科刑上一罪とは?
通常、複数の犯罪を犯せば、数罪が成立します。
ここで、本来は数罪ですが、刑罰を科す上では、一罪(1つの罪)として取り扱うことがあります。
これを
科刑上一罪
といいます。
科刑上一罪は、
- 観念的競合
- 牽連犯(けんれんぱん)
に分けられます。
観念的競合は、刑法54条1項前段の「1個の行為が2個以上の罪名に触れ」という部分が法律の規定になります。
牽連犯は、刑法54条1項後段の「犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるとき」という部分が法律の規定になります。
犯した数個の犯罪が、観念的競合と牽連犯の関係にある場合、数個の犯罪のうち、もっとも刑が重い犯罪をもって処罰を下されることになります。
これについては、刑法54条1項の「その最も重い刑により処断する」という部分が法律の規定になります。
科刑上一罪とされることは、犯人にとって、有利に働く事情になります。
本来であれば、数個の犯罪を犯したのであれば、数個の犯罪すべての刑を合わせた刑の重さをもって、処罰を受けることとなります。
しかし、犯した数個の犯罪が「科刑上一罪」(観念的競合と牽連犯)と認定される場合は、1個の犯罪の刑の罪の重さをもって、処罰されるだけですみます。
これは、実質的に、犯人にとって、軽い刑罰ですむというメリットになります。
観念的競合とは?
観念的競合とは、
1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合
に成立する犯罪形態です。
たとえば、無免許運転と酒気帯び運転は、観念的競合になります。
無免許で酒気帯び運転をする状況をイメージしてください。
無免許・酒気帯びの状態で車のハンドルを握ってアクセルを踏む行為は1個の行為で実現されます。
よって、無免許・酒気帯びの状態で車を運転するという1個の行為が、無免許運転と酒気帯び運転の2個の罪名に触れます。
よって、無免許運転と酒気帯び運転は、観念的競合と認定されるのです(最高裁判例 昭和49年5月29日)。
これに対し、酒酔い運転と自動車事故(過失運転致傷)は、観念的競合として一罪にならず、酒気帯び運手と自動車事故(過失運転致傷)の2個の犯罪として処罰されます(これを、「併合罪」といいます)。
これは、
- 酒酔い運転で1個の行為
- 自動車事故を起こすことで1個の行為
と認定されるため、観念的競合における『1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合』に該当しないためです。
ちなみに、『1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合』における『1個の行為』について、判例は、
1個の行為とは、…行為者の動態が社会的見解上、1個のものとの評価をうける場合をいう
と定義しています(最高裁判例 昭和49年5月29日)。
なお、観念的競合の犯罪事実は、
被疑者は、〇年〇月〇日、〇市内の道路において、酒気を帯びた状態で、無免許したものである
という感じで、一罪の書きぶりになります。
なので、
被疑者は、
第1 〇年〇月〇日、〇市内の道路において、酒気帯び運転をした
第2 〇年〇月〇日、〇市内の道路において、無免許運転をした
ものである
というふうに、別個の2つの罪が成立するような犯罪事実の書きぶりにはなりません。
1つの動作で、2個以上の犯罪を成立させるかどうかが、観念的競合の成立ポイントになります。
観念的競合の刑の重さ
観念的競合は、本来は数罪ですが、行為が1個であるという性質から、刑罰としては、
刑が最も重い1罪の刑の重さ分の刑罰を与える
という扱いがされます。
たとえば、公務執行妨害罪と暴行罪は観点的競合になります。
警察官を殴るという1個の行為で、公務執行妨害罪と暴行罪の2個の犯罪を成立させるからです。
では、公務執行妨害罪と暴行罪の観念的競合について、刑の重さがどうなるかを説明します。
公務執行妨害罪の法定刑は、3年以下の懲役・禁錮 or 50万円以下の罰金です。
暴行罪の法定刑は、2年以下の懲役 or 30万円以下の罰金 or 拘留 or 科料です。
観念的競合の場合は、犯した数個の犯罪のうち、最も刑が重い犯罪をもって刑罰が下されます。
よって、最も刑が重い公務執行妨害罪になるので、3年以下の懲役・禁錮 or 50万円以下の罰金の範囲内で刑罰が下されることになります。
牽連犯(けんれんぱん)とは?
牽連犯の代表例は、住居侵入罪と窃盗罪です。
モノや金を盗むために、他人の家に侵入し、窃盗を犯す罪です。
住居侵入罪は、窃盗罪という結果を実現するための手段です。
窃盗罪は、住居侵入罪という手段を実行した先にある結果です。
このように、
複数の犯罪が、手段と結果の関係にある犯罪形態
を「牽連犯」といいます。
牽連犯が成立すると、数個の犯罪を犯しても、一罪として処罰されます。
牽連犯の成立要件
実行した数個の犯罪が、手段と結果の関係にあり、牽連犯であると認められるためには、
手段と結果となる犯罪の間に、密接な因果関係があることが必要
とされます(最高裁判例 昭和24年7月12日)。
ただの因果関係ではなく、「密接な因果関係」が必要なところがポイントです。
先ほどの住居侵入罪と窃盗罪の牽連犯においては、お互いの犯罪行為がなければ、結果を実現できません。
なので、住居侵入罪と窃盗罪の間には、密接な因果関係があると言え、牽連犯が成立するのです。
牽連犯が成立しないとされた判例として、不法監禁罪と強姦致傷罪があります(最高裁判例 昭和24年7月12日)。
この判例では、
- 犯人が現実に犯した2罪が、たまたま手段と結果の関係にあるだけでは牽連犯とはいえない
- 不法監禁罪と強姦致傷罪とは、たまたま手段と結果の関係にあるが、通常の場合においては、不法監禁罪と強姦致傷罪は、牽連犯ではない
と判示しています。
ちなみに、不法監禁罪と強姦致傷罪は、牽連犯として一罪にならず、2個の犯罪として処罰されます(これを、「併合罪」といいます)。
牽連犯の刑の重さ
牽連犯は、数個の犯罪を一罪として処罰する性質から、刑罰としては、最も刑が重い1罪の刑罰を与えるという扱いをされます。
(観念的競合と同じ扱いです)
先ほどの住居侵入罪と窃盗罪の牽連犯の例に当てはめて、刑の重さがどうなるかを説明します。
住居侵入罪の法定刑は、3年以下の懲役 or 10万円以下の罰金です。
窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役 or 50万円以下の罰金です。
牽連犯の場合は、犯した数個の犯罪のうち、最も刑が重い犯罪をもって刑罰が下されます。
よって、最も刑が重い窃盗罪の10年以下の懲役 or 50万円以下の罰金の範囲内で刑罰が下されることになります。
【犯罪の罪数】の記事まとめ一覧
【犯罪の罪数③】科刑上一罪とは? ~「観念的競合」「牽連犯」を解説~
【犯罪の罪数④】併合罪とは? ~「同時審判の利益」「刑の計算方法」を解説~