刑法(詐欺罪)

詐欺罪㊱ ~「診療報酬、労災保険に関する詐欺」「医師と詐称して給料の支払を受けたことによる詐欺」を判例で解説~

 詐欺罪(刑法246条)について、診療報酬などに関する詐欺の判例を紹介します。

診療報酬に関する詐欺

名古屋高裁判決(昭和49年10月7日)

 医師でない者が医業をし、他の医師名義で保険医の登録をした上、国民健康保険団体連合会から診療報酬を取得した場合は、医師法違反の罪のほかに詐欺罪が成立するとしました。

 被告人の弁護人は、

  • 医師法第17条の法意は、医師でない者が反復継続して医療業務をなし、かつ、その報酬を請求し、これを受領する行為を一括包含して禁止したものであり、従って、診療報酬金の支払いを受けても、別個に詐欺罪は成立しない(※医師法違反の罪のみが成立し、別で詐欺罪は成立しない)

と主張しました。

 裁判官は、

  • 医師法第17条は、「医師でなければ医業をなしてはならない」と規定しているが、右にいわゆる「医業をなす」とは、反復継続の意思をもって、人の疾病を治療する目的で、医学の専門知識と基礎とする経験と技術とを用いて診断、処方、投薬、外科的手術等を行うことを指称すると解すべきところ、このような医業を法が資格を有する医師に限定している所以は、医学上の知識と技能を有しない者が、みだりに医行為を行うときは、生理上危険があるため、国民健康上の見地から、これを防止しようとするにあって、右医師法第17条自体は、医療行為に伴う報酬請求ないしはその受領まで予想して、これを禁止することをも包含するものではない
  • なるほど、非医師が医師を装い、反復継続の意思をもって、医行為をなす場合、報酬を請求し、これを受領することが多いといえるけれども、必ずしも報酬を得ることを目的とせず、名誉欲あるいは趣味等からする場合もあり、まして、健康保険団体連合会などに対し、その治療費の支払を請求するのが常態であるとはいうことができない
  • また、非医師が患者を診療し、実際に投薬等の実費を支出したからといって、診療報酬たる保険給付を当然の権利として請求することはできない
  • 蓋し、権利の行使というためには、取得した利益が不法なものでないというにとどまらず、その利益を取得すること自体が当然の権利に属する場合でなければならないからである
  • 従って、資格がないのに、他人名義で保険医の指定を受け、診療請求書を作成して保険金を受領したという事実関係の下では、独立して詐欺罪の成立を認むべきは当然である

と判示し、医師法違反と詐欺罪の両罪が成立するとしました。

医師と詐称して給料の支払を受けたことによる詐欺

東京高裁判決(昭和59年10月29日)

 医師であると詐称して病院に勤務し、診療行為に対する報酬として給料等の支払を受けた場合、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人に支払われた給料等は、被告人の提供した労務そのものに対する単なる対価ではなく、医師としての診療行為に対する報酬として支払われたものであって、その資格といわば不可分一体的に結びついているものであり、各病院の院長らにおいては、被告人に医師の資格がないことを認識しておったならば、被告人を雇うことはもとより、医師としての給料等を支払うこともなかったことは明らかである

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

労災保険に関する詐欺

東京高裁判決(昭和37年6月11日)

 労災保険障害補償費名下に金員を詐取しようと企て、病気の症状に関し、虚構、誇張の訴えをし、医師を誤信させて内容虚偽の身体障害等級認定に関する意見書を作成させ、これを提出して労災保険障害補償費を受領した場合、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 医師が被告人の自覚症状として理解したところが、被告人の主張に基づくものであることはもちろんのこと、他覚症状を把握するのについても被告人の応答するところ、ないしはその示す外観が重要な役割を果たすものであるところ、被告人は、身体障害の等級を自己に有利なように決定させて、より多額の障害補償費の支払を受けることを企て、医師の検査診断を受けた際、単に症状を誇張して訴えたという程度ではなく、当時、被告人自身としては、少なくとも、左下肢は普通人同様に歩行ができる程度に運動が可能であって、右足も自力運動が全く不可能というほどではないことは分かっていたのに、尿は失禁して臍部以下の知覚がなく、右下肢は麻痺してブラブラであり、右下肢は自力運動が不能であるなど虚構のことを訴えると共に、これに相応する外見を示して、医師をして真実右のような症状にあるものと誤信させた

と判示し、労災保険障害補償費を詐取したとして詐欺罪の成立を認めました。

福岡高裁判決(昭和61年2月13日)

 健康保険法上の被保険者となりえない者が、名目上の社員となり交付を受けた健康保険被保険者証を使用して療養給付を受けた行為について、詐欺罪を成立するとしました。

 裁判官は、

  • 健康保険法13条の「事業所に使用せらるる者」とは、当該事業所の事業主の人事管理下にあって、事業主のために労務を提供し、その対価として報酬の支払いを受けている者をいうものと解すべきであり、右のような人事管理下におかれることなく、自己の業務として、その事業所の依頼に基づき、委任あるいは請負等の形態で労務を提供する場合を含まないことは論ずるまでもない
  • 被告人は、暴力団の組長の立場において独立して活動していたものであって、M組(※建設工事の請負事業を営む会社)のために工事の仕事を探すことなど主たる活動をしていたものでは決してなく、被告人は、たまたまそのような仕事を見つけた場合に、これをM組に紹介したり、仲介したりすることがあったに過ぎないこと、そして、被告人はこれらの事情についての認識を十分に有していたのであって、その点に疑いを抱かせるような特段の事情もないこと…を認めることができる
  • そうすると、被告人は、そもそもM組に対し、その人事管理下にあって労務を提供するという関係になく、単なる名目上の社員に過ぎなかったことが明らかであるから、被告人が健康保険法13条の「事業所に使用せらるる者」に該当しないことは、論を俟たない
  • 被告人は、右のとおり、健康保険法上の被保険者になり得ず、その資格を取得できないことを知りながら、その情を秘し、あたかもその資格を有する者であるかのように装い、不正に入手した被告人名義の被保険者証を病院等の担当係員に対し呈示し、これらの者をして被告人が右被保険者資格を有するものと誤信させ、よって、担当医師らから療養給付を受けて、財産上の不法の利益を得たことが認められるのであるから、詐欺罪の成立に欠けるところはない

と判示しました。

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