勾留とは?
勾留とは、
逮捕した被疑者を警察署や刑務所の留置施設に拘禁すること
をいいます。
勾留には、
被疑者勾留
(逮捕されてから起訴されるまでの間の勾留)
※ 起訴される前の犯人を被疑者と呼びます。
と
被告人勾留
(起訴されてから判決が出るまでの間の勾留)
※ 起訴された後の犯人を被告人と呼びます。
の2種類があります。
今回は、被疑者勾留について解説します。
勾留の要件(勾留の理由+勾留の必要性)
勾留の要件は、『勾留の理由』と『勾留の必要性』に分けられます。
『勾留の理由』とは?
『勾留の理由』とは、刑訴法60条1項に規定される
- 住居不定である
- 罪証隠滅のおそれがある
- 逃亡のおそれがある
という3つの理由を指します。
刑訴法60条1項の規定は、被告人のほか、被疑者にも適用されます(刑訴法207条1項)。
①~③の勾留の理由のうち、どれか一つでも当てはまれば、被疑者を勾留することができます。
ただし、
30万円以下の罰金、拘留または科料に当たる罪(過失傷害罪など)
については、①の住居不定の要件が必ず存在しないと、被疑者を勾留することはできません(刑訴法60条3項)。
たとえば、過失傷害罪を犯して逮捕された場合、罪証隠滅や逃亡のおそれはあっても、被疑者に住居不定の要件がなければ、被疑者を勾留することはできません。
『勾留の必要性』とは?
『勾留の必要性』とは、刑訴法60条1項の理由(住居不定・罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれ)以外で勾留が必要な理由をいいます。
たとえば、
- 殺人罪などの重大犯罪である
- 共犯者や事件関係者が多数いて複雑な事件である
- 被疑者が素行不良者であり、釈放すればすぐに再び犯罪を犯すおそれがある
といったことが、『勾留の必要性』に当たる理由として挙げられます。
ちなみに、勾留は、刑訴法60条1項の『勾留の理由』を満たせば認められるので、『勾留の必要性』に区分される理由がなくても勾留は認められます。
『勾留の必要性』に区分される理由がなくても問題はありません。
裁判官による勾留の取消し
勾留中に、事情の変化により、『勾留の理由』または『勾留の必要性』がなくなった場合は、裁判官の判断により、勾留が取り消されることになります(刑訴法87条)。
検察官による勾留中の被疑者の釈放
検察官は、勾留中に、検察官独自の判断で、被疑者を釈放することできます(刑訴法208条1項)。
この釈放に当たり、裁判所による勾留の取消しの判断は不要です。
勾留の手続
逮捕前置主義
被疑者を勾留するためには、前提として、
被疑者が逮捕されている状態であること
が必要になります。
被疑者を勾留するに当たり、前提として被疑者が逮捕されている必要があることを
逮捕前置主義
といいます。
逮捕前置主義は被疑者に対して適用されるルールである
逮捕前置主義は、被疑者を逮捕して勾留する場合に適用されるルールであり、被告人(検察官に事件を起訴され、裁判にかけられた者)には適用はありません。
つまり、事件が起訴された被告人に対しては、逮捕が前提になくても、裁判官は職権で勾留状を発付し、被告人を勾留することができます。
勾留請求と勾留状の発付
逮捕した被疑者を勾留するためには、検察官が、裁判官に対し、
勾留請求
という手続を行う必要があります(刑訴法205条)。
検察官から勾留請求を受けた裁判官は、勾留の必要があれば、勾留状を発付し、被疑者を10日間、警察署の留置施設に勾留するという判断をします(刑訴法208条1項)。
さらに、裁判官は必要があれば、勾留期間を10日間延長する判断ができるので、被疑者は最長で20日間勾留されることになります(刑訴法208条2項)。
※ なお、国を脅かす罪(内乱・外患・外交・騒乱に関する罪)を犯した場合は、さらに5日間勾留を延長することができ、被疑者の勾留期間は最長で25日間になります(刑訴法208条の2)。
勾留された被疑者は、検察官に事件を起訴されると、被告人と呼ばれる立場になり、勾留された状態のまま、まずは2か月間、勾留が継続します(※この状態が「被告人勾留」です)(刑訴法60条2項)。
その後も必要があれば、勾留期間は1か月ごとに更新され続け、判決が出るまで、被告人勾留の状態が続く可能性があります(刑訴法60条2項)。
※ 「逮捕➡勾留請求➡勾留」の具体的な手続は、通常逮捕の記事の中で解説しているので、参考にしてみてください。
検察官は、逮捕事実に、逮捕されていない犯罪事実を加えて勾留請求できる
検察官が勾留請求するには、逮捕が前提にあることが必要ですが(逮捕前置主義)、検察官は、逮捕事実に、逮捕されていない犯罪事実を加えて勾留請求し、裁判官に勾留状を発付してもらうことができます。
例えば、検察官は、窃盗罪で逮捕された被疑者を勾留請求するに当たり、余罪の詐欺罪の犯罪事実(逮捕されていない犯罪事実)を加えて勾留請求し、裁判官に窃盗罪と詐欺罪の2つの犯罪事実が記載された勾留状を発付してもらい、窃盗罪と詐欺罪の2つの犯罪事実で被疑者を勾留することができます。
これは、逮捕事実に逮捕されていない犯罪事実を加えることは、逮捕の回数を少なくすることになり、被疑者に有利に働くことから許されているものです。
例えば、検察官が逮捕事実である窃盗罪のみで勾留請求して勾留状の発付を受け、被疑者を20日間勾留して起訴したとします。
その後、検察官は、余罪の詐欺罪でもう一度被疑者を逮捕して最大20日間勾留することが可能なので(この場合、勾留期間は窃盗罪の20日と合わせて合計40日となる)、被疑者にとっては窃盗罪と詐欺罪を併せて一度に勾留請求して勾留してもらった方が勾留が20日間で済むため得となります。
勾留に関する記事一覧
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