刑法(詐欺罪)

詐欺罪㊿ ~「詐欺犯人以外の第三者が財物の交付を受けた場合でも詐欺罪は成立する。その第三者の要件」「詐欺による利益が誰に帰属したかは詐欺罪の成否に影響しない」を判例で解説~

詐欺犯人以外の第三者が財物の交付を受けた場合でも詐欺罪は成立する

 詐欺被害者が、人を欺く行為を行った者(詐欺犯人)以外の第三者に財物を交付した場合にも詐欺罪が成立するかどうかは、刑法246条1項に、2項のような「他人にこれを得させた」場合にも詐欺罪の成立を認める趣旨の明文を欠いているので、学説上争いはありますが、判例は、第三者に財物を交付させる場合も、詐欺罪が成立するとしています。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和26年12月14日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法246条1項に定むる財物の騙取とは、犯人の施用した欺罔手段により、他人を錯誤に陥れ、財物を犯人自身又はその代人若くは第三者に交付せしむるか、あるいはこれらの者の自由支配内に置かしむることをいうのである(論旨引用の大正12年(れ)1272号同年11月20日大審院判決大審院判例集2巻816頁)
  • 原判決もまた本件について「被告人Aが判示Cに虚言を弄し、同人をしてその旨誤信させた結果、同人をして任意に判示の現金を同被告人の事実上自由に支配させることができる状態に置かせた上で、これを自己の占有内に収めた事実であるから、刑法246条1項に当たる」と判断しているのであって、大審院判決と相反する判断を示めしたものではない

と判示し、第三者に財物を交付させる場合も、詐欺罪が成立するとしました。

福岡高裁判決(昭和47年3月27日)

 被告人Kと被告人Tは共謀の上、被告人Kにおいて、N生命保険会社において、N生命保険会社の担当者に対し、Yを被保険者、被告人Kを契約者、B(Yの遺族)を保険受取人とする保険金合計400万円の生命保険契約に関し、Yを殺害した事情を秘し、Yが誤って溺死したように装って、B名義で保険金請求手続をして、保険金400万円をだまし取ろうとしたが、N生命保険会社が死因に不審を抱き、保険金の支払に応じなかった詐欺未遂の事案です。

 一審判決では、被告人には自ら金員領得の意思があったとするのは疑問であり、Yの遺族に不当の利益を得させるということもありえないとして、詐欺未遂罪は成立しないとして、無罪を言い渡しました。

 この一審判決に対し、検察官は、被告人らは、第三者たる山田の遺族をして財物の交付を受けさせ、不法にこれを領得させる意思があったと認められるから、一審判決の認定は事実誤認であるとして、判決の是正を求めて控訴しました。

 この検察官の主張に対し、高等裁判所の裁判官は、

  • 被告人Kは、保険金請求手続をした際、同被告人(ひいては被告人T)に、保険金の一部はYの遺族にやるつもりであったとしても、自ら保険金の交付を受け、これを領得する意思がなかったとはいえない
  • のみならず、保険契約者が被保険者を殺害した場合には、保険者は保険金支払いの責めを負わないから、Yの遺族に保険金金額を受け取らせるつもりであったとしても、保険契約者たる被告人Kが、Yを殺害した事情を秘し、事故死したものとしてなした保険金請求は違法であるから、Yの遺族に保険金を受領させることは、不法に領得させることであり、被告人Kに不法領得の意思がなかったとはいえない
  • そうすると、N生命に対する生命保険金詐欺未遂の点につき、被告人らに不法領得の意思が認めらないとして無罪を言い渡した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明白は事実の誤認があり、原判決はこの点において破棄を免れない

と判示し、第三者に財物を交付させる場合も、詐欺罪が成立するとしました。

詐欺罪の成立を認める第三者の要件

 財物の交付を受けた犯人以外の第三者とは、例えば、

  • 人を欺く行為を行った者の道具として、情を知らずに行動し、財物の交付を受けた者
  • 人を欺く行為を行った者の代理人として、その利益のために財物を受領した者
  • 人を欺く行為を行った者の利益を図って、その者に財物を取得させる目的を有する者

など、人を欺く行為を行った者との間に、特別の事情が存在する者であることを要します。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正5年9月28日)

 この判例で、裁判官は、

  • 欺罔手段により、犯人自ら財物を取得せずして、これを第三者に交付せしめたる場合において、刑法第246条第1項の詐欺罪が成立するは、その第三者が情を知らずして犯人の機械たるに過ぎざるか、もしくは犯人の代理者として、その利益のために犯罪の物体たる財物を受領するか否らざれば、犯人が第三者をして財物の交付によりて利得せしむる目的に出でたる如き特殊の事情存せざるべからず
  • 単に、詐欺手段によりて他人をして上叙の如き特殊の関係を有せざる第三者に財物を交付せしむるも、詐欺罪を構成すべきにあらず

