使途に不法の意図があったとしても、単に動機の不法にすぎないもので、集金行為を違法ならしめるのではない
  • 集金した金員を費消ないし着服したときに、業務上横領罪が成立するのは格別、その集金行為が詐欺に当たるということはできない

として、詐欺罪を認定した一審判決を破棄し、業務上横領罪が成立するとしました。

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