令和元年司法試験の刑事訴訟法論文問題

 令和元年司法試験の刑事訴訟法論文問題の答案を作成してみました。

 この論文からは以下のテーマが学べます。

1⃣ 別件逮捕・勾留の違法性

2⃣ 訴因変更

  • 公訴事実の同一性が認められるための要件
  • 公判前整理手続が終了した後の訴因変更の可否

問題

 法務省ホームページの「令和元年司法試験問題」参照(問題文PDFリンク先)。

答案

設問1

第1 小問1

1 下線部①の逮捕・勾留は、別件逮捕・勾留として違法とならないか。

⑴ 「別件逮捕・勾留」とは、いまだ重大な事件(「本件」)についての嫌疑が十分でないため、逮捕・勾留の要件を具備していないのに、専ら「本件」の事件を取り調べる目的で、逮捕 ・勾留の要件を具備している軽微な事件(「別件」)で逮捕・勾留し、その期間の全部あるいは大部分を「本件」の事件についてのみ取り調べる場合をいう。

 本件事案は、甲を逮捕・勾留する証拠がない強盗致死事件(「本件」)の取調べを目的とし、十分な証拠がそろった軽微な業務上横領事件(「別件」)で逮捕・勾留するものであり、別件逮捕・勾留に当たり得る。

⑵ 甲の逮捕・勾留は適法か。

ア 逮捕・勾留の適法性は「別件」を基準にして判断するべきである。

 なぜならば、「別件」について逮捕・勾留要件を満たしている場合には、「本件」の捜査目的を有しているとしても、身柄拘束の期間の点で被疑者に特段不利益は生じないためである。

 また、捜査機関の主観によって逮捕の適法性が左右することは、手続の安定性、予測性の観点から妥当ではないためである。

イ 逮捕の要件は、㋐被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること(刑訴法199条1項本文)、㋑逮捕の必要があること(刑訴法199条2項ただし書刑訴規則143条の3)である。

 勾留の要件は、Ⓐ被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること(刑訴法60条1項柱書)、Ⓑ住居不定、罪証隠滅・逃亡のおそれがあること(刑訴法60条項1~3号)である。

 これらの要件を満たせば、その目的の如何にかかわらず、逮捕・勾留は適法であると解する。

 下線部①の逮捕について、別件については被害届が提出されており、甲に3万円を渡したというAの供述や、3万円がX社に入金されたことを裏付ける帳簿類は見当たらなかったという捜査報告書などがあり、甲が3万円を着服した可能性が高い。

 よって、㋐「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること」が認められる。

 また、アパートで単身生活をしており、逃亡のおそれは高く、甲は証人となり得るX社長やAと面識があることから、甲がこららの者に働き掛けて自己に有利な証言をするよう迫るなどし、証拠隠滅を図るおそれも高い。

 よって、㋑「逮捕の必要があること」も認められる。

 したがって、下線部①の逮捕は、逮捕の要件を満たす適法なものである。

イ 下線部①の勾留について、上記⑵㋐の事情がⒶの事情としても十分である。

 上記⑵のとおり、罪証を隠滅するに足りる相当な理由があり、刑訴法60条2号・3号に該当する。

 よって、Ⓑ「罪証隠滅・逃亡のおそれがあること」が認められる。

 したがって、下線部①の勾留は、勾留の要件を満たす適法なものである。

エ よって、下線部①の逮捕・勾留は適法である。

⑶ 勾留期間の延長(刑訴法208条2項)は適法か。

ア 勾留期間の延長は、「やむを得ない事由」がある場合に認められる。

 「やむを得ない事由」は、事件の複雑困難、証拠収集の遅延・困難等により、勾留期間の延長をしなければ、起訴・不起訴の判断をすることが困難であることをいう。

イ 3月7日、Rが業務上横領事件について甲を取り調べたところ、甲は、「事件当日は、終日、パチンコ店のH店かI店にいたような気もする。」旨供述した。

 Qは、業務上横領事件の犯行日の特定や被害金額の裏付けとしてYの取調べが必要と考え、Yに連絡したが、Yの出張等の都合により、同月16日にYを取り調べることとなった。

 Qは、同月8日から10日にかけて、H店及びI店において裏付け捜査をしたところ、I店では防犯カメラが同月14日まで修理中であったため、修理後にその画像を確認することとななった。

 よって、「別件」の業務上横領罪の捜査につき、勾留期間を延長しなければ、起訴又は不起訴の判断をすることが困難であることから、「やむを得ない事由」がある。

ウ したがって、勾留期間の延長は適法である。

⑷ もっとも、上記⑴~⑶のとおり、たとえ逮捕・勾留・勾留期間延長が「別件」につき適法であったとしても、逮捕・勾留に引き続く身体拘束の実体が、専ら「本件」の捜査のための身体拘束といえる場合は、令状主義(憲法33条刑訴法199条1項)に反し、違法ではないか。