と判示しました。

大審院決定(大正14年2月4日)

 この判例は、人を欺く行為を行った者と全く無関係な第三者に財物を交付させたのでは、詐欺罪は成立しないとしました。

 裁判官は、

  • 甲者財物を騙取せんと欲し、乙者を欺罔して、丙者に交付せしめたることを判示するも、丙者が甲者のため受領したるや否やを知るに由なき判決は、刑法第246条第1項の詐欺に関する犯罪事実の判示として、その理由に不備あるものとす
  • 刑法246条1項の詐欺罪成立するがためには、現に財物の交付を受ける者は欺罔者なることを要せず、第三者をしてこれを取得せしむることによりてもまた成立し得べきといえども、第三者が犯人の機械として財物を受領したるか、また犯人が第三者をして利得せしむる目的をもってこれを領得せしめたる場合にあらざれば、右詐欺罪の既遂をもって論ずるころを得ず

と判示し、人を欺く行為を行った者と全く無関係な第三者に財物を交付させたのでは、詐欺罪は成立しないとしました。

大審院判決(大正5年9月28日)

 この判例で、裁判官は、

  • 詐欺手段により犯人自ら財物を取得せずして、これを第三者に交付せしめたる場合において、刑法246条1項の詐欺罪成立するには、その第三者が情を知らずして犯人の機械たるに過ぎざるか、もしくは犯人の代理者としてその利益のために犯罪の物体たる財物を受領するが否らされば、犯人が第三者をして、財物をの交付によりて利得せしむる目的に出でたる如き特殊の事情在らざるべからず
  • 単に、詐欺手段によりて、他人をして上叙の如き特殊の関係を有せざる第三者に財物を交付せしむるも、詐欺罪を構成すべきにあらず
  • 被告人らの詐欺手段によりAをして約束手形を振り出させしめ、これを第三者たるYに交付せしめたるは、ただその目的が売買代金調達のためなることを認め得るに過ぎず、その交付はいかなる特殊の事情により、いかなる手段において行われたるものなるやの判示なきをもって、Yは果たして被告の代理人とし、もしくは情を知らざる被告の機械とし、又はYの利益のために交付せしめられたるものなるを確認するに由なし
  • 従って、上叙判示事実のみによりては、未だ詐欺罪の要件たる騙取の事実を認るに足らざれば、詐欺罪の判示としては理由不備の違法あるを免れず

と判示し、人を欺く行為を行った者と全く無関係な第三者に財物を交付させたのでは、詐欺罪は成立しないとしました。

大審院判決(昭和8年6月26日)

 県の土木工事事務所長代理が、工事の完成を急ぐあまり、正規の手続を経ないで、第三者である私人から金を借りたが、その借入金の返済に窮して、架空工事の関係書類を作成して県の会計担当者に提出し、工事代金支払名下に貸主である第三者に金員の交付を受けさせた事案で、裁判官は、

  • 欺罔手段により、犯人自ら財物を取得せず、これを第三者に交付せしめたる場合においても、犯人が第三者をして該財物の交付を受け、不法にこれを領得せしむる目的に出でたるときは、刑法第246条第1項所定の詐欺罪成立するものとす

と判示し、第三者に財物を交付させた場合でも詐欺罪が成立するとしました。

福岡高裁判決(昭和60年9月24日)

 被告人が、信販会社から自動車購入代金の立替払金名下金員を詐取しようと企て、自動車購入の意思も、信販会社に対する割賦金支払の意思もないのに、信販会社従業員を欺いて「オートローン」と呼ばれる自動車購入代金についてのクレジット契約(自動車購入者が自動車販売業者から自動車を購入する際、その代金を信販会社が一括して自動車販売業者に立替払いし、自動車購入者が信販会社に対してその立替金を割賦返済することを内容とする契約)を締結させ、信販会社をして同契約そこ基づく立替払金を自動車販売業者の銀行口座に振込送金させた上、自動車販売業者をして、その振込金の払戻しをさせてその交付を受けたという事案です。

 一審判決は詐欺罪を構成するとしました。

 しかし、二審判決(福岡高裁判決)では、上記事実の摘示だけでは詐欺罪の特別構成要件を充足しているとは言い難しとし、一審判決は理由不備の違法があるとして一審判決を破棄し、詐欺罪の成立を認めませんでした。

