刑事訴訟法(捜査)

請求とは? ~「告訴・告発との違い」「請求の具体例」「訴訟条件としての請求」「請求の取下げ」「請求不可分の原則」を解説~

請求とは?

 まず、「請求」を説明する前に、「告訴」「告発」を説明します。

 国民が犯罪を発見した場合に、捜査機関に対して、犯罪を申告し、犯人の処罰を求める意思表示を「告訴」「告発」といいます。

 「告訴」「告発」は、捜査機関にとって、犯罪捜査の発端になります。

 ここで、「告訴」「告発」のほか、犯罪の申告により、捜査が開始される行為があり、それが「請求」です。

 「請求」とは、

特定の犯罪について、特定の機関が、犯罪を申告し、犯人の処罰を求める意思表示

をいいます。

 「告訴」「告発」「請求」の違いに基づいた捉え方は以下のとおりです。

  • 「告訴」…犯罪被害者(またはその関係者)が犯罪を申告できる
  • 「告発」…犯罪を発見した人なら誰でも犯罪を申告できる
  • 「請求」…特定の機関が犯罪被害を申告できる

「請求」の具体例

 「請求」の具体例は2つあり、刑法と労働関係調整法に規定があります。

① 刑法92条「外国国章棄損罪」

 刑法92条は、

『1 外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する』

『2 前項の罪は、外国政府請求がなければ公訴を提起することができない』

と規定し、外国国章棄損罪については、外国政府の請求(犯人の処罰を求める意思表示)が必要とされます。

② 労働関係調整法「公益事業に関する事件についての関係当事者の争議行為違反」

 労働関係調整法37、39、41条において、「公益事業に関する事件についての関係当事者の争議行為違反」は、労働組合の請求(犯人の処罰を求める意思)が必要と規定します。

同法37条

『公益事業に関する事件につき関係当事者が争議行為をするには、その争議行為をしようとする日の少なくとも10日前までに、労働委員会及び厚生労働大臣又は都道府県知事にその旨を通知しなければならない』

同法39条

『37条の規定の違反があつた場合においては、その違反行為について責任のある使用者若しくはその団体、労働者の団体又はその他の者若しくはその団体は、これを10万円以下の罰金に処する。

同法42条

『39条の罪は、労働委員会請求を待つてこれを論ずる』

請求は訴訟条件である

 「請求」は「告訴」「告発」と同様に訴訟条件です。

 上記の「外国国章棄損罪」「公益事業に関する事件についての関係当事者の争議行為違反」については、外国政府または労働委員会の「請求」がなければ、事件を裁判にかけることができません。

 もし、外国政府または労働委員会の「請求」がないまま、事件を検察官が起訴すれば、裁判官から、

公訴棄却の判決

(「裁判は行いませんよ!」という判決)

を受けることになります。

「請求」は公訴の提起があるまで取り消すことができる

 「請求」は「告訴」「告発」と同様に、公訴の提起があるまでは(検察官が事件を起訴して裁判にかけるまでは)、取り消すことができます(刑法237条Ⅲ)。

 逆にいえば、公訴が提起された後は、「請求」を取り消すことはできなくなることを意味します。

請求不可分の原則

 前の記事で解説した告訴・告発の話に戻りますが、告訴・告発には「告訴不可分の原則」「告発不可分の原則」という原則あります。

 これら不可分の原則は、「告訴」「告発」のほか、「請求」にも適用され、「請求」の場合は、「請求不可分の原則」と呼ばれます。

 「請求不可分の原則」をひらたくいうと、

  • 犯人が複数いる犯罪で、一人の犯人の処罰を請求すれば、その請求の効力は、犯人全員に及ぶ
  • 犯罪事実の一部を請求した場合、その効力は、犯罪事実全部に及ぶ

というものです。

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