刑法(横領罪)

横領罪(25) ~「①不法原因給付物、②委託された盗品に対しても横領罪は成立する」を判例で解説~

 不法原因給付物や委託された盗品を領得した場合でも、横領罪が成立することについて説明します。

不法原因給付物とは?

 まず、不法原因給付物について説明します。

 不法原因給付物とは、

不法な原因に基づいて給付されたもの

をいいます。

 たとえば、

  • 窃盗・詐欺をして得た物
  • 偽造貨幣を制作したことの報酬として得たお金
  • 違法なギャンブルで得たお金

など、不法行為を行って得たお金やものが不法原因給付物に該当します。

 不法原因給付物は、裁判上返還請求をし得ない(民法708条)物ですが、その所有・所持が禁止されるわけではなく、財物性が一般に認められます。

 不法原因給付物でも、財物性が認められるので、不法原因給付物を盗む、詐取するなどすれば、窃盗罪、詐欺罪などの犯罪が成立します。

 判例上、不法原因給付物の財物性が認められ、犯罪の成立を認めた事例として、以下のものがあります。

  • 偽造通貨を作った資金や報酬としての金員を詐取➡詐欺罪成立
  • 賭博金の詐取➡詐欺罪成立
  • やみ米を買う偽り代金を詐取➡詐欺罪成立
  • 賭博により受領された金員を強取➡強盗罪成立

不法原因給付物に対しても横領罪が成立する

 民法上、公序良俗違反の行為は無効ですが(民法90条)、不法な原因のために給付をした者は、不法な原因が受益者についてのみ存する場合のほかは、その返還を請求することができないとされています(民法708条)。

 このように、民法上は委託者に返還請求権がない物が横領罪の対象物となるのかにつき争いがあります。

 この点について、判例は、不法原因給付物に対する横領罪の成立を認めています。

大審院判決

大審院判決(明治43年7月5日)、大審院判決(大正2年12月9日)

 贈賄のための資金として渡した金員が、不法原因給付として取り戻すことができないものであっても、委託者は取り戻すことができないだけで金銭の所有権を喪失せず、受託者には処分権がないとし、その領得に関して横領罪の成立を認めました。

大審院判決(昭和11年11月12日)

 密輸出をする金地金の購入資金として渡した金銭の横領事件において、委託者において所有権が喪失していないことを理由に、受託者が密輸出をする金地金を領得した行為について、横領罪の成立を認めました。

最高裁判決

最高裁判決(昭和23年6月5日)

 委託者の収賄の事実を隠蔽するための警察署の上司に対する買収資金として預かった金員を費消した事案において、裁判官は、

  • 不法原因のため、給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができないことは、民法第708条の規定するところであるが、刑法第252条第1項の横領罪の目的物は単に犯人の占有する他人の物であることを要件としているのであって、必ずしも物の給付者において民法上その返還を請求し得べきものであることを要件としていない
  • 被告人は、他に贈賄する目的をもって、本件金員をA及びBから受取り保管していたものであるから、被告人の占有に帰した本件金員は、被告人の物であるということはできない
  • また、金銭の如き代替物であるからといって、直ちにこれを被告人の財物であると断定することもできないのであるから、本件金員は、結局、被告人の占有する他人の物であって、その給付者が民法上その返還を請求し得べきものであると否とを問わず、被告人においてこれを自己の用途に費消した以上、横領罪の成立を妨げないものといわなければならない

と判示して横領罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和27年5月20日)

 委託者が取調べを受けた窃盗事件をもみ消すために警察職員に贈賄する費用として委託を受けて保管中の金銭を費消した事案です。

 被告人の「委託者は返還請求をし得ないので、贈賄費用を委託を受けて保管をしている関係にはない」という上告趣意に対し、裁判官は、

  • 民法上不法原因のため給付者が、その給付したものの返還を請求することができない場合においても、その保管者がこれを不法に領得した以上、横領罪が成立する

としました。

下級審判決

札幌高裁判決(昭和24年10月8日)

 売却を頼まれた米の売却代金や運搬を頼まれた米に関し、それらの米が闇物資であり委託者が返還請求権を有しないものであるとしても、所有権までも失わないとし、米は依然として他人の物で横領罪の目的となり得ると判示し、闇物資の米に対する横領罪の成立を認めました。

福岡高裁判決(昭和25年8月23日)

 費消した金銭が、米の闇買のために預かったもので、不法原因給付として委託者が返還請求権を有しなくとも被告人の物ではないとし、米の闇買のために預かった金銭を領得した行為について、横領罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和26年4月28日)

 白砂糖の売買取引が闇取引であったとしても、その買受代金として預かった金銭が不法原因給付とは解せられない上、不法原因給付物であっても給付者が所有権を失うことがないとし、闇取引のために預かった金銭を領得した行為について、横領罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和45年11月10日)

 法令で禁止された導入預金に対する謝礼等に使用する趣旨で受領した金銭の横領事案で、裁判官は、

  • そのような経済政策的な見地から禁止されている行為の用に供する目的での給付には民法708条の適用はないと解される上、仮に不法原因給付に該当するとしても、横領罪の目的物は給付者において、民法上その返還を請求し得ることを要件としておらず、その金銭は給付者の所有に属することが明らかである

とし、横領罪の成立を認めました。

委託された盗品に対しても横領罪が成立する

 不法原因給付と横領の問題に関し、処分を委ねられた盗品を領得したり、その売却代金を着服したりした場合に、横領罪が成立するか否かが問題となります。

 この点について、最高裁は、横領したものが盗品や盗品の売却代金であったとしても、横領罪が成立するとしています。

最高裁判決(昭和36年10月10日)

 窃盗犯人から盗品の売却の斡旋を依頼され、これを売却して受け取った代金を着服したとして、盗品等有償処分あっせん罪(旧称 贓物牙保罪)と横領罪に問われた事案で、裁判官は、

  • 横領罪の目的物は犯人の占有する他人の物であることをもって足り、民法上受託者に返還を請求することができるものであることを要件としない

として、横領罪の成立を認めました。

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