職務質問とは?
職務質問とは、
警察官が、犯罪に関わりがあると疑う者を停止させて質問すること
をいいます。
根拠法令は、警職法2条Ⅰにあり、
『警察官は、異常な挙動、その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。」
と規定します。
『異常な挙動』とは、
- 発する言葉が不自然
- 動作や態度が不審
- 着衣が破れているなど普通ではない
- 携行品が怪しい
といった状況が考えられます。
『その他周囲の事情』とは、
- 薬物の取引きが横行する場所
- 夜の繁華街
- 犯罪被害が頻発する場所
であるなど、犯罪が起こりやすい場所、また起こった場所、時間、環境を意味します。
職務質問が適法となる具体例
職務質問が適法となる具体例を判例で紹介します。
最高裁判例(昭和53年9月7日)において、
- 犯人は遊び人風の男
- パトカーが近づくとその場から去る
- 場所は、連込みホテルの密集地帯で、覚醒剤事犯や売春事犯の検挙例が多く、犯人に売春の客引きの疑いもあった
- 犯人の落ち着きのない態度、青白い顔色などからして覚醒剤中毒者の疑いもあった
という状況下における職務質問は適法とされます。
最高裁判例(昭和63年9月16日)において、
- パトカーで警ら中、暗い路地から出て来た一見暴力団員風の犯人を発見
- 犯人は、覚醒剤常用者特有の顔つきをしていた
- 覚醒剤使用の疑いを抱き、職務質問をすべく声をかけたところ、被告人が返答をせずに反転して逃げ出した
という状況下における職務質問は適法とされます。
職務質問が適法になるかどうかの判断基準は、法律で具体的に示されているものではなので、判例を判断基準にすることになります。
具体的に何が適法で、何が違法な職務質問になるかは、個別的な事例ごとにケースバイケースで判断することになります。
職務質問で強制力を行使することはできない
職務質問においては、身体を拘束したり、無理やりその場に留め置いたり、無理やりパトカーに乗せたり、無理やり警察署に連れて行くことはできません。
警職法2条Ⅲには、
『(職務質問を受ける者は、)刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない』
とあり、職務質問において、強制力を行使できないことが規定されています。
そもそも、犯罪捜査においては、法律に特別の根拠がなければ、強制手段を用いることができません。
このことは、最高裁判例(昭和51年3月16日)で示されており、裁判官は、
- 捜査において強制手段を用いることは、法律の根拠規定がある場合に限り許容されるものである
- しかしながら、ここにいう強制手段とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものであって、右の程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合があるといわなければならない。
- ただ、強制手段にあたらない有形力の行使であつても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである
と判示しています。
この判例は、
職務質問や任意捜査において、強制力を行使することは許されないが、強制に至らない程度の有形力の行使なら許される
ことを示しています。
確かに、警察官が、犯罪を犯したと疑われる犯人をを目の前にしたときに、一切の制止もできず、何の力も行使できないとなれば、社会の平和は守られません。
犯人が「お前ら警察官は強制的に俺を捕まえられないんだよ!」などと行って、警察官の呼びかけに応じず、その場から立ち去ってしまえば、犯人を取り逃がす結果になり、新たな犯罪被害者を生んでしまいます。
そうならないために、職務質問においても、必要最低限の有形力の行使が認められています。
職務質問における有形力の行使
職務質問の実行力を確保するために、強制にわたらない範囲内における有形力の行使が許されます。
有形力とは、たとえば、
犯人が逃げないように腕や肩をつかむ
といった直接的に力を加える行為をいいます。
では、職務質問において、どの程度の有形力の行使が適法なのかについては、法律に具体的な定めはないため、判例を見ながら、個別の事案を踏まえながら検討していくことになります。