ア 起訴前の身柄拘束の趣旨は、被疑者の身柄を拘束し、逃亡や罪証隠滅を防止した状態で、当該身柄拘束の原因となった被疑事実について、起訴・不起訴の判断に向けた捜査を行うことにある。

 そこで、かかる身柄拘束期間が主として「本件」捜査に用いられるに至った場合には、「別件」についての身柄拘束の要件を欠き、令状主義に反するため、かかる状態に至った以降の身柄拘束は違法になると解する。

 そして、上記のような状態に至っているといえるかは否かは、「別件」と「本件」についての捜査が行われた時間、「別件」と「本件」との捜査の進捗状況、捜査の態様、捜査機関の意図等を総合的に考慮して判断する。

イ 甲の勾留期間中に、「別件」について7日間にわたり20時間の取調べが行われているが、「本件」については、12日間にわたって40時間という長時間の取調べが行われている。

 「別件」は、被害額が3万円と僅少な刑事事件であり、被害者であるX社の社長は処罰を望んでいなかった。

 「別件」については、X社長から提出された被害届、甲に3万円を渡した旨のAの供述調書、Aから集金した3万円がX社に入金されたことを裏付ける帳簿がなかった旨の捜査報告書等の証拠がそろっており、捜査は相当程度進んでいた。

 一方で、「本件」は、強盗致死事件という重大犯罪であり、被害者であるVが目撃した原付と同じナンバー、同じ色の原付を甲が所有していたこと、犯行直後、甲の口座に30万円が振り込まれたこと程度しか明らかになっておらず、捜査はあまり進んでいなかった。

 そのため、捜査機関としては、「本件」についての捜査を行うために甲の身柄拘束期間を利用したのではないかと推認される。

 捜査機関は、甲の身柄拘束期間中に、「別件」固有のH店、I店への裏付け捜査、パソコンデータ精査といった捜査も行っているが、「本件」についての捜査でもあるスマートフォンのデータ精査、周辺者への聞き込み、Yの取調べや、「本件」固有の捜査である大家に対する取調べ、原付に関する捜査も行っている。

 現にYの取調べにおいては「本件」についての証拠となり得る供述である「平成31年2月初め頃、『臨時収入があったから金を返す』と電話があり、甲から7万円の返済を受けた」旨の供述調書を作成し、手帳を確認してその旨の供述調書を作成している。

 また、大家からも、「平成31年2月2日に2か月分の家賃として10万円を支払った」旨の供述を得て、その旨の供述調書を作成している。

 そして、「本件」について甲の取調べを行う際には、任意の取調べとして行う旨を説明しているが、特に平成31年3月8日以降は連日長時間「本件」について取調べを行っているから、かかる取調べは甲の身柄拘束状態を利用して行われているものといえる。

 また、「別件」の逮捕に至った経緯は、Pが本件で甲を逮捕するには証拠が不十分であると考え、他の犯罪の嫌疑を探って、X社社長から「別件」についての情報を聞き出し、X社社長は被害額が僅少であること、世間体から甲の処罰を望まなかったにもかかわらず、Pが繰り返し説得したことで、被害届を提出させたものである。

 かかる経緯から、Pらは当初から「本件」の捜査のための建前として「別件」を利用する意図を有していたものと推認される。

ウ これらの事情を総合的に考慮すれば、甲の身柄拘束期間は主として「本件」の捜査のために利用されたというべきである。

 よって、「別件」についての身柄拘束の要件を欠き、令状主義に反し、違法となる。 

2 以上より、下線部①の逮捕・勾留は、別件逮捕・勾留として違法である。

第2 小問2

1 1と異なる結論を導く理論構成として、逮捕要件の基準としては、1と同様に「別件」を基準としつつ、勾留は「別件」の捜査の必要性が継続している限り適法であり、「本件」の捜査は任意に行われる限り適法であると解する理論構成が考えられる。

⑴ 逮捕については1と同様に適法となる。

⑵ 勾留につき、「別件」についての捜査の必要性は3月20日まで継続していた。

 「本件」の取調べについて、Pは、甲に対し、任意の取調べとして行う旨を説明した上で、甲は任意に取調べに応じており、強制の取調べは行っていない。

 甲が「本件」の取調べを拒否している事情は存在せず、取調べの所要時間は、1日2時間から5時間にとどまっており、「本件」の取調べは相当といえる。

 よって、「本件」の捜査は、任意捜査として適法である。

⑶ 以上より、別件逮捕・勾留は適法である。

2 もっとも、上記の別件逮捕・勾留を適法と認める理論構成は採用できない。

 上記理論構成を採用し、別件逮捕・勾留を適法と認めれば、実体として「本件」の捜査のための身柄拘束を無令状で行うことを許容することになる。

 別件逮捕・勾留が「本件」の取調べのための逮捕・勾留であるにもかかわらず、「別件」のみが令状審査の対象となっており、「本件」について司法審査を経ていないという意味で令状主義を潜脱するものである。

