刑事訴訟法(捜査)

告訴とは?④ ~「親告罪の告訴期間」「『犯人を知った日』とは?」「犯罪行為継続中に犯人を知った場合、犯人を知った日とは、犯行の終了日を指す」などを解説~

 前回の記事の続きです。

親告罪の告訴期間

 親告罪の告訴期間は

犯人を知った日から6か月

です。

 犯人を知った日から6か月を過ぎてしまうと、告訴ができなくなります。

 根拠法令は、刑訴法235条にあり、

『親告罪の告訴は、犯人を知つた日から6か月を経過したときは、これをすることができない』

『ただし、刑法第232条第2項の規定により外国の代表者が行う告訴及び日本国に派遣された外国の使節に対する同法第230条又は第231条の罪につきその使節が行う告訴については、この限りでない。』

と規定さています。

告訴期間のない親告罪もある

 告訴期間のない親告罪もあります。

 刑訴法235条の規定により、

  • 外国の代表者が行う告訴
  • 日本国に派遣された外国の使節に対する名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条

については、告訴期間の制限はありません。

親告罪以外の犯罪については告訴期間はない

 親告罪は、犯人を知った日から6か月という告訴期間がありますが、親告罪以外の犯罪については、告訴期間の制限はありません。

 究極的には、親告罪以外の犯罪については、公訴時効が完成するまで告訴することができます。

 公訴時効が完成した後に、告訴をしても、犯人を罪に問えない(公訴を提起することができない)ので、告訴をしても犯人を処罰できません。

「犯人を知った日」とは?

 「犯人を知った日」とは、

犯人が誰なのかを特定できる程度に知った日

を意味します。

 「犯人が誰なのかを特定できる程度」とは、犯人の名前、住所などを詳細に知り、犯人を個人として特定できる程度を指します。

 犯罪事実を知っても、犯人が誰であるかが特定できないうちは、告訴期間6か月の進行は開始されません。

 これについては、以下の2つの判例があります。

昭和39年11月10日最高裁判所判例

『「犯人を知った」 とは、犯人が誰であるかを知ることをいい、告訴権者において、犯人の住所氏名などの詳細を知る必要はないけれども、少くとも犯人の何人たるかを特定し得る程度に認識することを要するものと解すべきである』

昭和39年4月27日東京高等裁判所判例

『いわゆる犯人を知ったとは、犯人が何人であるかを知ったことをいい、犯人の氏名、年令、職業、住居等の詳細を知る必要はないが、少くとも犯人を他の者と区別して特定することができる程度に認識しなければならない』

『しかし、親告罪の告訴は、犯人との関係その他諸般の事情を考慮して決定されるものであり、特に犯人が誰であるかは、告訴の意思決定に重要な意味をもつものであるから、被害者がかかる考慮をなし得る程度に犯人を特定し得ない以上、未だ犯人を知ったとはいい得ないものと解すべきである』

共犯者を知った場合の告訴期間の進行

 犯人に共犯者が複数人いる場合は、共犯者を一人でも特定して知れば、「犯人を知った日」に該当し、告訴期間6か月の進行が開始されます。

 犯人は、犯罪を行た張本人(正犯者)、共犯者教唆者幇助者であるとを問わず、犯罪に加担したいずれかの人物が特定できた時点から、告訴期間の進行は開始します。

被害者などの告訴権者が複数人いる場合の告訴期間の進行

 被害者などの告訴権者が複数人いる場合は、一人の告訴権者ごとに告訴期間は進行します。

 たとえば、被害者A、B、Cの3人がいて、被害者Aだけが犯人を特定した場合、Aだけの告訴期間の進行が開始されます。

 被害者Aが犯人を特定しても、ほかの被害者B、Cが犯人を特定していないのであれば、BとCの告訴期間の進行は開始しません。

 ゆえに、被害者Aについて、告訴期間が経過し、被害者Aが告訴権を失っても、ほかの被害者BとCの告訴権は失われません。

 根拠法令は、刑訴法236条にあり、

『告訴をすることができる者が数人ある場合には、1人の期間の徒過は、他の者に対しその効力を及ぼさない』

と規定しています。

犯罪行為継続中に犯人を知った場合、犯人を知った日とは、犯行の終了日を指す

 犯罪行為継続中に犯人を知った場合、犯人を知った日の起算日は、犯行の終了日を指すことになります。

 このことは、以下の判例で示されています。

昭和45年12月17日最高裁判所判例

 裁判官は、

  • 「犯人を知った日」とは、犯罪行為終了後の日を指すものであり、告訴権者が犯罪の継続中に犯人を知ったとしても、その日を親告罪における告訴の起算日とすることはできない

