法律(刑法)

詐欺罪(90) ~他罪との関係⑦「詐欺と恐喝の両行為が競合した場合の詐欺罪と恐喝罪の成立関係」「詐欺罪と恐喝罪が観念的競合になるとした判例」「詐欺罪は成立せず、恐喝罪のみが成立するとした判例」を解説~

 詐欺罪と恐喝罪との罪数関係について、判例を示して説明します。

詐欺と恐喝の両行為が競合した場合の詐欺罪と恐喝罪の成立関係

 詐欺と恐喝の両行為が競合した場合の詐欺罪と恐喝罪の成立関係について説明します。

 詐欺と恐喝の両手段を用いて財物を交付させた場合について、判例は、以下の①②の2つの態様を示しています。

  1. 詐欺と恐喝の両手段が併用され、詐欺による錯誤と、恐喝による畏怖とが原因となって財物が交付された場合には、詐欺と恐喝の観念的競合である
  2. 脅迫のために人を欺く手段が施されても、財物を交付するに至った相手方の決意が畏怖に基づくときは、恐喝罪のみが成立して詐欺罪は成立しない

 ①の判例の考え方に対する批判として、

詐欺罪と恐喝罪の本質的区別(詐欺罪では瑕疵ある意思に基づいて任意に交付し、恐喝罪では恐怖心に基づいて嫌々ながら交付する)に注目すれば、両者は択一関係に立つと解すべきである

との批判があります。

 ②の判例の考え方に対する批判として、

詐欺罪と恐喝罪の区別が、行為者の意思に関係ない被害者の心理的事実にかかることは不合理であり、特に犯罪が未遂に終わったときに、両罪のいずれが成立するのかが不明になるから、両手段併用の場合には、主としていずれの手段によったかによって構成すべき犯罪を区別すべきであるが、それは相手方の偶然の心理によって決すべきではなく、行為の客観的な性質によるべきである

という批判があります。

 学説では、これら批判は正当であり、結局、行為自体の性格が恐喝行為と見られるべきか、人を欺く行為と見られるべきかによって、詐欺罪が成立するのか、恐喝罪が成立するのかを区別すべきことになるとされます。

 そして、欺岡と恐喝とが一緒に用いられた場合に、詐欺罪・恐喝罪のいずれが成立するか、あるいは両罪の観念的競合となるかは、その行為自体について、行為は主観・客観の全体構造をもつものであるから、その主観・客観の両要素を考慮して決定すべきとされます。

 なので、例えば、最高裁判決(判昭24年2月8日)おいて、警察官を装い、窃盗犯人に対し「警察の者だが取調の必要があるから差し出せ」などと虚構の事実を申し向けて盗品の提出を求め、これに応じなければ直ちに警察署へ連行するかもしれないような態度を示して同人を畏怖させ、同人をして即時その場で盗品を交付させたという事案に関して、裁判官は、「被告人の施用した手段の中に虚偽の部分、すなわち警察官と称した部分があっても、その部分も相手方に畏怖の念を生ぜしめる一材料となり、その畏怖の結果として相手方が財物を交付するに至った場合は、詐欺罪ではなく恐喝罪となる」と判示していますが、この判示は正当である評価されています。

判例の具体的内容

 詐欺と恐喝の両行為が競合した場合の詐欺罪と恐喝罪の成立関係について判示した判例を紹介します。

①の「詐欺と恐喝の両手段が併用され、詐欺による錯誤と、恐喝による畏怖とが原因となって財物が交付された場合には、詐欺と恐喝の観念的競合である」の立場を採った判例

大審院判決(昭和5年5月17日)

 この判例で、裁判官は、

  • 詐欺及び恐喝の両手段を併用して財物を交付せしめたるときは、詐欺及び恐喝の2罪名に触れる1個の行為として処断すべきものとす

と判示し、詐欺罪と恐喝罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合の関係になるとしました。

大阪高裁判決(昭和24年11月18日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人は、被害者に対し、息子を警察から帰らせてもらうため金を使ったと虚偽の事実を申し向け、かつ、拳を相手の鼻先に突きつけ、殴らんばかりの気勢を示して脅迫したが、相手方が応じなかったため、未遂に終わったというのである
  • 詐欺罪成立要件としての詐欺行為は、虚偽の事実を告知すれば足り、また恐喝成立要件としての恐喝行為は、言語によると文書によると動作によるとを問わず、害悪の通知が相手方に畏怖の念を生ぜしむべき程度のものであれば足り、相手方が現実に誤信せず、又は畏怖しなかったときは未遂罪が成立するのあるから、原判決が、その確定した事実を詐欺未遂罪及び恐喝未遂罪の想像的併合罪(※観念的競合罪のこと)として処断したのは正当である
  • 恐喝行為の内容として害悪の通知が虚偽にして、しかも、相手方を畏怖せしむるに足るときは、単に恐喝罪が成立するに過ぎないけれども、本件は、欺罔手段と恐喝手段とを併用し、錯誤と畏怖により金員を交付せしめんとしたのであるから、二罪の想像的併合罪(※観念的競合罪)にあたるものである

と判示しました。

②の「脅迫のために人を欺く手段が施されても、財物を交付するに至った相手方の決意が畏怖に基づくときは、恐喝罪のみが成立して詐欺罪は成立しない」の立場を採った判例

大審院判決(昭和9年6月25日)

