刑法(詐欺罪)

詐欺罪㉕ ~「手形・小切手に関する詐欺(有効でない小切手を使っての詐欺、手形の種類を偽っての詐欺)」を判例で解説~

手形・小切手に関する詐欺

 詐欺罪(刑法246条)について、手形小切手に関する詐欺の判例を紹介します。

有効でない小切手を使っての詐欺

大審院判決(大正15年10月13日)

 実在しない人名義の小切手を有効であるかのように装って店員に交付し、その旨誤信させることは、人を欺く行為に当たるとしました。

東京高裁判決(昭和28年6月23日)

 小切手不渡りとなることを知りながら、代金支払のために、不渡りとなる小切手を取引の相手方に交付することは、人を欺く行為に当たるとしました。

 裁判官は、

  • 被告人らが、不渡りになることを知悉していた小切手を、銅板代金の支払のため被害者に交付した以上、被害者は、その小切手が銀行において支払われるものと信ずるのは当然であるから、被告人らが、右小切手の不渡りとなるべきことを知りながら、これを代金支払のため、取引の相手方に交付するにおいては、被告人らが右小切手を銀行にて支払われるものと申し向けたことがないとしても、代金支払を受け得るものと誤信せしめた欺罔行為をしたものといわねばならない
  • 被告人は、詐欺既遂の刑責を免れることができないものであって、詐欺未遂犯に止まるものではない

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

名古屋高裁判決(昭和34年3月30日)

 金員詐取に用いた虚偽の支払保証の記載のある手形が、5000万円、500 万円という高額のものであり、たまたま欺かれた者が、手形に記載してある支払保証が虚偽であると見抜いたため未遂に終わったとしても、これを不能犯ということはできず、詐欺未遂罪が成立するとしました。

 被告人の弁護人は、

  • 本件偽造にかかる為替手形は、額面500万円又は5000万円という極めて高額のものであって、手形が虚偽のものであることは、何人も容易に看破できるものであるから、かかる為替手形を用い、金銭を詐取するごときは不能である
  • 従って、原判示の詐欺未遂の点は、いずれも不能犯と解すべきである

と主張しました。

 これに対し、裁判官は、

  • 為替手形の額面が高額であるからといって、これらの手形により割引方の依頼を受けた相手方において、これを真正に成立したものと誤信し、その割引に応する可能性ないし危険性が絶無であるということはできない
  • 現に、被害者Yに対しては、額面500万円の為替手形2通により金融の便を得てやると申し偽り、割引保証料として金8万円を騙取しているのであるから、たまたま、本件において、相手方が本件各為替手形になされた支払保証が虚偽であることを見抜いたため、被告人らにおいて、金員騙取の目的を遂げなかったとしても、これを不能犯というは当たらず、原判決が、詐欺未遂罪としてこれを処断したことは、まことに相当である

と判示しました。

手形の種類を偽っての詐欺

名古屋高裁判決(昭和34年7月13日)

 いわゆる融通手形の割引を受けるに当たって、その手形が商取引に基づく手形である旨の虚偽の証明書を作成して相手方に交付し、さらに、その証明書の内容を直接確かめに来た相手方に対し、同様の言質を与えて、相手方を誤信させ、手形の割引金名下に金員の交付を受けた行為について、詐欺罪の成立をみとめました。

 被告人の弁護人は、

  • 融通手形2通をあたかも商業手形のように装い、Lらを欺罔し、割引金名下に現金856,380円を詐取したものであるとの事実を認定し、被告人両名の右所為につき、詐欺罪の規定を適用したのは、事実誤認である
  • 元来、融通手形あるいは商業手形という語は法律用語でなく、近来、経済界において使用せられるところであるが、手形法上の効力については両者間に差異なく、いずれも振出人は所持人に対し手形金の支払義務があり、融通手形であることの一事によつて振出人は所持人に対しその支払の責を免れ得べきでない
  • 従って、融通手形を商業手形であるかのように装ったという一事のみによつては、金員詐取の意図を推認し得べきでない

と主張しました。

 これに対し、裁判官は、

  • 融通手形を割引くに際し、その相手方に対して、ことさらに右手形を真の商業手形であるように積極的な手段を講ずることは、明らかな欺罔行為であり、よって相手方をしてその旨誤信せしめ、割引名下に金員を交付せしめる行為は、詐欺罪を構成するものである
  • それゆえ、原判決が、被告人両名が共謀の上、判示融通手形2通について、K株式会社の代表取締役Lおよび専務取締役Mから割引を受けるに際し、商取引に基く手形である旨虚偽の証明書を作成して同人らにこれを交付し、さらに、直接、右証明書の内容を確めにきた両名に対し、同旨の言質を与え、よって、その旨誤信した両名をして、割引金名下に判示金員を交付せしめた事実を認定し、被告人両名に対し、詐欺罪の規定を適用処断したのは正当である

と判示しました。

東京高裁判決(昭和31年9月26日)

 この判例で、裁判官は、

  • 輸出業者が、輸出商品買付資金調達の円滑を図るため、融資を得ようとする銀行に直接振り出したいわゆる単名手形によって割引融資を受けるにあたり、添付を要求されている輸出商品買付済確認資料として内容架空な内国メーカーとの間の輪出商品売買約定書、代金仕切書及び代金領収書をあたかも真正のもののように装い、銀行員をその旨誤信させ、いわゆる貿易手形の割引融資として金員を交付せしめてこれを受領したときは、詐欺罪を構成する

旨判示しました。

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