刑事訴訟法(捜査)

告訴とは?② ~「口頭・電話による告訴」「告訴の受理機関」「告訴の取消し」「告訴権の放棄」を判例などで解説~

告訴の方式

 告訴は、検察官または警察官に対し、

書面 または 口頭

で行う必要があります。

 根拠法令は、刑訴法241条Ⅰにあり、

『告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官または司法警察員にこれをしなければならない』

と規定しています。

書面による告訴とは?

 「書面」で告訴を行うとは、「告訴状」という書面を、検察官または警察官に提出することを意味します。

口頭による告訴とは?

 「口頭」で告訴を行うとは、検察官または警察官の面前で、口頭により、犯罪事実・犯人が誰なのか・犯人を処罰する意志を伝え、伝えた内容を「供述調書」という書面にまとめてもらうことを意味します(刑訴法241条Ⅱ)。

 刑訴法241条Ⅱでは、

『検察官または司法警察員は、口頭による告訴または告発を受けたときは調書を作らなければならない』

と規定しています。

 犯罪被害者が口頭で告訴をした内容を、検察官または警察官が供述調書というかたちでまとめた場合でも、有効な告訴であるとする判例が出ています。

 昭和33年11月12日の東京高等裁判所の裁判において、裁判官は、

『犯罪の被害者またはその法定代理人が、司法警察員または検察官に対し、犯罪事実を申告して、犯人に対する処罰を求める意思を表示したときは、これ明らかに告訴ありたるものというに妨げないのであるから、それが口頭によってなされたものに、その旨を録取した書面が「供述調書」の形式 をとったものであつても、当然に、それは刑訴法第241条第2項にいう調書というべきである』

と判示しています。

電話による告訴はできない

 警察官か検察官の面前で、口頭により告訴をすることはできますが、電話で告訴をすることはできません。

 昭和35年2月11日東京高等裁判所の裁判において、裁判官は、

  • 刑訴法241条1項に記載する口頭とは、本来、対話者が直接相対し、その面前において行う応対を指す
  • 表意者を特定し、意思表示の内容の明確にし、後に疑いを残すことのないように、電話による告訴は、口頭形式の一場合として当然に許容されるものではない

旨判示し、電話でよる告訴が認められないことを明示しています。

告訴の受理機関

 告訴は、捜査機関である

検察官 または 司法警察員

にしなければなりません(刑訴法241条Ⅰ)。

 ところで、捜査機関とは、

  • 検察官と検察事務官(検察庁に所属)
  • 警察官(都道府県警察に所属)

※ 警察官は、刑訴法上、「司法警察員」と「司法巡査」に区別される

をいいます。

 ここでのポイントは、告訴を受理できるのは、

  • 検察官
  • 司法警察員

のみであるということです。

 つまり、

  • 検察事務官
  • 司法巡査

には、告訴を受理する権限がないのです。

 なので、告訴状を作る場合、その宛先は、検察官または司法警察員にしなければなりません。

 告訴状の宛先が、検察事務官または司法巡査になっている告訴状は無効な告訴状になります。

 また、口頭で告訴し、告訴の内容を供述調書にまとめてもらう場合、供述調書は、検察官か司法警察員に作成してもらわなければなりません。

 告訴を内容とする供述調書を、検察事務官か司法巡査に作成してもらった場合、その告訴は無効になります。

 この点については、判例があります。

 昭和26年2月5日大阪高等裁判所の裁判において、裁判官は、

『検察事務官としては告訴を受理する権限を与えられていないのであるから、たとえば検事の特命があったとしても、それによって刑事訴訟法又はその他の法律の認めていない権限を行使することは許されない』

『したがって、検察事務官が口頭による告訴をした被害者の供述調書を作成しても、それによって適法な告訴の受理があったことにはならない』

と判示し、検察事務官が作成した告訴調書を無効としました。

告訴の取消し

 告訴は、公訴の提起があるまで、取り消すことができます(刑訴法237条Ⅰ)。

 ポイントは、

公訴の提起があるまで、取り消すことができる

という点です。

 公訴の提起があるまでとは、

 犯人が起訴されるまで

(犯人が裁判にかけられるまで)

