法律(刑法)

詐欺罪(78) ~「詐欺罪における教唆犯・幇助犯の具体例」を判例で解説~

詐欺罪における教唆犯

 教唆犯とは、

人をそそのかして犯罪を実行させた者

をいいます(刑法61条1項)。

 教唆犯についての詳しい説明は前の記事で行っています。

 詐欺罪における教唆犯の考え方は、刑法犯全般に適用される教唆犯の考え方と同じです。

 詐欺罪における教唆犯に関する判例として、以下の判例があるので紹介します。

大審院判決(大正2年2月3日)

 教唆者は、正犯の詐取した金額がその指定した範囲と異なっても、教唆の責任を負うとしました。

 裁判官は、

  • 教唆と実行との間に、手段もしくは結果につき異同ありとするも、これがために重きほかの犯罪を構成せざる限りは、教唆者は、実行者の行為につき責を負うは当然なりとす
  • 被告は、Kに対して、質屋詐言し金15円を騙取すべしと教唆し、Kは質屋を欺き金10円を交付せしめた
  • 被告が15円を騙取すべしと教唆したるにかかわらず、Kが10円を騙取したるが如きは、詐欺罪の金額につき異同ありたるに過ぎず、金額が教唆者の指定する範囲内にあると、それ以外に出るとは、もとより犯罪構成もしくは刑罰加重の事実につき影響を及ぼすものにあらず

と判示しました。

詐欺罪における幇助犯

 幇助犯とは、

正犯(犯罪の実行者)を手助けした者

をいいます(刑法62条1項)。

 幇助とは、正犯(犯罪の実行者)を手助けし、より簡単に犯罪を実行できるようにすることです。

 幇助犯についての詳しい説明は前の記事で行っています。

 詐欺罪における幇助犯の考え方は、刑法犯全般に適用される幇助犯の考え方と同じです。

 詐欺罪における幇助犯に関する判例として、以下の判例があるので紹介します。

大審院判決(大正4年3月15日)

 他人が詐欺行為をするのを知りながら、その目的の遂行に対し、間接に一つの便宜を与えて、詐欺行為に着手させた場合に、詐欺罪の幇助犯が認められるとしました。

 裁判官は、

  • 乙者が甲者の詐欺行為をなすことを知り、その目的の遂行に対し、間接に一つの便宜を与え、甲者をして詐欺行為に着手せしめたる以上は、直接に詐欺行為に加担せざるも、詐欺罪の従犯を構成するものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和8年8月10日)

 詐欺犯人に対し、取引の相手方を紹介した場合に、詐欺罪の幇助犯が認められるとしました。

 裁判官は、

  • 甲者が乙者を欺罔し、財物を騙取するものなることの事情を知りながら、甲者を乙者に紹介し、もって甲者の詐欺行為を容易ならしめたる者は、詐欺罪の幇助をもって処断すべきものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和9年2月10日)

 甲が変造株券を入手し、これを行使して他から金員を詐取しようとしている情を知りながら、変造株券の調達世話人を甲に紹介し、変造株券入手の便宜を与えた場合に、詐欺罪の幇助犯が認められるとしました。

 裁判官は、

  • 他人が変造株券を買い入れ、これを行使して他より金員を騙取するの情を知りながら、変造株券調達世話人をこれに紹介し、右詐欺犯人をして、その者の周旋により変造株券を入手し、これを行使して他より金員を騙取することを至らしめたる者は、変造有価証券行使詐欺罪従犯をもって論ずべきものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和12年12月14日)

 金員詐取の材料として使用されることを知りながら、偽物の浮世絵を詐欺犯人に交付した場合に、詐欺罪の幇助犯が認められるとしました。

 裁判官は、

  • 情を知りて、偽造の署名印章等を押捺する浮世絵を売主に交付せしめたるときは、詐欺幇助罪の成立を免れざるものとす
  • その交付せしめたる絵に対する利益の少なきと否と、買主たる相手方が浮世絵につき鑑識を有すると否とは、本罪の成立に影響なし

と判示しました。

大審院判決(昭和13年4月7日)

 保険会社の代理店主が、虚偽の診査報状に基づく保険契契約によって保険契約者となった者が保険金を詐取しようとして請求書類を出してきたのを知りながら、これを本店に送付する手続をとった場合に、詐欺罪の幇助犯が認められるとしました。

 裁判官は、

  • 保険会社の代理店主は、保険金請求者が虚偽の診査報状に基づく保険契約により、保険金を騙取せんとして提出したる請求書類を本店に送付せんとするに当たり、右診査報状の虚偽なる事実を了知する以上、同事実を本店に報告すべき法律上の義務あるものとす
  • 代理店主が、右の義務に違背し、右虚偽事実を本店に報告することなくして書類送付の手続をとりたるときは、詐欺罪の従犯成立す

と判示しました。

東京高裁判決(昭和57年12月21日)

 刀剣類のブローカーをしていた被告人が、 同業者が無銘の日本刀を重要美術品に認定された高価な日本刀のように装って顧客から金員を詐取するものであることを知りながら、同業者にその日本刀を売り渡しても、その同業者が欺こうとする相手方や欺く方法、時期などについては何も聞かず、日本刀を売り渡したほかはその犯行につき何ら介入、関与せず、その事後報告も受けていないし、詐取金員の配分も受けていないときは、詐欺罪の共同正犯は認められないとして、第一審判決を破棄し、詐欺の幇助犯の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人についてみれば、被告人が日本刀や重要美術品認定通知書用紙をHに売り渡し、右日本刀を重要美術品として認定された刀であるかのように装うことをHに勧めるなどし、本件各詐欺の犯行の実現につき相当程度寄与していることは明らかであるけれども、各詐欺の実行行為そのものを分担したものとは認められず、また、Kとの間で各犯行につき共謀があったと認めることも困難というべきである
  • いわゆる共謀共同正犯の要件である共謀が成立したといい得るためには、単に他人が犯罪を行うことを認識していたというだけでは足りず、二人以上の者の間において、互いに他人の行為を利用して各自の犯意を実行しようとする共同意思が存在していなければならないと解される(最高裁昭和33年5月28日判決)ところ、被告人は、Kが欺罔しようとする相手方や欺罔の方法、時期などについては何も聞かず、日本刀などを売り渡したほかは、Kの犯行につき何ら介入、関与せず、Kから事後報告も受けていないし、騙取金員の配分も受けていないのである
  • これら諸点からすれば、被告人にKの行為を利用し、Kと共に詐欺罪を行おうとする犯意があったとは認め難いといわなければならない
  • 被告人は、本件の以前から偽造した重要美術品認定通知書など日本刀と共にKに売り渡していたものであり、そのような経緯からも、また、本件において売り渡した日本刀などの代金を取得するためにも、Kの犯行が成功することを望んでいたものと認められる
  • しかし、そのことを考え合わせても、被告人にKとの共同犯行の意思があったものとみることはできないのであって、そのほか、記録全体を検討しても、Kに共同正犯としての罪責を認めるべき証拠は不十分であるといわざるを得ない

と判示し、被告人に詐欺罪の共同正犯は認められないとしつつも、Kに対し、日本刀及び重要美術品認定通知書を売り渡し、Kの詐欺の犯行を容易にさせて幇助したとして、詐欺の幇助犯が成立するとしました。