法律(刑法)

詐欺罪(53) ~訴訟詐欺②「督促手続に関する訴訟詐欺の判例」「強制執行・競売に関する訴訟詐欺の判例」を解説~

 前回記事の続きです。

 訴訟詐欺に関し、

を紹介します。

督促手続に関する訴訟詐欺の判例

 督促手続に関する訴訟詐欺の判例を紹介します。

大審院判決(昭和12年11月16日)

 虚偽の債権に基づき、裁判所に支払命令を申請した事案で、裁判官は、

  • 形式上適法なる支払命令の申請ありたる揚合においては、裁判所は申請人がその申言の原因たる債権を有するものと推定し、支払命令を発するものなるが故に、虚偽の債権に基づき支払命令の申請をなすの行動は、裁判所に対する欺罔(人を欺く)手段たり得べきものとす

と判示し、裁判所に対する督促手続に関する訴訟について、詐欺罪の成立を認めました。

大審院判決(大正3年5月18日)

 債権者が、支払命令に掲げた貸金額及び督促手続費用の支払を受けたにもかかわらず、貸金額について再度の支払を受ける目的で、裁判所に対して支払完了の事実を秘して、単に前記支払命令に仮執行宣言を求めた事案で、裁判官は、

  • 債権者が支払命令に対する賃金額及び督促手続費用の支払を受けたるにかかわらず、更にその貸金額につき、再度の支払命令を受け、仮執行の宣言を得て執行したるに、債務者の異議により、その目的を遂げざりしときは、詐欺未遂罪を構成するものとす

と判示し、詐欺罪(詐欺未遂罪)の成立を認めました。

強制執行・競売に関する訴訟詐欺の判例

 強制執行・競売に関する訴訟詐欺の判例を紹介します。

大審院判決(明治43年6月6日)

 虚偽の債権証書を偽造して裁判所に提出し、裁判官に競売代金に対し配当加入をなすべきもののように信じさせる行為について、裁判官は、

  • 家賃分散に関する罪は、虚偽の負債を増加するによりて直ちに成立するが故に、この際、虚偽の債権に基づき、競売代金の配当を要求し、債権者を害することあるも、右は虚偽の負債を増加したる罪の当然の結果にして、別に詐欺罪を構成すべきものにあらざるも、家賃分散の際にあらずして、虚偽の債権証書を偽造して、これを裁判所に提出し、裁判官をして、真実、競売代金に対し、配当加入をなすものの如く信じせしめ、その配当を受けるにおいては、刑法第246条にいわゆる人を欺罔して財物を騙取せしめたるものにして、詐欺罪を構成することもちろんなり

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

大審院判決(大正3年2月16日)

 虚偽の債権に基づいて、裁判所に適式配当要求をする行為について、裁判官は、

  • 強制執行に際し、形式上適法なる配当要求をなす者あるときは、裁判所は、その請求の原因たる債権は、現に存するものなりと推定をなし、配当表を作り、これを実施するものなれば、虚偽の債権に基き、適式なる配当要求をなすの事実は、裁判所を錯誤に陥らしむべき欺罔(人を欺く)手段となるべきものなりとす

と判示し、裁判所に対する強制執行に関する訴訟について、詐欺罪の成立を認めました。

大審院判決(大正7年5月7日)

 競売売得金に対し配当要求をする権利を放棄して、一部弁済及び更改契約により債権の満足を得た者が、執達吏に対し、その事実を秘して売得金に対する配当を請求する行為について、詐欺罪が成立するとしました。

大審院判決(明治44年5月5日)

 不実の事を記載した公正証書に基づき、裁判所に対し、公債証書引渡請求権の差押えを申請し、同時に引渡命令を発せしめた行為に対し、裁判官は、

  • 詐欺罪は、裁判所を欺罔したる結果、金庫が占有せる公債証書を騙取したる場合においても成立し、被害者自身が必ずしも欺罔せられたる事実あることを要するものにあらず

と判示し、裁判所に対する強制執行に関する訴訟について、詐欺罪の成立を認めました。

大審院判決(大正2年4月28日)

