告発とは?
告発とは、
犯人または告訴権者以外の第三者が、捜査機関に対し、犯罪事実を申告して、犯人の処罰を求める意思表示
をいいます。
告発は、犯罪があることを知った人であれば、誰でも行うことができます。
根拠法令は、刑訴法239条Ⅰにあり、
『何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる』
と規定されています。
ちなみに、刑訴法239条Ⅱに、
『官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない』
とありますが、この条文の意味は、
『公務員は、職務を行う中で犯罪があることを知ったときは、告発をしなければならない』
という意味です。
告発は、告訴と比較して捉えると分かりやすい
告発は、告訴と比較して捉えていくと理解が深まります。
まずは、
- 告発…犯罪を発見した人なら、誰でも行うことができる
- 告訴…犯罪被害者などの告訴権を持つ人でないと行うことができない
と捉えるところから始めればOKです。
告発の方法
告発の方法は、基本的には告訴の場合と同じです(刑訴法241、242、243条)。
前回の告訴の記事(「告訴とは?①」「告訴とは?②」「告訴とは?③」)で書いた告訴の方法が、例外部分の除き、告発にも適用されます。
告発が告訴と共通する分をまとめると
- 告発状には、犯罪事実と犯人の処罰を求める意思の記載が必須である
- 告発できるのは人が限らず、法人などの団体でもできる
- 告発は、検察官または司法警察員に対し、口頭または書面で行う
- 告発にも、告訴不可分の原則が適用される
となります。
ただし、以下の①~④の点については、告発は、告訴と異なります。
① 代理人による告発または告発取消しはできない
告訴については、代理人による告訴または告訴取消しが認められていました(刑訴法240条)。
しかし、告発については、代理人による告発または告発取消しは認められていません。
これは、刑訴法240条は、
『告訴は、代理人によりこれをすることができる。告訴の取消についても、同様である』
と記載され、告訴限定の規定になっているためです。
法は、告発または告発取消しを代理人ができるとはしていないのです。
これは、告発は、告訴と異なり、自己の救済を求める意味を含まず、公益のためその申告を行うものであるため、告発をしようとする者は、自ら告発を行うべきであって、他人に代理権を付与して告発を行う必要がないといった理由が説かれています。
【代理人弁護士による告発】
代理人による告発はできないという話をしましたが、弁護士を代理人とする告発は、事実上広く行われています(大コンメンタール刑事訴訟法第4巻の説明による)。
とはいえ、刑事訴訟法上は、告発は代理人がすることはできないとされているので、弁護士に依頼して告発を行う場合でも、告発状は弁護士に用意してもらうにしても、告訴状の作成名義は、代理人弁護士名ではなく、告訴人名で作成する方が、疑義が生じず、好ましいように思われます。
② 告発を取り消した後の再度の告発が認められる
告訴については、告訴を取り消した後、再度の告訴は認められません(刑訴法237条)。
しかし、告発の場合は、告発を取り消した後の再度の告発が認められます。
このことは、昭和28年6月26日の東京高等裁判所の判例で明らかになっています。
この裁判で、裁判官は、
『一度告発の取消しをした後、ふたたび告発しても、その再度の告発は有効である』
と判示し、告発取り消し後の再度の告発は認められるとしました。
③ 告発は、公訴提起後でも取消しができる
刑訴法237条Ⅰは、
『告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる』
と告訴限定の規定を置いており、告訴については、公訴の提起後は、取り消すことができないとしています。
しかし、告発については、そのような規定は置かれていません。
したがって、告発については、公訴提起後でも、告発を取り消すことができます。
④ 告発に期限はない
刑訴法235条は、
『親告罪の告訴は、犯人を知った日から6か月を経過したときは、これをすることができない』
と規定しています。
親告罪の告訴については、犯人を知った日から告訴期間を6か月に限定する規定を置いていますが、告発にはそのような規定は置かれていません。
したがって、告発に告発期限はなく、どんなに時間が経った後でも、告発はできることになっています。
匿名の告発はできない
当然ですが、告発を匿名で行うことはできません。
(ちなみに、告訴も匿名ではできません)
告発は、犯罪被害者ではない第三者が、自分とは関係のない他人の処罰を求めるものなので、告発をしたのが誰なのかを明確し、告発をしたことの責任の所在を明らかにするために、匿名での告発は認められないのです。
告発人の名前を明らかにしない投書や密告をしても、告発にはなりません。
告発不可分の原則
前回記事で解説した告訴の話に戻りますが、告訴には「告訴不可分の原則」という原則あります(刑訴法238条)。
告発にも同じ原則が適用され、告発の場合は、「告発不可分の原則」と呼ばれます。
「告発不可分の原則」をひらたくいうと、
- 犯人が複数いる犯罪で、一人の犯人を告発すれば、その告発の効力は、犯人全員に及ぶ
- 犯罪事実の一部を告発した場合、その効力は、犯罪事実全部に及ぶ
というものです。
「告発不可分の原則」については、以下の判例(平成4年9月18日 最高裁判例)があり、裁判官は、告発の効力が及ぶ範囲について、
『議員証言法6条1項の偽証罪については、1個の宣誓に基づき同一の証人尋問の手続においてされた数個の陳述は一罪を構成するもとの解されるから、数個の陳述の一部分について、議員等の告発がされた場合、一罪を構成する他の陳述部分についても当然に告発の効力が及ぶものと解するのが相当である』
と判示し、「告発不可分の原則」の考え方を示しました。
告発がなければ公訴を提起できない犯罪
告訴の話をします。
告訴がなければ、公訴を提起できない(犯人を裁判にかけることができない)犯罪があり、この犯罪を親告罪(名誉毀損罪、器物損壊罪など)といいます。
告発についも、告発がなければ公訴を提起できない犯罪があります。
法律上、告発がなければ、公訴を提起できない犯罪(告発が訴訟条件となっている犯罪)は以下のとおりです。
- 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律89条から91条の罪に関する公正取引委員会の告発(同法96条Ⅰ)
- 公職選挙法253条1項の罪に関する選挙管理委員会の告発(同法253条Ⅱ)
- 関税法上の犯則事件に関する税関職員ないし税関長の告発(同法148条Ⅰ、145条ただし書、146条Ⅱ、147条)
また、判例上、告発がなければ公訴を提起できない犯罪(告発が訴訟条件になっている犯罪)は以下のとおりです。
- 議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律に規定する偽証罪(最高裁判決 昭和24年6月1日)
- 間接国税に関する犯則事犯における国税犯則取締法の規定による収税官吏の告発(最高裁判決 昭和28年9月24日)
告発を規定した刑事訴訟法以外の法律
告発については、刑事訴訟法に規定があります。
ここで、刑事訴訟法以外にも、告発を規定している法律があるので、以下のとおり紹介します。
① 国税犯則取締法
同法18条Ⅰは、
『犯則事件を告発したる場合において差押物件または領置物件あるときは差押目録または領置目録と共に検察官に引継ぐべし』
と規定し、犯則事件に関する国税局長または税務署長の告発は、検察官に対して行うことを前提としています。
同法において、
とされます。
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