強制性交等罪における共犯(共同正犯)
強制性交等罪(刑法177条)における共犯(共同正犯)について説明します。
共犯者の暴行・脅迫を利用しての強制性交
自ら暴行・脅迫を行わなくても、強制性交の共謀者の加えた暴行・脅迫を利用して強制性交するときは、強制性交等罪の共同正犯となります。
先行者の暴行・脅迫を利用しての強制性交
先行者の加えた暴行・脅迫の結果を利用し、後行者が強制性交した場合で、先行者と後行者との間に承継的共同正犯の関係が認められるときは、強制性交等罪の共同正犯が成立します。
参考となる判例として、以下のものがあります。
名古屋高裁判決(昭和38年12月5日)
事案は、
- 被告人が、被害者A子を自己の居室に連れこみ、暴行脅迫を加えて抗拒不能にした上、衣類を脱がせて裸にし、ふとんの中に寝させたところへ、たまたま友人のKが来合せたので、Kに対し、A子が○○百貨店店員で、被告人が言葉巧みに、その居室に誘いこんだものであることを話した上「お前やりたかつたら、先にやれ」とA子を姦淫することを勧めた
- これを聞いたKは、A子が泣いていた形跡があり、裸でフトンの中に横たわり、かつA子から、被告人に殴られたことを訴えられて、A子が被告人の暴行脅迫により抗拒不能の状態にあることを察知したが、被告人の勧めにより劣情を催し、A子の抗拒不能の状態に乗じ、強いて姦淫した
- 被告人自身も、Kに続いて、A子を姦淫するつもりであったが、A子が便所へ行き、被告人らのスキを見て逃げ出したため、その目的を遂げなかつた
というものです。
裁判官は、
- Kは、被告人の強姦の意思、及び被告人のなした暴行脅迫により被害者が抗拒不能の状態になった経緯を察知しながら、被告人の勧めにより、右状態を利用して被害者を姦淫しようと決意したのであるから、この時、被告人とKの間には、A子に対する刑法第177条前段の強姦罪(現行法:強制性交等罪)の共謀が成立したのであり、右共謀に基きKは被害者を強いて姦淫した以上、右両名は同罪の共同正犯と言うべきである
- 従って、Kは、Kが本件に直接関与する以前に被告人によって行われた被害者に対する暴行脅迫による反抗抑圧行為についで責任を負うとともに、被告人もKの被害者に対する姦淫行為について責任を負わなければならない
- して見れば、Kの姦淫によって、Kと被告人の共謀による強姦罪(強制性交等罪)は既遂に達したのであって、被告人の所為は準強姦(現行法:準強制性交等罪)の教唆に止まるものではなく、また被害者が逃出したため被告人自身の姦淫の目的は遂げられなかったとしても、更に、これについて被告人に強姦未遂(強制性交等未遂)の責任を問うべきではない
と判示し、被告人とKの両名に対し、強制性交等罪の共同正犯が成立するとしました。
先行者が強制性交しているところに、後から加わって強制性交した場合、後行者は、強制性交に加わった時点以降の行為について、強制性交罪の共同正犯の責任を負う
先行者が強制性交しているところに、後から加わって強制性交した場合、後行者は、強制性交に加わった時点以降の行為について、強制性交罪の共同正犯の責任を負います。
参考となる判例として、以下のものがあります。
複数の者が被害女性に対し強制性交をしていたところに、被告人が後から加わり、強制性交した行為について、裁判官は、
- 先行者によって既に開始された犯罪実行の中途からこれに介入した者の責任は、その介入後の行為についてのみ発生するものと解すべきである
- 本件においても被告人は共謀関係成立後の犯行についてのみ責任を負い、それ以前の他の者の犯行については責任を負わないものといわなければならない
- したがって、被告人に強制性交等致傷の責任を負わせるには、該各致傷の結果が被告人の共謀関係成立後の強姦行為によって生じたものであることが立証されなければならない
- しかるに、右各致傷の結果が本件一連の強姦行為中に生じたものであることは前段認定のとおりであるけれども、果してそのいずれの段階において生じたものであるかは証拠上全く不明である
- それゆえ、被告人については強姦の範囲内においてのみ責任を問い得るに止まり、致傷の結果に ついてまで責任を問うことはできない
- してみれば、被告人にの各強姦致傷(現行法:強制性交等致傷)の罪責を認めた原判決は前提たる事実を誤認したか、あるいは共犯における共同責任についての法律の解釈適用を誤ったものというのほかなく、この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、刑事訴訟法第397条第1項・第382条・第380条の破棄事由に該当するものと解される