 債権が存在しないのに存在するように装い、形式上適法な債務名義を示し、執達吏に受任させた行為について、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 執達吏が実質上債権の存在せず詐欺罪に着手するものなることを知了したるときは当然、執行を拒絶すべき債務あるものなるをもって、債権の存在せざるにかかわらず、これを存在するものの如く装い、形式上適法なる債務名義を示し、執達吏をして受任せしむるは、これを欺罔するものにほかならず

と判示し、詐欺の成立を認めました。

大審院判決(大正11年10月2日)

 訴訟費用の弁済を求める権利が消滅し、債権が存在しないのに存在するように装い、形式上適法な債務名義を示し、執達吏をして受任させた行為について、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 訴訟費用の弁済を求むる権利消滅後に得たる費用額確定決定を執達吏に交付し、正当なる権利を有するものの如く装い、これが執行を委任して、訴訟費用負担者の財産に対し、強制執行をなす行為は、詐欺罪の着手なりとす

と判示しました。

大審院判決(昭和14年10月16日)

 債務弁済延期の目的で、競落の意思がないのに競買の申出をし、競落許可決定を受けた上、競落代金の支払義務を履行せず債務弁済延期の利益を得た行為について、裁判官は、

  • 抵当権実行のため、競売の申立てを受けたる債務者が競落の意思なきにかかわらず、他人名義をもって競落し、その代金を納付せず、再競売のやむなきに至らしめ、よりて抵当権の実行を妨げたるときは、財産上の不法の利益を得たるものとす
  • 不法利得罪を断する判決においては、犯人が不法に財産上の利益を得たることを知り得べき程度に事実を判示するをもって足り、必ずしもその利益を算数的に明示するの要なきものとす

と判示し、裁判所に対する競売に関する訴訟について、詐欺罪の成立を認めました。

大審院判決(昭和9年8月30日)

 債務弁済延期の目的で、代理資格を詐称し、最高価の競買申出をして競落許可決定を受けた上、競落代金の納付をせず債務履行延期の利益を得た場合、詐欺利得罪(2項詐欺)が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 不動産競売期日において、他人名義の偽造委任状を提出行使して、最高価の競売申出をなし、執達吏錯誤に陥れ、その者を最高価競買人となさしむる行為は、競売期日において、右最高価競買人に対し、競落許可の決定をなす係判事に対する欺罔行為たるものとす

と判示しました。

大阪地裁判決(昭和55年11月5日)

 手形満期以降の決済を一時免れるため、虚偽の疎明資料を提出して裁判所を欺き、不渡処分回避の仮処分決定を得て、手形金の支払を一時免れた行為について、詐欺利得罪が成立するとしました。

 上記の判例は、すべて詐欺罪の成立を認めた判例です。

 これとは逆に、詐欺罪の成立を認めなかった判例として、以下の判例があります。

大審院判決(昭和2年6月20)

 抵当権の実行を受けた債務者が、抵当不動産に対する競売を免れる目的で、一部弁済に関する変造受領証を裁判所に提出し、一部弁済を理由として、競売開始決定に対し、異議を申し立てた行為について、裁判官は、

  • 抵当権の不可分の性質を有するをもって、抵当権者が債権の一部につき、弁済を受けるも、残余の債権につき、抵当不動産全部に対し、抵当権を行うことを得べければなり

と述べ、一部弁済では競売開始決定を取り消す理由とならず、裁判所としては弁済の点を調査せずに異議を却下すべきものであるから、異議の申立て及び変造証書の提出は、人を欺く手段とはならないとして、詐欺罪の成立を否定しました。

最高裁判決(昭和45年3月26日)