以下の判例は、職務質問において、有形力の行使が適法とされた判例です。
広島高裁判例(令和2年11月17日)
覚醒剤使用の嫌疑のある犯人が職務質問を開始したところ、犯人が立ち去ろうとしたので、警察官が「待ってください。」と言って被告人の背後から肩に右手をかけて制止した行為を適法としました。
最高裁判例(平成15年5月26日)
職務質問を行うに際し、覚醒剤使用の疑いがある犯人が滞在するホテル客室において、犯人が内側から押さえているドアを押し開け,ほぼ全開の状態にして,内玄関と客室の境の敷居上辺りに足を踏み入れ,内ドアが閉められるのを防止した行為を適法としました。
最高裁判例(昭和52年9月22日)
交通違反取締中に、酒気帯び運転の疑いがある犯人が、エンジンのかかっている犯人の車の運転席に乗り込んで、ギア操作をして発進させようとしたので、警察官が、運転席の窓から手を差し入れ、エンジンキーを回転してスイッチを切り、犯人が運転するのを制止した行為について、職務質問を行うため停止させる方法として必要かつ相当な行為としました。
犯人の停止と警察署への任意同行における有形力の行使
警職法2条Ⅰ・Ⅱでは、
『警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる』
『その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる』
と規定し、職務質問において、
犯人を停止させ
警察署に同行を求めることができる
と明記しています。
ここで、犯人が停止しなかったり、警察署への同行を拒絶した場合は、犯人を停止させ、警察署への同行を求めるための、客観的に妥当な範囲内の有形力の行使が許されることになります。
留め置き
犯人の停止を求める行為や、任意同行自体が適法だったとしても、犯人をその場に留め置く行為(留め置き)が、特に薬物犯罪において違法と認定される判例があります。
たとえば、
- 覚醒剤を使用した犯人に職務質問をして停止させ、警察署に任意同行するまでに数時間かかった
- 覚醒剤を使用した犯人を警察署に同行した後、覚醒剤反応を確認するための尿検査を行うまでに数時間かかった
というケースが判例で見受けられます。
薬物犯人としては、警察署に行って尿検査をされると薬物反応が出て、捕まってしまうので、何としても抵抗しなければなりません。
そのため、警察官の説得と薬物犯人の抵抗の激しい綱引きが行われることになり、留め置きに長い時間を要してしまう状況が発生してしまうのです。
留め置きが違法となった判例
最高裁判例(平成6年9月16日)において、裁判官は、
『覚醒剤使用の疑いのある犯人に対し、警察官が犯人が車を運転するのを阻止し、約6時間半以上も犯人を現場に留め置いた措置は、犯人に対する任意同行を求めるための説得行為としてはその限度を超え、被告人の移動の自由を長時間にわたり奪った点において、任意捜査として許容される範囲を逸脱したものとして違法といわざるを得ない』
旨判示しました。
ちなみに、この裁判では、留め置き行為は違法と結論づけられましたが、裁判官は、
『違法の程度はいまだ令状主義の精神を没却するような重大なものとはいえない』
とも判示した上、その後に行われた強制採尿続は適法であり、犯人から得られた尿の鑑定書(覚醒剤反応あり)の証拠能力を認め、犯人は覚醒剤取締法違反で有罪になっています。
職務質問の権限が与えられているのは一般司法警察職員のみである
警察官は、「一般司法警察職員」と「特別司法警察職員」に分けられます。
「一般司法警察職員」とは、みなさんの周りにいる都道府県警察です。
「特別司法警察職員」とは、都道府県警察以外の職員で、犯罪捜査権を与えられている人たち(刑務所職員、労働局職員、海上保安庁職員など)です。
ここでのポイントは、職務質問を行う権限は、「一般司法警察職員」にしか与えられていない点です。
これは、職務質問を規定する法律である警職法は、「一般司法警察職員」である警察官に対してのみ適用される法律だからです。
なので、「特別司法警察職員」は職務質問を行う権限はないのです。
特別司法警察職員である刑務所職員、労働局職員、海上保安庁職員が道端で職務質問を行っていた場合は違法行為になります。
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