刑法(詐欺罪)

詐欺罪㊺ ~「詐欺罪における錯誤とは?(財産的処分行為をするように動機づけられるもの)」「詐欺被害者に錯誤に陥ったことについて落ち度があっても、詐欺罪は成立する」を判例で解説~

詐欺罪における錯誤とは?

 詐欺罪(刑法249条)における「錯誤(さくご)」について説明します。

 詐欺罪における錯誤とは、平たく言うと、詐欺犯にだまされている状態をいいます。

 詐欺罪における錯誤は、詐欺犯が行う人を欺く行為によって生じさせられるものです。

 錯誤の内容は、

財産的処分行為をするように動機づけられるものであれば足りる

とされます。

 たとえば、詐欺犯が、詐欺被害者に対し、「あなたの息子が会社の金を持ち逃げしたから、それをもみ消すため、今すぐ100万円を指定の口座に振り込んでください」などと言って、被害者をだまし、被害者に100万円を振り込むことを動機づけた場合、それは詐欺罪における錯誤を生じさせた状態と認められます。

 錯誤の内容は、財産的処分行為をするように動機づけられるものであれば足りるので、錯誤が、法律行為の要素に関する錯誤であると、縁由(動機)の錯誤であるとを問わないとするのが判例の立場です。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正12年11月2日)

 賃借名義で金銭を詐取した事案で、裁判官は、

  • 賃借の名義により、金銭を騙取する詐欺罪は、領得の意思をもって欺罔手段を施用し、他人を錯誤に陥れ、金銭の占有を自己に移転せしむるにより成立し、借用金を返済する意思の有無及び錯誤が法律行為の要素に存するや、まさにその縁由(動機)に存するやは、これを問わざるものとす

と判示し、錯誤が法律行為の要素にあるか、法律行為の動機にあるかは、詐欺罪の成否を決するにあたり、問わないと判示しました。

詐欺被害者に錯誤に陥ったことについて落ち度があっても、詐欺罪は成立する

 相手方が、錯誤に陥った原因は、行為者の人を欺く行為にあるのが一般であるが、人を欺く行為とともに、相手方自身による自己判断の過誤が一因をなした場合でも差し支えないとされます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正14年4月7日)

 被害者が相場表を見誤った事案で、裁判官は、

  • 詐欺罪の成立には、必ずしも犯人の欺罔(人を欺く)手段のみによりて被害者を錯誤に陥ることを要せず、被害者のなせし自己判断の過誤が、その錯誤の一原因をなすも、詐欺罪の成立を阻却せざるものとす

と判示しました。

大審院判決(大正13年6月24日)

 この判例で、裁判官は、

  • 模造の大判、小判を売買するに当たり、真物であると信じさせるような詐言を用い、相手方を錯誤に陥れる原因を作った以上、相手方が自分の鑑識を過信し、判断を誤ったとしても、詐欺罪の成立を妨げない

と判示しました。

東京高裁判決(昭和29年6月15日)

 バナナの無為替輸入許可書を詐取した事案で、通産省係員に手落ちがあった場合について、相手方を欺き、錯誤に陥れた以上、相手方に不注意、無知、無思慮、無経験のような事情があったとしても、人を欺く行為というに妨げないとして、詐欺罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • おもうに、詐欺罪は、人を欺罔して財物を騙取することによって成立する
  • 欺罔するということは、相手方に客観的事実と一致しない意思を生ぜしめること、すなわち、相手方をして錯誤に陥らしめることである
  • ところで、この錯誤という結果は、相手方における、通常人として避けることのできない不注意、無知、無思慮、無経験というような事情の存在の介入することによって惹起されるのが一般である
  • それで、行為者が相手方を欺罔しようとする意思をもって、その意思を実現しようとする行為をした結果として、相手方を錯誤に陥らしめた以上、たとえ、相手方に右にいうような事情の存在するものがあったとしても、行為者の行為は詐欺罪成立のための要件として欺罔行為というに妨げないのである
  • 通商産業省の係員に手落ちがあったからといって、被告人らの欺罔行為の成否を否定するわけにはいかない
  • 被告人らは、虚偽の内容を記載した申請書を提出し、そうして、その申請どおりの許可書を交付させたのであるから、その所為たるや、まさに、人を欺罔して財物を騙取した場合に該当するものといわなくてはならないのであって詐欺罪の成立を否定すべきいわれのあるはずはない

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和30年7月20日)

 商品の売買につき、被害者に商品の価値判断を誤り、又は被告人の真意を誤信したことについて過失があったとしても、錯誤が被告人の人を欺く行為によって誘発された以上、詐欺罪の成立に影響はないとしました。

 裁判官は、

  • 民事上いわゆる過失相殺の観念は、これを刑事上の責任につき適用すべき限りではないから、仮りに本件事案の経過において、被害者側に本件商品の価値判断を誤り又は被告人の真意を誤信するにつき過失の認むべきものがあつたとしても、錯誤が被告人らの欺罔行為によつて誘発されたものである以上、被告人らの詐欺の罪責には、何らの消長をも来さない

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

大審院判決(昭和10年3月23日)

 疾病にかかっていることを秘し、保険会社係員を欺いて健康体と誤信させて保険契約を締結させた上、保険金の交付を受けた場合は、保険者がその事実を知らなかったことについて過失があって、保険契約の解除ができなくなる場合でも、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被保険者の現にかかられる疾病を告知するときは、保険業者は保険契約を締結せざるべき場合において、殊更にこれを秘し、健康者なる如く装い、契約を締結せしめ、被保険者の死亡により保険金を受け取りたるときは、会社が商法第429条第1項但書の規定により、保険契約を解除することを得ると否とにかかわらず、詐欺罪は成立するものとす

と判示しました。

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