 被告人が、抵当権実行により、債権者甲の所有・占有に帰した家屋奪回を企て、依然として自己が所有・占有しているかのように装い、簡易裁判所に対し、すでに失効した他の債権者乙との間の和解調書正本につき、執行文付与の申請をし、同裁判所書記官補をその旨誤信させて執行文の付与を受け、さらに執行吏に対し、その執行文を提出して同様誤信させ、同執行吏をして、同家屋の占有を被告人から乙に移転する強制執行をさせた事案で、欺かれた者とされている裁判所書記官補及び執行吏は、何ら甲の財産的処分行為をしたわけでもないとし、詐欺罪の成立を否定しました。

 裁判官は、

  • 被告人Aは、昭和28年8月29日大阪簡易裁判所において、裁判上の和解により、金融業B株式会社に対する金300万円の債務の存在を承認し、その担保として自己所有の大阪市a区b町c番地所在木造鉄板葺三階建家屋一棟を提供し、これに抵当権を設定し、その登記並びに代物弁済予約による所有権移転請求権保全の仮登記を経由したが、その後右債務を完済したので、同年12月2日右各登記は抹消され、右和解調書はその効力を失った
  • そのため、かねて被告人Aに対し債権を有し、その担保として右不動産に対し後順位の抵当権の設定を受け、その登記並びに代物弁済予約を登記原因とする右家屋の所有権移転請求権保全の仮登記を経由していたCが一番抵当権者に昇格し、昭和30年4月25日その権利の実行として右不動産の所有権移転登記を了したうえ、同年5月9日右不動産の明渡の強制執行をしたので、右家屋はCの所有かつ占有するところとなった
  • しかるに、被告人両名は他3名と共謀のうえ右家屋の奪回を企て、すでに右家屋は被告人Aの所有、占有を離れているのに、依然として同被告人が所有、占有しているかのように装い、同年11月18日ごろ大阪簡易裁判所に対し、すでに効力を失っている前記Bとの間の和解調書正本につき執行文付与の申請をし、同裁判所書記官補Dをその旨誤信させて執行文の付与を受けたうえ、同月26日ごろ大阪地方裁判所構内において同裁判所所属執行吏Eに対しても、前示各事実を秘して右執行文を提出し、右執行吏を右書記官補同様誤信させ、よってそのころ同執行吏をして右家屋に対する強制執行をなさしめ、Cの占有下にある同家屋をBの占有に移転させてこれをCから騙取した
  • 詐欺罪が成立するためには、被欺罔者が錯誤によってなんらかの財産的処分行為をすることを要するのであり、被欺罔者と財産上の被害者とが同一人でない場合には、被欺罔者において被害者のためその財産を処分しうる権能または地位のあることを要するものと解すべきである
  • これを本件についてみると、二番目の強制執行に用いられた債務名義の執行債務者は、あくまで被告人Aであつて、Cではないから、もとより右債務名義の効力がCに及ぶいわれはなく、したがって、本件で被欺罔者とされている裁判所書記官補および執行吏は、なんらCの財産である本件家屋を処分しうる権能も地位もなかったのであり、また、同人にかわって財産的処分行為をしたわけでもない
  • してみると、被告人らの前記行為によって、被告人らが本件家屋を騙取したものということはできないから、前記第一審判決の判示事実は罪とならないものといわなければならない(もっとも、記録によれば、被告人両名はあらかじめCの占有に属する本件家屋に泊まりこみ、あたかも被告人らがこれを占有しているかのように装い、情を知らない執行吏をして同家屋に対するAの占有を解いて被告人らと意を通じたBに引き渡す旨の強制執行をなさしめたことがうかがわれ、右行為は、不動産の侵奪にあたることが考えられるけれども、昭和35年法律第83号による不動産侵奪罪制定以前のものであるから、同罪による刑事責任を問うこともできない。)
  • そうすると、本件において詐欺罪の成立を認めた第一審判決は、法令の解釈適用を誤り、罪とならない事実について被告人両名を有罪とした違法があり、これを看過した原判決もまた違法といわなければならない

と判示し、財産的処分行為はないので、詐欺罪は成立しないとしました。