犯罪は、
- 即成犯(そくせいはん)
- 状態犯
- 継続犯
の3つに分類して考えることができます。
このテーマについては、前の記事で詳しく書いています。
今回は、『状態犯』と、状態犯とセットになって活躍する『不可罰的事後行為』について深掘りして書きます。
状態犯とは?
状態犯とは、
犯罪の結果発生と同時に、犯罪は完了するが(既遂に達するが)、侵害行為(法益侵害)の状態が続く犯罪
をいいます。
たとえば、窃盗罪です。
窃盗行為によって、窃盗罪は完了しますが、物を盗まれて手元にないという侵害行為の状態は続きます。
たとえば、財布を盗まれた人は、ずっと財布がなくて困った状態が続きます。
「侵害行為の状態が続く犯罪=状態犯」と考えればOKです。
不可罰的事後行為とは?
状態犯のおもしろい点はここからです。
上の例で、盗んだ財布からお金を抜いた後、証拠隠滅のため、財布を切り刻んだとします。
人の財布を切り刻んで壊したのだから、窃盗罪に追加して、器物損壊罪でも罰せられそうですが、罰せられません。
この現象を「不可罰的事後行為」といいます。
その名のとおり、「事後の行為を罰しない」という意味です。
そうなる理由を説明します。
窃盗罪は、状態犯なので、権利侵害の状態(違法状態)が続いています。
先行行為(窃盗罪)の違法状態が続いている中で、後行行為として行われた犯罪(器物損壊罪)は、犯罪として成立しますが、『先行行為(窃盗罪)によって、包括的に処罰すればよいから罰しない』という考え方がとられます。
(この考え方を「包括一罪説」といいます。)
包括的に処罰するとは、財布を切り刻んで壊したという悪性の事情を考慮し、窃盗罪の方でより重い刑罰を科すという意味です。
器物損壊罪では罰しない分、窃盗罪で重く罰するということです。
たとえば、「財布を壊さなければ懲役3年の窃盗罪だったけど、財布を壊したから懲役5年の窃盗罪にする」という感じです。
まとめると、
- 違法状態が続く状態犯において、事後的に行われた犯罪は罰しない
- この事後的に行われた犯罪を「不可罰的事後行為」という
- 事後行為を罰しない理由は、先行行為の方で重く罰するからである
となります。
不可罰的事後行為とならない場合(事後行為でも罰せらる場合)
事後の犯罪行為も罰せられる場合があります。
不可罰的事後行為として、事後の犯罪行為が処罰されないのは、事後の犯罪行為に新たな権利侵害(法益侵害)が生まれない場合に限ります。
そのため、事後の犯罪行為でも、新しい被害者を生んだ場合は、その事後行為は、しっかりと罰せられます。
たとえば、貯金通帳を盗み(先行行為としての窃盗罪)、盗んだ貯金通帳を利用して、郵便局で貯金の払い戻しを受けた場合(事後行為としての詐欺罪)は、事後の犯罪行為だとしても、詐欺罪が成立します【最高裁判例S25.2.24】。
これは、新しく第三者(郵便局)の権利を侵害したからです。
不可罰的事前行為
不可罰的事後行為とは逆の「不可罰的事前行為」というものがあります。
たとえば、殺人罪予備罪(殺人の準備をする罪)を犯し、その後、殺人罪を犯した場合は、殺人罪だけが成立します。
先行行為の殺人予備罪は、殺人罪に吸収され、不可罰になるという考え方です。
この先行行為の殺人予備罪を「不可罰的事前行為」といいます。
それ自体は可罰的な行為であっても、基本的犯罪の予備的・未遂的段階にあるため、基本的犯罪に包括して評価されるという考え方がとられるのです。