という意味です。

 つまり、犯人が起訴されて、裁判になった後は、告訴を取り下げたくても、取り下げることができないということです。

 もし、告訴をしたものの、

 「犯人を許そうと思っている」

 「裁判にしたくない」

などの理由で、告訴を取り消そうと思ったら、犯人が起訴される前までに、検察官や警察官に告訴を取り消したい意思を伝え、告訴取消しの書面を作成するなどして、告訴を取り消す必要があります。

告訴を取り消すことができる人

 告訴の取り消しができる人は、

告訴をした人

です。

 告訴をした人以外の人が、告訴をした人の代わりに告訴を取り消すことはできません。

親告罪の告訴を取り消すと、もう告訴することはできない

 親告罪については、いったん告訴を取り消すと、告訴した事件に関し、もう二度と告訴をすることはできなくなります。

 根拠法令は、刑訴法237条Ⅱにあり、

『告訴の取り消しをした者は、さらに告訴をすることができない』

と規定しています。

 この条文には、『親告罪の告訴の取り消しをした者は、さらに告訴をすることができない』というふうに、「親告罪の」という文言がありませんが、法意としては、親告罪に犯意を限定した条文であるというのが通説です。

 裏を返すと、非親告罪(詐欺罪、窃盗罪など)においては、いったん告訴を取り消しても、再度の告訴ができるということです。

 親告罪に限って、告訴取消し後の再度の告訴ができないとされるのは、親告罪は告訴を訴訟条件公訴提起を可能とする要件)とするため、再度の告訴を自由に認めると、公訴の提起が私人の意思決定の変化に揺さぶられ、検察官の公訴提起の手続の安定性を害するためです。

 これに対し、非親告罪においては、告訴は捜査の端緒となるに過ぎず、告訴を訴訟条件としないので、告訴の取消しと再度の告訴を自由に認めたところで、検察官の公訴提起に支障を与えないことから、再度の公訴をすることに制限はないと設けられていません。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和27年6月30日)

 この判例で、裁判官は、

  • 詐欺罪のような非親告罪においては、たとえ被害者の告訴が無効であるからといって、告訴がなかった場合と同一に解されるだけのことであって、公訴提起の手続について、規程に違反するや否の問題を生ずる余地はない
  • 従って、告訴が一旦取り消された後の再告訴であっても、刑事訴訟法237条第2項により、同人が告訴権を有しないものとしても、そのことから本件公訴の無効を惹起する理由が認められない

と判示し、非親告罪については、告訴取消し後の再度の告訴がなされていても、それが公訴提起の有効性に影響を与えないことを明示しました。

共犯者が起訴されているときは、告訴を取り消すことはできない

 告訴した犯罪事実が犯人が複数人いる共犯事件で、犯人のうちの一人がすでに起訴されている場合は、告訴を取り消すことはできません。

 これは、告訴の効力は、犯罪事実について生じるためです。

 犯罪事実に登場する犯人のうちの一人が起訴されている以上、まだ起訴されていない共犯者に対する告訴を取り消すことはできないのです。

一人の公訴の取消しは、ほかの告訴権者の告訴に影響しない

 告訴した人が、一人ではなく、数人いるとき場合は、そのうちの一人が告訴を取り消しても、他の人が告訴を取り消していない限り、事件が告訴されている状態が維持されます。

 告訴権者が数人ある場合は、一人が告訴の取消しにより、告訴権を失っても、他の告訴権者の告訴権には影響しないのです。

 これは、告訴権は、告訴権者がそれぞれ固有の権利として持っているため、他の告訴権者の干渉を受けないためです。

告訴権の放棄

 誰しも、犯罪に被害に遭った場合に、告訴をする権利を持っています。

 この告訴をする権利(告訴権)を自ら放棄できるどうかについて、法律に規定はありません。

 しかし、判例において、

告訴権は放棄できない

ことが判示されています。

 昭和37年6月26日最高裁判所の裁判において、裁判官は、

『被害者の法定代理人は告訴権の放棄をすることはできず、したがって、検察官に対する告訴は有効である』

と判示し、告訴権は放棄できないものであるという判例が出ています。

 そもそも、告訴したくなければ、告訴しなければよいだけです。

 あえて告訴権を放棄するという行動に出る必要はありません。

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