法律(刑法)

詐欺罪(61) ~財産上の損害③「詐欺被害者が民事上保護されても、詐欺罪は成立する」を判例で解説~

 前回記事の続きです。

詐欺被害者が民事上保護されても、詐欺罪は成立する

 詐欺被害者が民事上保護されても、詐欺罪の成立に影響はありません。

 例えば、財物交付の原因となった法律行為に、要素の錯誤(重要な事項についての錯誤)があり、契約が取り消されたため(民法95条)、民法上、欺かれた者の財産上の権利に変動が生じない場合でも、詐欺罪の成立に影響を及ぼしません。

 この種の判例として、以下の判例があります。

大審院判決(大正12年11月21日)

 人を欺く手段を講じて相手方から金員詐取すれば、人を欺いた者が反対債務を負担し、相手方の全体財産に計算上変動がない場合でも、詐欺罪は成立するとしました。

 裁判官は、

  • 既に人を欺罔して、財産を騙取したる以上は、これに財産権侵害の事実あること明白にして、更にこのほかの計算関係において、損害の存することを要するものにあらず

と判示し、民事上の損害がなくても詐欺罪は成立するとしました。

大審院判決(昭和2年12月9日)

 他人の氏名を冒用し、連帯借用名義のもとに金員の交付を受けた場合、被害者との間に債務は有効に成立し、また後日金員を返済したとしても、詐欺罪は成立するとしました。

大審院判決(昭和13年2月8日)

 債務者が、連帯債務者又は連帯保証人との間の協定を超える金額を記入した借用証書を提出して相手方を欺き、金員の交付を受けた場合には、消費貸借は完全に成立したとしても、詐欺罪は成立するとしました。

大審院判決(昭和3年11月8日)

 偽造文書を行使して約束手形の割引を受けるに当たり、連帯振出人となり、法律上支払義務を負担したとしても、詐欺罪は成立するとしました。

大審院判決(大正7年5月29日)

 被害者が、被告人の詐言により、月掛定期預金の申込みをして、一定期間、掛金を払えば貯金銀行から申込金額の貸付を受けられるものと誤信し、第1回預金として被告人に金員を交付した場合、被告人の行為は詐欺罪を構成し、たとえ被害者がその銀行に対して預金者としての権利を取得したとしても、詐欺罪の成立を妨げないとしました。

 裁判官は、

  • 被害者が被告の詐言により、月掛定期預金の申込をなし、1か月もしくは2か月の掛金をなさば、貯金銀行より申込金額の貸付を受け得るものと誤信したるため、被告に金員を交付したるものなるときは、被告の所為は詐欺罪を構成すべく、たとえ被疑者において右銀行に対し、預金者たる権利を取得するも、これがため本罪の成立を妨げるものにあらず

と判示しました。

大審院判決(昭和8年3月8日)

 受信銀行が、銀行為替係の作成した偽造の為替報告書を真正に成立したものと誤信して、金員を支払った場合は、送信銀行に対し、貸方勘定の権利を取得したとしても、詐欺罪は成立するとしました。

 裁判官は、

  • 両銀行間において、為替取組の契約が締結せられたる場合に、一方の銀行の為替係が為替資金の受け入れなきにかかわらず、為替報告書を偽造変造して、これを他方の銀行に発送し、その係員を欺き、金員の支払を受けたるときは、両銀行間の決裁関係如何をとわず、詐欺罪を構成するものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和8年10月13日)

 上記判例と同種事案で、偽造の為替報告書を銀行に送付して、銀行に金員を支払わせた行為について、裁判官は、

  • 銀行における為替報告書作成権限ある者が、自己のため、他人より株式を買い入れるるに当たり、代金の入金をなさざるにかかわらず、入金ありたるものの如く虚偽の為替報告書を作成し、これを売主の取引銀行に発送し、同銀行をして真実入金ありしものと誤信せしめ、売主をして同銀行より代金の支払を受けしめたるときは、詐欺罪成立し、後日、取引銀行が為替報告書発送銀行に対し、賠償を求め得るや否は、詐欺罪の成立に消長なし

と判示しました。

大審院判決(昭和10年10月7日)

 金銭支払の意思がないのに手形を振り出し、又は裏書をし、これにより財物を詐取する場合は、振出人が手形の文言に従い責任を負うべきものとしても、詐欺罪を構成するとしました。

大審院判決(昭和10年3月23日)

 被保険者が疾病にかかっていることを秘密にし、保険会社係員を欺いて健康体と誤信させて保険契約を締結させた上、その後、被保険者がその疾病で死亡し保険金を受け取った場合は、保険会社に疾病の事実を知らなかったことについて過失があるなどで、その契約を解除しうるかどうかにかかわらず、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被保険者の現にかかられる疾病を告知するときは、保険業者は保険契約を締結せざるべき場合において、殊更にこれを秘し、健康者なる如く装い、契約を締結せしめ、被保険者の死亡により保険金を受け取りたるときは、会社が商法第429条第1項但書の規定により、保険契約を解除することを得ると否とにかかわらず、詐欺罪は成立するものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和8年4月11日)

 代理人が代理権を濫用し、人を欺いて財物を詐取した場合、たとえ本人が代理人のした行為について民事上の責任を負うときでも、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 代理人が代理権を乱用し、登記官吏に対して、虚偽の申立てをなし、登記簿の原本に不実の記載をなさしめて、これを行使し、よってもって他人を欺罔し、財物を騙取したるときは、本人がこれにつき、民事上、責に任すべきといえども、公正証書原本不実記載罪及びその行使並びに詐欺罪の成立を妨げるものにあらず

と判示しました。

大審院判決(昭和10年9月12日)

 上記判例と同じく、代理人が代理権を濫用し、人を欺いて財物を詐取した場合、たとえ本人が代理人のした行為について民事上の責任を負うときでも、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 民法第100条により、代理人の越権行為につき、本人が責任を負うべき場合においても、代理人の越権行為による詐欺罪の成立を妨げざるものとす

と判示しました。

最高裁決定(昭和36年12月20日)

 上記判例と同じく、裁判官は、

  • 代理人が権限外の行為をなすにつき、人をしてその権限があると誤信させて財物を騙取したときは、たとえ本人が代理人のなした行為について民法上の責に任ずべき場合であっても、詐欺罪の成立を妨げるものではない

と判示しました。

大審院判決(昭和2年12月9日)

 人を欺く行為により他人の財産上の法益を侵害した以上、たとえ、後日、犯人が現実に生ぜしめた損害を回復し、又は回復しうる望みがあったとしても、詐欺罪の成立を妨げないとしました。

大審院判決(昭和6年4月9日)

 詐欺の方法により株式の申込み又は引受けをさせ、証拠金及び株金払込名義で金員を詐取した場合は、その後、創立総会を開き設立登記をしたとしても、詐欺罪の成立を妨げないとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、詐欺の方法により、株式の申込み並びにその引受けをなさしめ、その証拠金並びに株金振込名義の下に金員を騙取したるものなれば、その後、創立総会を開き、次いで、その設立登記をなしたればとて、一旦成立せる詐欺罪に消長を来さざると解す

と判示しました。

次回記事に続く

 次回記事で続きを書きます。