と判示し、犯人を知った日の起算日は、犯行の終了日を指すとしました。

平成16年4月22日大阪高等裁判所判例

 ホームページの掲示板に自分の名誉を毀損する書き込みがあることを知った被害者が、犯人を知ってから6か月を経過した後に告訴をしたため、告訴の有効性が争われた事案で、裁判官は、

  • 刑訴法235条1項にいう「犯人を知った日」とは、犯行終了後において、告訴権者が犯人が誰であるかを知った日をいい、犯罪の継続中に告訴権者が犯人を知ったとしても、その日をもって告訴期間の起算日とされることはない
  • 本件記事は、サーバコンピュータから削除されることなく、利用者の閲覧可能な状態に置かれたままであった
  • よって、被害発生の抽象的危険が維持されていたといえるから、このような類型の名誉毀損罪においては、既遂に達した後も、未だ犯行は終了せず、継続している
  • そして、被害者の本件告訴は、犯罪が終了した後6か月以内であることが明らかであるから、適法である

旨を判示しました。

令和5年8月29日さいたま地方裁判所判決

 インターネット上での情報掲示による名誉毀損では、閲覧可能な状態が継続する間は未だ犯行は終了しないとして掲示開始後3年を経過しても公訴時効が完成せず、刑事終了直後にされた告訴を有効とした事案です。

 裁判所は、

  • 本件においては、アマゾンが本件電子書籍の販売を差し止めて本件電子書籍の掲示が終了した令和2年11月x日頃に犯罪が終了したと認められる
  • したがって令和4年3月末の起訴時点では、未だ公訴時効は 完成していない
  • また、告訴期間の起算日である「犯人を知った日」とは、犯罪行為終了後の日を指すところ、前記のとおり、令和2年11月x日頃まで本件犯罪は終了していなかった
  • したがって、告訴期間内である同年12月7日に告訴がなされたことも明らかである

と判示しました。

警察が、告訴期間内に告訴状を徴せず、告訴調書も作成しなった処理は著しく適性を欠いたものであるが、告訴権者から司法警察員に対し、口頭による告訴が行われたことが認められるとした判例

平成24年10月2日東京簡易裁判所判例

【事案の内容】

 交通上のトラブルから、犯人に車を蹴られて傷つけられた被害者が、被害当日に、警察に対し、「車を蹴られたので訴えたい。被害届を出したい。」と申し出た。

 その後、警察は捜査を開始した。

 捜査は進められていたが、告訴期間(犯人を知った日から6か月)が徒過した後に、警察官が告訴状が受理されていないことに気づいた。

 告訴状は、被害者が犯人を知った日から約7か月後に受理された。

【裁判官の判断】

 裁判官は、

  • 被害者は、本件犯行当日から、司法警察員に対し、一貫して犯人である被告人の処罰を求める意思を表示していたものである
  • しかし、犯人が当初から判明していたにもかかわらず、警察の処理として、告訴状を徴することも、公訴調書が作成されることもなかった
  • 刑事訴訟法241条は、告訴の存在を告訴状又は告訴調書によって明確にしておくことを要求する趣旨であると解されるから、警察の本件における親告罪の処理は、著しく適性を欠いたものと言わざるを得ない
  • しかしながら、本件事件が発生した日に、告訴権者である被害者によって、司法警察員に対し、口頭による告訴が行われたものと認めることができる
  • したがって、告訴の効力の効力を認めることができる

旨を述べ、警察が、告訴期間内に告訴状を徴せず、告訴調書も作成しなった処理は著しく適性を欠いたものであるが、告訴権者から司法警察員に対し、口頭による告訴が行われたことが認められるとして、器物損壊罪の成立を認めました。

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