 この判例で、裁判官は、

  • 人を恐喝する目的をもって、高圧電線の下に土地を借り受け、その上に工場建設の基礎工事をなし、真実、工場を建設するものの如く偽装し、他日これを竣工せしめて電線路の変更、その他危険防止の設備を要求すべきことを暗示して、相手方を畏怖せしめ、金員を交付せしめたる行為は、権利の濫用にして、恐喝罪を構成し、詐欺罪の成立はこれを認むべきものにあらず

と判示し、詐欺罪は成立せず、恐喝罪のみが成立するとしました。

最高裁判決(判昭24年2月8日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人は、相被告人Aに対し、Aが窃取した綿糸の買入を世話すると称し、Aが綿糸を運搬して来るところを、被告人が刑事だと脅かしてそれを取上げることに手筈をきめ、Aが綿糸を家人に運搬させて来るや、被告人は警察官を装うて、Aに対し「警察の者だがこの綿糸はどこから持ってきたか」と尋ね、Aが「火薬から持ち出した」と答えると、その氏名年令職業等を問い、これを紙に書留める風をした上「取調べの必要があるから差出せ」と言ひ、もしこれに応じなければ、直ちに警察署へ連行するかも知れないような態度を示してAを畏怖させ、よってAをして即時その場で綿糸を交付させたというのであって、右の如く被告人がAに対し、その申入れに応しなければ、直ちに警察署へ連行するかも知れないような態度を示し、Aがこれにより畏怖の念を生じたために綿糸を交付するに至ったものである以上、恐喝罪をもって問擬(もんぎ)すべきである
  • 被告人の施用した手段の中に虚偽の部分即ち警察官と称した部分があっても、その部分も相手方に畏怖の念を生ぜしめる一材料となり、その畏怖の結果として相手方が財物を交付するに至った場合は、詐欺罪ではなく恐喝罪となるのである
  • 本件において、被害者Aの持っていた綿糸は盗品であるから、Aがそれについて正当な権利を有しないことは明かである
  • しかし、正当の権利を有しない者の所持であっても、その所持は、所持として法律上の保護を受けるのであって、例えば、窃取した物だからそれを強取しても処罰に値しないとはいえないのである
  • 恐喝罪についても同様であつて、贓物を所持する者に対し恐喝の手段を用いてその贓物を交付させた場合には矢張り恐喝罪となるのである
  • 従って、原判決が本件を恐喝罪として問擬したのは正当である

と判示し、詐欺罪は成立せず、恐喝罪のみが成立するとしました。

福岡高裁判決(昭和27年6月28日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人は、Bと共謀の上、被害者Cに対し、Cが石炭の盗掘をしているのを奇貨とし、Cから金銭を喝取しようと企て、盗掘の現場で、被告人において、「刑事が来とる、このことはうまく話をつけるから、一杯飲むだけのことをしてやれ、これが表向きになれば掘った石炭の量の4倍の罰金を出さねばならん、それより来ている刑事に一杯飲ませれば、その刑事がうまく内証にしてくれる」旨、またBにおいても「刑事が現場だけみるというて今日来ている。自分らも4万円使ったからあなたも刑事に一杯飲ませれば内々で済む」旨相互に申し向け、もしこれに応じなければ刑事事件とされる旨暗示したため、Cをして畏怖の念を生ぜしめ、その畏怖の結果、同人をして金銭を交付させたというのであるから、たとえ被告人がCを畏怖させる方法として施用した手段のうちに虚偽の事実を申し向けたとしても、その事実が、Cに畏怖の念を生じさせた一資料となり、その結果、金銭を交付させるに至ったもので、その被告人の所為が恐喝罪を構成することを言うをまたない

と判示し、詐欺罪は成立せず、恐喝罪のみが成立するとしました。

広島高裁判決(昭和29年8月9日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人は、AからAの母の病気につき祈祷の依頼を受けたのを奇貨とし、Aに対し「あんたのお母さんには外道がついている、その外道を神様に頼んでとつてあげる、そのかわり金10万円出せ、出さぬとお前の母の生命が危い」とか「5万円ではこらえられんからもう5万円程持って来い、惜しいのなら持って来んでもよいが、そのかわり命はないぞ」とか「先日出した10万円の金は出ししぶったので外道の神が怒って家族全部を殺すとのお告げであった、それを静めるには4万円持って来て祈祷せよ」とか言辞を次々と申し向けてAらを畏怖させた上、11回にわたり、合計金32万7000円を交付せしめてこれを喝取した事実を認めるに十分である
  • 更に所論(※弁護人の主張)は、本件は詐欺であって恐喝ではないと主張し、前記恐喝行為において告知された害悪の内容が虚偽のものであることは推測するに難くないところであるけれども、被害者が右金員を交付するに至ったのは、畏怖の念に基いたものであることは前記被害者の供述等によって明らかであるところ、恐喝行為において告知された害悪の内容が虚偽のものを含んでいるとしても、それが相手方を畏怖させるに走り、かつ相手方の財物交付が畏怖に基いた場合においては恐喝罪をもって論ずべく、詐欺罪をもって論ずべきものではない

と判示し、詐欺罪は成立せず、恐喝罪のみが成立するとしました。

東京高裁判決(昭和38年6月6日)

 この判例で、裁判官は、

  • 欺罔が恐喝そのものの手段である場合においては、たとえ相手方がその虚偽の事実に欺かれたため、畏怖心を生じた場合でも、恐喝罪を構成し、詐欺罪は成立しないと解すべき

と判示しました。