前回の記事の続きです。
公判手続の更新とは?
公判手続の更新とは
審理をやり直すこと
をいいます。
公判手続が更新されるのは、以下の①~⑤のときです。
① 開廷後、裁判官が替わったとき
裁判の途中で裁判官が交代すると、口頭主義、直接主義の要請にこたえるために、新たな裁判官のもとで公判手続をやり直す必要があります(刑訴法315条、315条の2)。
そのため、公判手続の更新が行われます。
裁判官1人で構成される「単独制」の体制をとっている場合、その裁判官が別の裁判官に替わったときは、公判手続の更新が必要になります。
裁判官3人で構成される「合儀制」の体制をとっている場合でも、裁判官が替わったときは、公判手続の更新が必要となります。
合議制とっている場合で、補充判官(裁判所法78条、補充裁判官は審理に立ち会っている)があるときは、補充裁判官が抜けた裁判官の代わりに入るので、公判手続の更新の必要はありません。
※ 裁判所の単独制と合議制の説明を前の記事参照
裁判官の交替があっても、審理を行っていなければ公判手続の更新は不要である
刑訴法315条の「開廷後、裁判官がかわったとき」の「開廷後」とは、「審理に入った後」の意味です。
なので、例えば、人定質問(人定質問は被告人の人定を確認する手続であり、審理ではない)を行っただけで裁判官が替わったような場合には、公判手続の更新は必要ありません。
また、審理に入った後であっても、後の裁判官の訴訟行為が「審理」でない場合は、公判手続の更新は必要ではありません。
例えば、
- 判決宣告を行うだけの場合(刑訴法315条ただし書)
- 公判期日の変更を行うだけの場合(最高裁決定 昭和29年6月16日)
- 証拠決定の取消しを行うだけの場合(最高裁決定 昭和28年9月29日)
は、公判手続の更新は必要ではありません。
② 簡易裁判所の事件を地方裁判所に移送して、地方裁判所でその事件の審理を行うとき
刑訴法332条に基づき、 簡易裁判所の事件を地方裁判所に移送し、移送を受けた地方裁判所がその事件の審理を行う場合は、事件の審理を行う裁判官が替わることになるので、刑訴法315条に準じ、公判手続の更新が行われます(最高裁決定 昭和29年7月14日)。
③ 被告人の心神喪失によって公判手続を停止したときで、公判手続を再開するとき
被告人の心神喪失によって公判手続を停止したときで、停止していた公判手続を再開するときは、公判手続の更新が行われます(刑訴法314条、刑訴法規則213条1項)。
これは、心神喪失の被告人が記憶を喪失しているおそれがあるので、その記憶を喚起させ、被告人に防御を十分にさせるための措置です。
④ 簡易公判手続の決定が取り消されて、通常の公判手続に移るとき
簡易公判手続の決定が取り消されて、通常の公判手続に移るときは、公判手続を更新する必要があります(刑訴法315条の2)。
簡易公判手続では、証拠調べ手続が簡略化されて行われるので、通常の手続に移る際には、証拠調べ手続をやり直す必要があるため、公判手続を更新が行われます。
ただし、当事者(検察官、被告人又は弁護人)に異議がないときは、公判手続を更新する必要はありません。
⑤ 開廷後、長期間、開廷しなかった場合で、公判手続の更新の必要があると認められるとき
開廷後、長期間、開廷しなかった場合で、公判手続の更新の必要があると認められるときは、公判手続の更新が行われます(刑訴法規則213条2項)。
これは、長期間、開廷されなかったことにより、裁判所や訴訟関係人の記憶が薄れている場合に、記憶を喚起させるための措置です。
公判手続の更新の方法
公判手続の更新の方法については、刑訴法規則213条の2に定めがあります。
刑訴法規則213条の2
公判手続を更新するには、次の例による。
1 裁判長は、まず、検察官に起訴状(起訴状訂正書又は訴因若しくは罰条を追加若しくは変更する書面を含む。)に基いて公訴事実の要旨を陳述させなければならない。但し、被告人及び弁護人に異議がないときは、その陳述の全部又は一部をさせないことができる。
2 裁判長は、前号の手続が終った後、被告人及び弁護人に対し、被告事件について陳述する機会を与えなければならない。
3 更新前の公判期日における被告人若しくは被告人以外の者の供述を録取した書面又は更新前の公判期日における裁判所の検証の結果を記載した書面並びに更新前の公判期日において取り調べた書面又は物については、職権で証拠書類又は証拠物として取り調べなければならない。但し、裁判所は、証拠とすることができないと認める書面又は物及び証拠とするのを相当でないと認め、かつ訴訟関係人が取り調べないことに異議のない書面又は物については、これを取り調べない旨の決定をしなければならない。
4 裁判長は、前号本文に掲げる書面又は物を取り調べる場合において訴訟関係人が同意したときは、その全部若しくは一部を朗読し又は示すことに代えて、相当と認める方法でこれを取り調べることができる。
5 裁判長は、取り調べた各個の証拠について訴訟関係人の意見及び弁解を聴かなければならない。