と判示し、強制性交罪の中途から介入した被告人の責任は、その介入後の行為についてのみであるとした上、被害者の致傷の結果がいつ生じたか不明であるならば、被告人に対し、強制性交等致傷罪の共同正犯の責任までを負わせることはできないとしました。
共犯者両名が被害者を脅迫し、共犯者の一人が異なる場所で被害者を強制性交した場合、強制性交をしていない共犯者も強制性交罪の共同正犯の責任を負う
2人以上の者が意思を通じて被害者を脅迫し、うち一人が被害者を異なる場所で強制性交した場合、共謀共同正犯の成立が認められ、強制性交を行っていない者を含む共犯者全員に対し、強制性交等罪の共同正犯が認められます。
参考となる判例として、以下のものがあります。
東京高裁判決(平成18年2月24日)
被告人A、Bが自動車内で被害女性Cを脅迫し、うち1名がホテルでCを暴行・強制性交した事案です。
裁判官は、
- 被告人A、Bが、1時間30分の間、東名高速道路からホテルに至る車内において、Cに対し、それぞれ脅迫を加え、被告人のうち1名が、ホテルで、Cの足を押し広げるなどの暴行を加えて姦淫した本件につき、被告人両名について集団強姦罪(刑法178条の2、現在は条文削除)が成立することはいうまでもない
- 被告人Bは、Cを呼び出し、ホテルまでの車内においても積極的にCを脅迫していることが認められるのであって、被告人BがCに対する姦淫行為を行っていないとはいえ、本件において積極的かつ重要な役割を果たしたことは明らかである
として、A、Bの両名に対し、集団強姦罪(現行法における強制性交等罪の共同正犯)の成立を認めました。
互いに他の者の行為を利用したと認められる状況がないときは、共同正犯とはならない
互いに他の者の行為を自己の意思の表現として利用したと認められる状況がないときは、強制性交等罪の共同正犯とはなりません。
参考となる判例として、以下のものがあります。
広島地裁判決(昭和42年12月18日)
強制性交等未遂の共謀共同正犯を否定し、各被害者に対する強制性交等未遂の単独犯を認めた事例です。
裁判官は、
- 被告人Yは、A子を強いて姦淫しようと考え、被告人Mは被告人YがA子、B子を姦淫しようとしているのではないかと感じ、Yが姦淫する場合には自分も姦淫しようと内心考えていた
- 被告人Yは、被告人Mに対し、A子を指さし、「わしはこっちをものにするから、お前はあれをやれや」とささいた
- そこで被告人MにおいてもB子を強いて姦淫しようと決意し、被告人両名は互いに相被告人が強姦行為におよぶであろうことを認識しながら、それぞれ犯行におよんだ事実がみとめられる
- しかしながら、被告人両名がA子らを強姦しようとの意思連絡を行なったとの事実はみとめられず、したがって、また強姦罪(現行法:強制性交等罪)の実行の着手たる暴行、脅迫を被告人らが行ったとの事実もみとめられない
- 被告人両名は、意思を通じたうえ、それぞれ実行行為には出ているが、強姦罪(強制性交等罪)は被害者ごとに成立するものであり、A子、B子の両女に対する各犯行は、別個の犯罪であると考えられるに加え、各犯行現場はかなり離れていることが明らかであって、被告人両名が暴行、脅迫を共同して行ない、あるいは相被告人の暴行、脅迫を互いに利用した事実はみとめられない
- それ故、被告人両名は、いずれも相被告人の犯行には互に何ら加功しておらないのであるから、いわゆる実行共同正犯が成立しないことは明らかであるといわなければならない
- そこで、共謀共同正犯の成否についてさらに考察するに、いわゆる共謀共同正犯が成立するためには、2人以上の者が特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となつて、互いに他人の行為を利用して各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、この謀議にもとづき、共謀者のある者が実行したとの事実が存しなければならないと解される(昭和33年5月28日最高裁大法廷判決参照)
- したがって、共謀共同正犯における共謀は、2人以上の者が各自現実に実行行為の全部または一部を行ういわゆる実行共同正犯の場合の主観的成立要件たる、2人以上の者における「意思の連絡」ないし「共同犯行の認識」のみでは十分でない点において、これと異なるものがあるといわなければならない
- これを本件についてみるに、被告人Yの前記の言葉を契機に、それぞれ相被告人と意思を通じ、各自実行々為におよんだが、その際、両被告人とも自己が強姦に、着手した婦女のみを姦淫しようと考えたにすぎず、他の婦女をも姦淫しようとの意思は全く有していなかったことが明らかである
