刑法(総論)

刑罰(13)~「刑の加重・減軽の方法・順序」を説明

 前回の記事の続きです。

刑の加重・減軽の方法・順序

 刑の加重・減軽には方法・順序が決まっています。

 法定刑を加重・減軽して処断刑を得るための方法・順序に関する準則を「加重減軽の方法」といいます(刑法68条69条70条71条72条)。

刑の減軽の方法

 刑の減軽の方法は、刑法68条に規定があります。

刑法68条(法律上の減軽の方法)

法律上刑を減軽すべき一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による。

  1. 死刑を減軽するときは、無期又は10年以上の拘禁刑とする。
  2. 無期拘禁刑を減軽するときは、7年以上の有期拘禁刑とする。
  3. 有期拘禁刑を減軽するときは、その長期及び短期の2分の1を減ずる。
  4. 罰金を減軽するときは、その多額及び寡額の2分の1を減ずる。
  5. 拘留を減軽するときは、その長期の2分の1を減ずる。
  6. 科料を減軽するときは、その多額の2分の1を減ずる。

 例えば、

  • 死刑を減軽し、無期拘禁刑にすることができる
  • 死刑を減軽し、10年以上30年以下の有期拘禁刑にすることができる(刑法14条1項
  • 無期拘禁刑を減軽し、7年以上30年以下の拘禁刑にすることができる(刑法14条2項
  • 有期拘禁刑である窃盗罪(刑法235条:拘禁刑の法定刑…10年以下の拘禁刑)を減軽し、5年以下の拘禁刑にすることができる
  • 罰金の刑がある窃盗罪(刑法235条:罰金の法定刑…50万円以下の罰金)の罰金を減軽し、5000円以上25万円以下の罰金にすることができる(刑法15条
  • 拘留の刑がある暴行罪(刑法208条)の拘留を減軽し、1日以上15日以下の拘留にすることができる(刑法16条
  • 科料の刑がある暴行罪(刑法208条)の科料を減軽し、1000円以上5000円未満の科料にすることができる(刑法17条

という考え方になります。

刑の加重の方法

 刑の加重には、

  1. 累犯加重
  2. 併合罪加重

があります。

 累犯加重の考え方は、「累犯加重の考え方」の記事参照。

 併合罪加重の考え方は、「併合罪加重の考え方」の記事参照。

刑の加重・減軽の順序

 刑の加重・減軽の順序は、刑法72条に規定されています。

刑法72条 加重減軽の順序

 同時に刑を加重し、又は減軽するときは、次の順序による。

  1. 再犯加重
  2. 法律上の減軽
  3. 併合罪の加重
  4. 酌量減軽

① まず、累犯加重を行います(「累犯加重の考え方」の記事参照)。

 刑法72条は「再犯加重」という言葉を使っていますが、累犯加重の意味です。

② 次に、法律上の減軽を行います(「法律上の減軽」の記事参照)。

③ その次に、併合罪加重を行います(「併合罪加重の考え方」の記事参照)。

④ 最後に、酌量減軽(「裁判上の減軽」ともいう)を行います(「裁判上の減軽(酌量減軽)」記事参照)。

①~④の加重・減軽を全て行う場合の計算方法

 例えば、窃盗罪(刑法235条:拘禁刑の法定刑…10年以下の拘禁刑)において、①再犯加重、②法律上の減軽、③併合罪の加重、④酌量減軽を全て行う場合の考え方は以下のようになります。

 窃盗罪の拘禁刑の法定刑について、拘禁刑の短期は1月以上なので(刑法12条1項)、窃盗罪の拘禁刑の法定刑は、「1月以上10年以下の拘禁刑」となります。

① まず、再犯加重を行います。

 再犯加重は長期が2倍となるので(刑法57条)、再犯加重後の窃盗罪の処断刑は「1月以上20年以下の拘禁刑」となります。

② 次に、法律上の減軽を行います。

 今回は、イメージがわきやすいように、自首刑法42条1項)により刑が減軽されたとします。

 「有期拘禁刑を減軽するときは、その長期及び短期の2分の1を減ずる(刑法68条3号)」ので、①で計算した「1月以上20年以下の拘禁刑」の短期(1月)と長期(20年)に2分の1をします。

 法律上の減軽後の窃盗罪の処断刑は「15日以上10年以下の拘禁刑」となります。

※ ここでは1月を30日として計算することにします。

※ 有期拘禁刑を加重する場合においては30年にまで上げることができ、これを減軽する場合においては1月未満に下げることができます(刑法14条2項)。

③ 次に、併合罪の加重を行います。

 今回は、イメージがわきやすいように、窃盗罪のほか、併合罪関係にある暴行罪(刑法208条:拘禁刑の法定刑…2年以下の拘禁刑)も起訴され、窃盗罪と暴行罪の両罪で一つの判決を受けるということにします。

 併合罪加重は、「併合罪のうちの二個以上の罪について有期拘禁刑に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする(刑法47条本文)」します。

 窃盗罪(法定刑:10年以下の拘禁刑)と暴行罪(法定刑:2年以下の拘禁刑)では、窃盗罪の方が法定刑が重いので、②で計算した窃盗罪の長期にその2分の1を加えたものが長期となります。

 上記②で計算した「15日以上10年以下の拘禁刑」の「10年以下の拘禁刑」について、その2分の1を加えるので、10年+5年(10÷2)=15年が長期となります。

 よって、この時点で、併合罪加重後の処断刑は「15日以上15年以下の拘禁刑」となります。

 しかし、刑法47条ただし書きにより、「それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない」となるので、窃盗罪の長期と暴行罪の長期の合計は「10年+2年」で「12年以下の拘禁刑」となるので、「12年」を超えることができません。

※ 暴行罪の長期についても①再犯加重(2年×2=4年)、②法律上の減軽(4年÷2=2年)をしたことにます。

 したがって、併合罪加重後の処断刑は「15日以上12年以下の拘禁刑」となります。

④ 最後に酌量減軽を行います。

 今回は、被告人が窃盗の被害者に十分な被害弁償をし、被害者も被告人を処罰してしないでほしいと嘆願している事情が考慮され、刑の酌量減軽(刑法71条)が行われたとします。

 「有期拘禁刑を減軽するときは、その長期及び短期の2分の1を減ずる(刑法68条3号)」ので、③で計算した「15日以上12年以下の拘禁刑」の短期(15日)と長期(12年)に2分の1をします。

 酌量減軽後の処断刑は「7日以上6年以下の拘禁刑」となります。

※ 短期(15日)について、刑法70条により、「拘禁刑又は拘留を減軽することにより一日に満たない端数が生じたときは、これを切り捨てる」とあるので、「15日÷2=7.5日」となり、1日に満たない端数(0.5日)は切り捨てるので、「7日」となります。

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