 二審の裁判官は、上記事実関係において、詐欺罪の特別構成要件を充足するためには、

  • (イ)自動車販売業者が被告人と共犯関係にあること
  • (ロ)自動車販売業者が被告人による金員詐取の道具に過ぎず、信販会社から自動車販売業者に交付させた金員が当然に被告人に渡るという特別な関係があること
  • (ハ)被告人が当初より自動車販売業者に金員を領得せしめる意思を有していたこと(右(イ)ないし(ハ)の場合には、信販会社をして、右「オートローン」等契約にもとづく立替金を自動車販売業者の当座預金口座に振込送金させた時点で、振込送金にかかる金員につき詐欺罪が成立する)
  • (ニ)自動車販売業者をして、右振込金の一部または全部の払戻しをさせてその金員の交付を受けたことが、被告人の自動車販売業者に対する別個の欺罔行為(人を欺く行為)にもとづくものであること(この場合には、右金員の交付を受けた時点で、その金員につき詐欺罪が成立する)

これらいずれかの事実が必要である旨判示しました。

大阪高裁判決(平成12年8月24日)

 欺罔行為者と財物の交付を受ける者が異なる場合、詐欺罪が成立するには、

  • 欺罔行為者において第三者に利得させる目的がある
  • 第三者が共犯である
  • 第三者が情を知らない道具で交付を受けた財物が当然に被告人に渡る

など、欺罔行為者と第三者との間に特別な関係が存在し、その関係を犯罪事実中で摘示することが必要であると判示しました。

 この判例では、詐欺罪において欺罔行為者と財物の交付を受ける者とが異なる場合に、両者の関係を罪となるべき事実に摘示しないまま詐欺罪の成立を認めた原判決に、理由不備の違法があると指摘しています。

 裁判官は、

  • 原判決は、その「犯罪事実」の項で、「被告人は、平成11年5月19日、Y県信用漁業協同組合K支店に電話をし、同支店係員B子に対し、Aだと名乗った上、同人名義の普通貯金口座から合計25万円を出金して、N銀行のC子名義の普通預金口座にこれを振り込むよう依頼し、B子をして、右依頼がA本人からのものと誤信させ、よって、右A名義の普通貯金口座から25万円を出金して右C子名義の普通預金口座に振込入金させ、次いで、同月21日にも、右連合会K支店のD名義の普通預金口座から合計4万円を出金して右D名義の普通預金口座に振込入金させ、もって、それぞれ人を欺いて財物を交付させた。」旨の事実を摘示し、詐欺罪の成立を認めていることが明らかである
  • ところで、本件のように詐欺行為者と財物の交付を受ける者とが異なる場合に、詐欺罪が成立するというためには、詐欺行為者において第三者に利得させる目的があるとか、もともと第三者が共犯者であるとか、あるいは、それが情を知らない犯人の道具で、交付を受けた財物が当然に被告人に渡る関係にあるなど、欺罔行為者と第三者との間に特別な事情の存することが必要であると解される
  • これを本件についてみると、証拠関係によれば、被告人は、Y県信用漁業協同組合K支店に各電話する前に、振込先の預金名義人であるC子及びDに対して、自己に対する送金の受領のために同人らの預金口座を使わせてもらいたい旨依頼し、同人らからその承諾を得て、銀行口座番号を教えてもらっていることが認められ、被告人は、情をしらない同人らを自己の犯罪の道具として利用し、その預金口座に騙取金の交付を受けたものということができる
  • そして、このような被告人のとC子及びDの関係は、犯罪の成否にかかわる重要な事実であり、もとより、これを罪となるべき事実に摘示する必要があるのに、原判決はその摘示をしていない
  • そうすると、右の摘示を欠いたまま詐欺罪の成立を認めた原判決には、理由の不備の違法があるというべきで、破棄を免れない

と判示しました。

詐欺による利益が誰に帰属したかは、詐欺罪の成否に影響しない

 詐欺犯人以外の第三者が財物の交付を受けた場合でも詐欺罪は成立し得るという話をしました。

 これに関連して、詐欺の利益が結果的に誰に帰属したかは、詐欺罪の成否に影響がないと判示する判例があるので紹介します。

大審院判決(昭和8年11月6日)

 詐欺罪は、人を欺いて錯誤に陥れ、よって財物を交付させた場合に成立し、その利益が結果的に何人に帰したかは、詐欺罪の成否に影響がないとしました。

 裁判官は、

  • 他人を欺罔し、これを錯誤に陥れ、よって財物を交付せしめたる以上は、詐欺罪を構成し、その利益が結局何人に帰属すべきやは同罪の成立に消長を来すべき事項にあらず

と判示しました。

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