- いうまでもなく、強姦罪(強制性交等罪)においても、自己が姦淫する意思を有していなくとも、他の者と共謀し、その者をして実行行為をなさしめることにより共謀共同正犯の成立する場合はあるけれども、共謀共同正犯における共謀の内容を前記の如く解する以上、強姦罪(強制性交等罪)の性質からして、実行行為に出ない者について実行行為者の行為により自己の犯罪を行う意思、即ち正犯意思を有したというためには、当該婦女を姦淫することに関して、例えば、該婦女に対する自己の憎しみの感情等の利害関係そのほか他の者の行為を自己の意思の実現として利用したとみるに足りる何らかの事情がなければならないと解される
- しかし、叙上の事実関係からみて、被告人両名はいずれも相被告人の行為についてまでも、自己の犯罪として行わしめる意思を有していたとみとめるに足りる事情はうかがわれない
- 以上によれば、被告人両名は当時、互いに相被告人の犯行を認識して各自の犯行におよんだとしても、いわゆる共謀共同正犯における共謀があったものとは考えられない
- また被告人Yの被告人Mに対する前記「わしはこっちをものにするから、お前はあれをやれや」との文言も、いまだそれのみでは、被告人Yが被告人Mに対し、B子についての強姦の教唆あるいは幇助をしたとみる証拠となすには十分でないといわなければならない
と判示し、被告人A、Bに対し、強制性交等未遂の共同正犯の成立を否定し、強制性交等未遂のA、Bそれぞれの単独犯が成立するとしました(なお、A子、B子の抵抗により、強制性交等は未遂であった)。
東京高裁判決(昭和43年10月7日)
共謀による強制性交等致傷罪の公訴事実につき、共謀および承継的共同正犯の主張を排斥し、単独による強制性交等罪のみを認定した事例です。
共謀による強制性交等罪の公訴事実について、単独の強制性交等罪だけを認めた理由について、裁判官は、
- 検察官は、被告人がT、I、Kほか2名くらいと共謀のうえで、順次、被害女性を強いて姦淫し、その結果、通院加療約1週間を要する処女膜裂傷等の傷害を負わせたのであるから、被告人の行為は共謀による強姦致傷罪(強制性交等致傷罪)を構成すると主張する
- けれども、被告人とTが適当な女性を探し始めた時点においてはもちろんのこと、A子、B子を喫茶店に誘い込んだ段階においても、被告人とTが姦淫しようとする相手はまだ特定しておらず、両名が共同の意思の下に一体となって、共に他人の行為を利用し、各自の姦淫の意思を実行に移すことを内容とする具体的な謀議をしたとは言えない
- 更に被告人がB子を、TがA子を伴って喫茶店を出て、国際通りへ向かって歩き始めた時点においても、被告人ら両名が各自の連れの女性をそれぞれ異った場所に連れ込んで姦淫しようとする意思であったことが明白に認められるので、被告人が姦淫しようとした相手はB子であったのであり、被告人とTとの間にA子を姦淫する謀議が成立したと見るのは著しく不自然である
- 次に検察官は、被告人とTの間に事前に共謀がなかったとしても、被告人が同人宅に戻ってからの行為は、Tの強姦致傷の行為との承継的共同正犯であると主張する
- けれども、被告人が同人宅に戻った時点では、TのA子に対する強姦致傷(強制性交等致傷)の行為は既に終了していたのであり、被告人が1階の戸を叩いた際には、Tは2階から下りて来て鍵を外してくれたことが認められる
- そして、被告人がA子を強いて姦淫する意思で四畳半の部屋にはいったときには、A子は身仕度を整えて座っていたこと、その後A子が階段を降りて逃走を試みたことからも、被告人がTの実行行為の継続中にこれに加功したものではないことが認められる
- 従って、被告人の行為は、強姦致傷の承継的共同正犯を構成するものではない
- なお、検察官は、被告人は、被告人の後にA子を強いて姦淫したIほか3名とも共同正犯の関係にあると主張するけれども、前記の各証拠によると、被告人は自己の強姦行為の終了に至るまでIらが現場に到着したことを知らず、Iらが被告人に引き続いてA子を姦淫する意思があったことを知らなかったことが認められるから、Iらの姦淫行為は、被告人の姦淫行為とは独立して行なわれたものであり、被告人はIらの行為について共同実行の責任を負うべき限りではない
と判示し、被告人に対し、A子に対する共謀による強制性交等罪の共同正犯の成立を否定し、単独の強制性交等罪だけを認定しました。
次回記事に続く
次回記事において、
- 共謀関係の消滅(共犯からの離脱)
- 強制性交の目的ではない自らが先に行った暴行・脅迫の結果を利用して被害者を強制性交した場合も、強制性交等罪が成立する
- 共謀関係のない他人が先に行った暴行・脅迫の結果を利用し、被害者の抗拒不能に乗じ、被害者を強制性交した場合は、強制性交等罪ではなく、準強制性交罪が成立する
について説明します。