 さらに、「別件」の逮捕・勾留の後に、「本件」で再逮捕して勾留することが可能であり、これは、刑事訴訟法203条以下の逮捕・勾留に関する時間制限を潜脱するものである。

 よって、上記の別件逮捕・勾留を適法と認める理論構成は、令状主義を潜脱するものであり、妥当性を欠き、採用すべきではない。

設問2

1 訴因変更をすることが可能か。

⑴ 訴因変更は、「公訴事実の同一性を害しない限度において」可能である(刑訴法312条1項)。

 訴因変更制度の趣旨は、1個の刑罰権の実現に関し、2個以上の訴因が構成されて、それらが別訴で審判されることにより、2個以上の有罪判決が下されるおそれを回避することにある。

 公訴事実の同一性が認められるためには、訴因変更をしても、訴因変更をする前とした後で、公訴事実が1個であることに変わりがない状態であることが必要になる。

⑵ 公訴事実1は甲に集金権限があることを前提に、甲がAから受け取った3万円を着服したとする業務上横領罪の訴因である。

 他方、公訴事実2は、甲に集金権限がないことを前提に、甲からAから3万円を詐取したという詐欺罪の訴因である。

 両公訴事実は、平成30年11月20日という同一の日に、A方という同一の場所で、Aという同一被害者に対し、甲が行った同一行為であるので、両公訴事実は非両立である。

 両訴因は、集金権限の有無は異なるものの、日時、場所、被害者、金額が一致しており、事実関係の主要部分が同一である。

 公訴事実1は業務上横領罪であり、公訴事実2は詐欺罪であるが、いずれもAの財産に対する侵害であり、法益侵害は同一である。

 行為態様は、公訴事実1は「横領」、公訴事実2は「詐取」であり、行為態様は異なるものの、財物の移転を為すものとして共通している。

⑶ よって、公訴事実の同一性が認められることから、訴因変更が可能である。

2 裁判所は訴因変更を許可すべきか。

⑴ 訴因変更請求の権限は検察官にあり、裁判所は、検察官から訴因変更請求があれば、公訴事実の同一性を害しない限度において、これを許可するのが原則である(刑訴法312条1項)。

 もっとも、本件は、公判前整理手続に付されているため、裁判所が訴因変更請求を許可できるかが問題となる。

 同手続は、刑事裁判の充実・迅速化を図ることを目的とし、第1回公判期日前に、裁判所主催の下、裁判官、検察官、弁護人・被告人が集まり、事件の争点や証拠を十分に整理する話し合いを行い、審理計画を策定する手続である。

 刑訴法316条の5第1号が同手続きにおいて訴因を明確にすべきことを定めていること、刑訴法316条の32第1項が同手続が終了した後は、同手続で争点や証拠を整理したことの意味がなくなるとの理由で新たな証拠調べ請求を制限していることに鑑み、同手続終了後に訴因変更が認められるかの検討を要する。

 この点、①同手続後に訴因変更請求すべきやむを得ない事情があるか、②訴因変更を認めることで、同手続の趣旨たる刑事裁判の充実・迅速化を害さないか、③同手続で争点や証拠の整理を行い、審理計画を策定した意味を没却しないかを考慮して判断すべきと解する。

⑵ 本問では、同手続の段階では量刑のみが争点とされており、集金権限に関する主張はなされていなかった。

 集金権限についての争点は、公判期日におけるX社社長に対する証人尋問によって初めて顕在化しており、捜査機関はこの段階まで当該争点の存在をこの段階まで知り得なかった。

 よって、検察官は、同手続の段階では、訴因変更請求をなし得なかった。

 したがって、同手続中に訴因変更請求をすることができなかったやむを得ない事情が存在する(①充足)。

 本件では、訴因変更請求後に検察官及び弁護人から追加の証拠調べ請求はなされていない。

 そうすると、審理計画を大幅に変更しなければならなくなる状況はなく、訴因変更による刑事裁判の迅速化に係る利益はさほど害されておらず(②充足)、同手続で争点や証拠の整理を行った意味は没却されていないといえる(③充足)。

 むしろ、訴因変更を認めないことで、甲の集金権限を否定するX社社長の証言から公訴事実1の事実が認定できなくなり、裁判所は甲に対し、無罪を言い渡すしかなくなる。

 そして、公訴事実1に係る無罪判決が確定すると、公訴事実の同一性が認められる公訴事実2について別で起訴をしたとしても、一事不再理の効力により、甲は免訴刑訴法337条)の判決を受け、刑事責任を負わないこととなる。

 よって、刑事裁判の充実の利益が大きく害される。

 したがって、訴因変更を認めることが刑事裁判の充実の利益にかなう(②充足)。

⑶ 以上より、訴因変更を認めても、同手続を行った趣旨を没却しないので、裁判所は訴因変更請求を許可すべきである。