刑事訴訟法(公判)

公判の流れ⑱~「物証の証拠取調べの方法は展示による」「証拠物たる書面の証拠調べの方法は展示と朗読又は要旨の告知による」などを説明

 前回の記事の続きです。

 公判手続は、冒頭手続→証拠調べ手続 →弁論手続→判決宣告の順序で行われます(詳しくは前の記事参照)。

 前回の記事では、証拠調べ手続のうち、

  • 証拠書類(書証)取調べは「朗読」又は「要旨の告知」によること

を説明しました。

 今回の記事では、証拠調べ手続のうち、

  • 物証の証拠取調べの方法は「展示」によること
  • 証拠物たる書面の証拠調べの方法は「展示」と「朗読又は要旨の告知」によること

などを説明します。

物証の証拠取調べの方法

 刑事裁判で用いられる証拠の種類は、

  1. 人証(にんしょう)(証人・鑑定人・通訳人・翻訳人による法廷での証言による証拠)
  2. 証拠書類(書証)(供述調書、警察官が作成した報告書など)
  3. 証拠物(物証)(殺人事件で犯行に使われたナイフ、防犯カメラ映像が記録されたディスクなど)

に分けられます。

 前回までの記事で、人証と証拠書類(書証)の証拠取調べについて説明しました。

 今回の記事では、証拠物(物証)の証拠取調べを説明します。

 なお、刑事裁判において、検察官、被告人又は弁護人から、裁判官に対し、証拠として提出される証拠物を物証(ぶっしょう)と呼びます。

物証の証拠取調べは「展示」による

 検察官、被告人又は弁護人から裁判官に提出された物証は、「展示」という方法により証拠調べが行われます(刑訴法306条)。

 物証の代表例は、

犯行に使用された凶器

です。

 物証は、

その物の存在と状態(性質・形状)が証拠資料となる

ので、その証拠調べは、その物を公判廷で展示するという方法により行われます。

物証を展示する者

 展示は、裁判官が、物証の取調べ請求をした者に行わせるのが原則です。

 例えば、検察官が物証の取調べ請求をしたのであれば、公判廷において、検察官にその物証を掲げさせて展示します。

 裁判官が自ら物証を展示し、また、裁判所書記官に展示させることもできます(刑訴法306条1項)。

 検察官、被告人又は弁護人による物証の証拠調べ請求ではなく、裁判所が職権で物証を証拠調べをするものであるときは、展示は、裁判官が自ら行うか、裁判所書記官に行わせます(刑訴法306条2項)。

物証の展示の方法

 物証の展示の方法について規定がなく、適宜の方法で行えばよいとされます。

 一般的には、物証をかざして、その存在・形状を見せる方法が採られます。

 例えば、法廷において、検察官が物証を手に持って上にかざして、その存在・形状を裁判官、被告人、弁護人に見せる方法が採られます。

証拠物たる書面の証拠調べの方法

 物証(証拠物)の中には、その物の存在・形状だけでなく、物証に記載されている文章の証拠となるものがあります。

 このような証拠を

証拠物たる書面

といいます。

 証拠物たる書面の代表例として、名誉毀損罪における「名誉を傷つける内容が記載された文書」が挙げられます。

 証拠物たる書面は、物証たる性質のほか、書証としての性質も持っているので、その証拠調べは、

「展示」と「朗読又は要旨の告知」を併用する方法

で行われます(刑訴法307条刑訴法規則203条の2)。

(書証の証拠調べの方法が、「朗読」又は「要旨の告知」であることの説明は前の記事参照)

「証拠物たる書面」と「書証」を区別する考え方

 証拠物たる書面と一般の書証(証拠書類)を区別する考え方は、

  • その記載内容のほか、その存在又は状態も証拠となるものが「証拠物たる書面」
  • その記載内容だけが証拠となるものが「証拠書類」

という考え方になります。

 この点を判示した以下の判例があります。

最高裁判決(昭和27年5月6日)

 裁判官は、

  • 証拠となった書面が、証拠書類(刑訴305条)であるか、又は証拠物たる書面(刑訴306条307条)であるかの区別は、その書面の内容のみが証拠となるか(前者)、又は書面そのものの存在又は、状態等が証拠となるか(後者)によるのであって、その書面の作成された人、場所又は手続等によるのではない
  • 例えば、親告罪において、虚偽の事実を記載した申告状の如き、その書面の存在そのものが証拠となると同時にいかなる事項が記載されてあるかが証拠となるのであって、かかる書面が刑訴307条の書面であり、ただ書面の内容を証明する目的を有する書面は証拠書類である

と判示しました。

音声を録音した録音媒体の証拠取調べ方法

 犯行時の音声などを録音した録音媒体(スマートフォンやICレコーダーなど)は、録音の内容のほか、その存在自体も証拠となるので、その証拠調べの方法は、公判廷において、その録音媒体の音声の再生と展示の両方が必要となります(最高裁決定 昭和35年3月24日)。

映像を録画した録画媒体の証拠取調べ方法

 犯行時の映像などを録画した記録媒体は、その存在と内容が証拠となるので、その証拠調べの方法は、公判廷において、「展示」した上、再生機にかけて「再生」する方法が採られます。

次回の記事に続く

 次回の記事では、証拠調べ手続のうち、

裁判官の職権による証拠調べ

を説明します。

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