法律(刑法)

詐欺罪㊽ ~「財産的処分行為の要件(財産を処分する意思+事実)」「財産を処分する意思とは、処分行為の意味を了解していることである」「財産的処分行為は、民法上無効であっても、詐欺罪の成否に関係しない」を判例で解説~

財産的処分行為の要件(財産を処分する意思+事実)

 財産的処分行為には、

  • 主観的要件として、財産を処分する意思
  • 客観的要件として、財産を処分する事実

が必要になります。

 なので、財産を処分する意思を全く欠如する幼者や高度の精神病者などには、財産的処分行為は認められないので、これらの者を欺いて財物を奪う行為は、詐欺罪ではなく、窃盗罪を構成するか、準詐欺罪を構成すると解されます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(明治43年5月13日)

  • 他人が酪酊して心神喪失の状況にあるのを利用して、その印を盗用して文書を偽造し、登記官吏をして不動産登記簿に不実の記載をさせるなどしても、人を欺く行為により財物を詐取したとはいえない

として詐欺罪の成立を否定しました。

財産を処分する意思があると認めるには、処分行為の意味を了解していることが必要

 財産を処分する意思があるというためには、

処分行為者自身が、その処分行為の意味を了解していることが必要

です。

 なので、相手方を欺いて、

文書の記載内容が別のものであると誤認

させた上、これに署名捺印して交付させた場合には、文書偽造罪は成立しますが、詐欺罪は成立しません。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(明治44年9月14日)

 被害者が文盲なのに乗じて、契約証書の内容が被害者名義の家屋を被告人らと共有する趣旨なのに、この家屋を売却して約束の金を被害者に支払う旨の契約書と偽って、契約証書に署名捺印させた事案に関して、文書偽造罪のみの成立を認めました。

 裁判官は、

  • 本件において、被告らの行為を証書騙取(詐取)罪に問わんとするの、証書の作成名義人が証書の内容を了知したるも、被告人の施したる詐欺手段により錯誤に陥りたる結果、これに署名捺印して、これを交付したる事実なかるべからず

と判示し、詐欺罪は成立せず、文書偽造罪のみが成立するとしました。

 なお、相手方を欺いて、

文書の内容が真実であると誤信

させた上、その文書を作成する意思で署名捺印して交付させたときは、文書に対する詐欺罪を構成することになります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和2年3月26日)

 この判例で、裁判官は、

  • 金銭の授受完了に先じ作成したる借用証書を授受ありたるものの如く偽り、これを利用して不正の利得をなさんがため、他人をして保証人としてその証書に書面捺印して交付せしめたるときは、証書騙取による詐欺罪を構成す
  • 詐欺罪は、人を欺罔して騙取するによりて成立するものにして、いやしくもこれの要件の具備する以上は、その詐欺により被害者のなしたる意思表示が法律行為の要素に錯誤ありたるため無効に帰すると、将た被害者において、その意思表示を取り消すまで有効なる法律行為の成立したるとにより、本罪の成立に異なりたる影響を及ぼすものにあらず
  • 既に人を欺罔して財産を騙取したる以上は、これに財産権侵害の事実あること明白にして、更にこれ以外の計算関係において損害の存することを要するものにあらず
  • 被告人は、代金支払の資力なきにかかわらず、これある如く装いて欺罔し、名を売買に託して不動産を騙取したるものなれば、その行為が詐欺罪を構成するはもちろんなりとす

と判示し、相手方を欺いて、文書の内容が真実であると誤信させた上、文書を作成する意思で署名捺印して交付させたときは、文書に対する詐欺罪が成立するとしました。

処分(交付)意思の内容

 交付の対象となる物自体に錯誤がない場合、

物・財産上の利益を「移転する」認識

が被欺罔者に必要です。

 「占有移転」の認識ではなく、「占有の弛緩」の認識があるだけでは足りません。

移転する物・利益の存在自体に錯誤がある場合

 移転する物・利益の価値に錯誤がある場合に、詐欺罪の成立を肯定しうるとしても、移転する物・利益の存在自体に錯誤がある場合はどうなるでしょうか?

 たとえば、Aが、Bの本に1万円札がはさまっていることに気づきながら、その本をBから100円で買い受けた場合、1万円について詐欺罪と窃盗罪のいずれが成立するかという問題があります。

 この点を示している判例はないようですが、学説の見解は以下のとおりです。

 処分行為があるというためには、ある特定の物・利益を相手方に移転させるという認識まで必要とする見解(意識的処分行為説)と、それを不要とする見解(無意識的処分行為説)が対立しています。

 意識的処分行為説も有力ですが、財物や財産上の利益の占有が被欺罔者の意思に基づいて相手方に移転したといえれば詐欺罪を肯定してよいと思われること、相手方に、移転する客体を認識させないという最も典型的な類型を詐欺罪から除外するのは妥当でないことを理由として、詐欺罪の処分行為は無意識なもので足りると解すべきであるとする無意識的処分行為説の見解も主張されています。

財産的処分行為は、民法上無効であっても、詐欺罪の成否に関係しない

 財産的処分行為は、民法上無効であっても、取り消しうるものであっても、こうした民事上の効果は、詐欺罪の成否に関係がありません。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正12年11月21日)

 この判例で、裁判官は、

  • 詐欺による意思表示が無効なると、取消し得べきものなるとは、詐欺罪の成立に異なりたる影響を及ぼすものにあらず

と判示しました。