刑法(強盗罪)

強盗罪(37) ~強盗罪における共同正犯(共犯)①「謀議は無言でもよい」「共謀があれば、⑴犯行現場にいなくても、⑵見張りやその場に立っているだけでも、共同正犯が成立する」を判例で解説~

強盗罪における共同正犯(共犯)

 強盗罪における共同正犯(共犯)について説明します(共同正犯の基本的な考え方の説明は前の記事参照)。

共謀共同正犯

 強盗罪で問題になりやすいのは、共謀共同正犯の事案です(共謀共同正犯の基本的な考え方の説明は前の記事参照)。

 なので、まず最初に共謀共同正犯について説明します。

 共謀共同正犯は、

二人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、犯罪を実行する

ことで成立します(最高裁判決 昭和33年5月28日)。

 共謀共同正犯のポイントは、謀議に参加しただけであり、犯罪の実行は他の共犯者に任せた者(犯罪は計画したが、自分の手は汚していない者)であっても、共犯者として処罰される点にあります。

 たとえば、暴力団の組長が、組員に指示して強盗を実行させた場合、共謀共同正犯が成立し、組長も強盗罪で処罰できることになります。

強盗罪における共同正犯に関する有用な判例

 強盗罪の共同正犯を考えるに当たり、有用な判例を紹介します。

謀議は無言でもよい

 謀議は、必ずしも、具体的な言葉による計画の樹立を要するものではなく、現場共謀のように無言の場合でもよいとされます。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和40年6月7日)

 この判例は、傷害の暗黙の共謀を認定した事例です。

 裁判官は、

  • 当時、仮に、被告人が被害者Wを刺したとしても、不思議に思われないほどの周囲の状況であったし、また、被告人としても、Wを刺す十分な動機を持っていたとみられる事実その他原判決挙示の証拠によりうかがわれる諸般の状況事実を総合すれば、被告人とKが激昂の極、とっさにWを刺すことの意を通じ、換言すれば、両名のいわゆる暗黙の共謀に基づき、Kが実行担当者として被告人から交付された小刀をもってWを傷害したものと認めるのが相当である

と判示し、暗黙の共謀を認定しました。

共謀があれば、犯行現場にいなくても共同正犯が成立する

 共謀共同正犯理論に従う限り、強盗の現場に赴かず、犯行時、自宅において就寝中の共謀者についても、共同正犯が成立します。

 この点について判示した以下の判例があります。

最高裁判決(昭和24年11月15日)

 まず、被告人Aの弁護人は、

  • 被告人Aが、相被告人(共犯者)5名とともに、本件強盗につき、あらかじめ相談したことは証拠によって認められているが、犯行当夜は、自宅に就寝中であって、強盗の実行行為には全然関係していないのに、原審が刑法第60条により、Aに共同正犯の責を負わせたのは、法条の適用を誤つたものである

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 被告人Aは、本件強盗犯の実際上の主謀者だったのであって、自ら実行行為に参与しなかったが、最初に強盗を首唱して、その方法等を他の共犯者に指示したりしたのであるから、明かに自己の犯意を他の共犯者を通じて実行に移したものと言い得るのであって、これこそ正に共謀による共同正犯の典型的事例と言ってよい(昭和23年10月6日最高裁判所大法廷判決参照)
  • それゆえ、原審が、被告人を共同正犯なりとしたのは刑法第60条の正当な適用である

と判示しました。

現場の見張りをしていただけでも共同正犯が成立する

 現場で見張りをしただけでも、共同正犯は成立し、強盗罪の刑責を負います。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和23年3月16日)

 この判例で、裁判官は、

  • 数人が、強盗又は窃盗の実行を共謀した場合において、共謀者のある者が屋外の見張りをした場合でも、共同正犯は成立する
  • 従って、被告人が相被告人Aほか5名と共謀して、E工業株式会社作業場内の綿絲梱包を窃取した行為につき、見張をした被告人を、窃盗罪の共同正犯と認めた原判決は正当である

と判示しました。

最高裁判決(昭和23年5月25日)

 この判例で、裁判官は、

  • 数人が強盗の実行を共謀し、そのうち一人が屋外の見張りを担当した場合には、その者についても強盗の共同正犯が成立する

と判示しました。

最高裁判決(昭和25年2月16日)

 この判例で、裁判官は、

  • 強盗の共謀をした者は、他の共謀者の暴行、脅迫、強奪等の実行行為を通して、自己の犯意が実行に移された以上は、たとい、自分は直接強盗の実行行為に当たる行為をしなくとも、強盗の共同正犯たる罪責を免れえないものであるから、共謀者の一人である被告人が、見張行為をした以上、他の共謀者の脅迫、強奪行為に対し、その責を負うべきものである

と判示しました。

共謀があれば、傍らで立っていただけでも共同正犯が成立する

 共謀をしていれば、傍ら佇立していただけであったり、犯罪の実行行為に加わっていなくても共同正犯が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和23年6月22日)

 この判例で、裁判官は、

  • 夜間において、他の共犯者が、ブリキ製のピストルを被害者に突きつけ脅迫した際に、被告人がその傍らに佇立していたことは、被害者を畏怖せしめるに役立つこと論を俟たないから、原判決が被告人の行為を強盗罪の共同正犯と認定したことは、もとより違法ではない

と判示しました。

最高裁判決(昭和23年5月8日)

 この判例で、裁判官は、

  • 数名の者がある犯罪を行うことを通謀し、そのうち一部の者がその犯罪の実行行為を担当し遂行した場合には、他の実行行為に携わらなかった者も、これを実行した者と同様に、その犯罪の責を負うべきものである
  • この理は、数名の者が他人に対し、暴行を加えようと通謀し、そのうち一部の者が他人に対し暴行を加え、これを死傷に致したときにもあてはまるものである
  • しかして、被告人はB、Cら10数名の相被告人等と共に、A及びその配下の者を襲撃して、これに暴行を加えようと通謀し、A方を襲ひ、Cほか数名の相被告人らは、持っていた凶器等でAの配下D、E等を突き刺し、あるいは殴打して右Dを死に致し、Eほか3名に傷害を与へたというのであるから、たとい被告人自身は暴行をした事実なく、従って原判決に被告人の暴行した事実が摘示されていなくとも、被告人は、これが実行行為をしたものと同様、傷害致死及び傷害の罪責あることもちろんである

と判示し、犯行現場で暴行をしていないが、共謀はしていた被告人に対し、共同正犯を認めました。

最高裁判決(昭和23年3月13日)

 この判例で、裁判官は、

  • 上告人(被告人)は、相被告人Eほか数名と共謀して強盗行為をした事実を確定したものであるから、上告人において、自身で直接に暴行脅迫を為し、又は腕時計を奪取したる事実なしとするも、他の共犯者において、これをしたる事実がある以上、強盗の正犯として責任を負わなければならない

と判示し、共謀共同正犯の成立があり、共謀者がその犯罪を実行した以上、自らが実行行為を担わなくても、強盗罪が成立するとしました。

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