不作為による横領行為が認められる場合がある
不作為をもって、横領罪における不法領得の意思を実現する行為(横領行為)と認められる場合もあります。
たとえば、保管の委託を受けた目的物を返還しない行為は、不作為による横領罪が成立し得ます。
参考となる判例として、次のものがあります。
この判例で、裁判官は、
- 横領罪は、自己の占有する他人の物を自己に領得する意思を外部に発現する行為があったときに成立するものである
- そして、その不法領得の意思を発現する行為は、必ずしもその物の処分のような客観的な領得行為たることを要せず、単に領得の意思をもって為した行為たるをもって足るのである
- 被告人は、Eから、E所有の脇差及び太刀について、銃砲等所持禁止令による保管許可申請手続をすることを頼まれてこれを受け取り、京都博物館の蹴込に置いて保管中、これを自分の物として、日頃交際する警察官に贈与する目的で、ことさら所定期日の昭和21年10月14日までにその手続をせず、以後ほしいままに自己の為にこれを前記場所に蔵置していた
- そして、右判示事実によれば、被告人に不法領得の意思を表現する行為があったものと認められる
と判示し、不作為(この判例の場合、目的物の保管許可手続をせずに、そのまま隠して自分のものにする行為)による横領罪の成立を認めました。
横領行為は、他人の所有権に対して、法律上又は事実上の侵害を与えるものである必要がある
横領罪の成立を認めるに当たり、横領行為は、他人の所有権に対して、法律上又は事実上の侵害を与えるものである必要があります。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(明治44年10月13日)
この判例は、質権者から、質物の保管を委託された者が、これを所有者に交付した場合には、質権に損害を与えたものではあるが、所有権を侵害してはいないので、背任罪には該当し得るが、横領罪は成立しないとしました。
裁判官は、
- 質権者が質物として受け取り置きたる物件を、質権者の委託を受けて保管中、質物所有者の言うを容れ、ほしいままにこれを交付したる所為は、質権に侵害を加えたるものなるをもって、刑法247条の犯罪を構成するものとす
と判示しました。
他人の所有者の侵害は、その物について権利の行使を不可能、困難ならしめるものであれば足りる(処分行為が法律上有効でないというだけで、横領罪の成立が否定されるものではない)
上記のとおり、横領罪の成立を認めるには、横領行為が、他人の所有権に対して、法律上又は事実上の侵害を与えるものである必要があります。
そして、他人の所有権の侵害は、所有者がその物について権利の行使を不可能、困難ならしめるものであれば足ります。
なので、処分行為が法律上有効でないというだけで、横領罪の成立が否定されるものではありません。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(明治42年8月31日)
この判例は、製造した船舶を仮装売買により引き渡した場合には、実体上は所有権が移転しなくとも横領となるとしました。
最高裁決定(平成21年3月26日)
この判例は、他人所有の建物を、その他人のために預かり保管していた者が、金銭的利益を得ようとして、その建物の電磁的記録である登記記録に不実の抵当権設定仮登記を了したことにつき、電磁的公正証書原本不実記録罪及び同供用罪とともに、横領罪が成立するとしました。
裁判官は、
- 被告人は、和解により、所有権がB会に移転した本件建物を同会のために預かり保管していたところ、共犯者らと共謀の上、金銭的利益を得ようとして仮登記を了したものである
- 仮登記を了した場合、それに基づいて本登記を経由することによって仮登記の後に登記された権利の変動に対し、当該仮登記に係る権利を優先して主張することができるようになり、これを前提として、不動産取引の実務において、仮登記があった場合には、その権利が確保されているものとして扱われるのが通常である
- 以上の点にかんがみると、不実とはいえ、本件仮登記を了したことは、不法領得の意思を実現する行為として十分であり、横領罪の成立を認めた原判断は正当である
と判示しました。
大審院判決(大正7年9月25日)
この判例は、他人から委託された物品数点を、共犯者方で競売に付して処分した場合には、法律上、所有権移転の効果を生じることなく、所有者の権利行使に障害を与えなくとも、横領罪の成立に影響しないとしました。
「横領罪における実行行為」の記事一覧
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横領罪(36) ~横領罪における実行行為②「不作為による横領行為が認められる場合がある」「横領行為は、他人の所有権に対して、法律上又は事実上の侵害を与えるものである必要がある」を判例で解説~
横領罪(37) ~横領罪における実行行為③「共犯者との間で処分行為が行われた場合にも両者共謀による横領罪が成立し得る」「共犯者との間での処分行為について、片方の共犯者を横領罪ではなく盗品譲受け等罪で処罰する場合がある」を判例で解説~
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